第3話~匂いに釣られて登場~

「それじゃあ食べるとするか。いただきます」

「「いただきまーす」」


 完成した穀物と野菜のスープと焼き魚をそれぞれ1つずつ取り、切り株で作られた椅子に座って食事を始める。

 出来立てで熱々のスープを匙で掬って息を吹きかけて少し熱を冷ましながら食べる2人。ミリアは汁物を冷まし足りなかったのか、「あつっ……あつっ」と言って汁物を飲んでから舌をペロリと出して舌を外気に当てていた。そんな様子を眺めつつ俺も汁物を口に運んでいく。


「自分が林で戦ったラグヮジャの群れへの対応はどうでありましたか?」

「そうだな、概ね問題なかったと思うよ。それにしてもあの長くて重い槍で次々飛び掛かって来たラグヮジャを的確に打ち落とす技量は素晴らしかったと思うぞ」

「それほどでもないでありますよ~」


 俺たちは食事を摂りながら今日の魔物との戦いの反省会を行う。アンには林で戦闘した8体のラグヮジャの群れの対応の話だった。

 ラグヮジャは素早く飛び跳ねることが得意な四足歩行の獣型の魔物。体長は30~50センメラーほどだ。魔物としては小柄な部類でそこまで獰猛では無いものの、それでも大の男を気絶させるほどの体当たりをブチかましてくる魔物だ。

 その際にアンが弱そうに見えたのか、ラグヮジャが一気に5体飛び掛かって来た。だが彼女は顔色も変えずに最低限の動きで鉾槍を振るってラグヮジャを打ち落としたのだ。

 俺の言葉に照れながら答えるアンだが力量は相当高い。俺がこの娘に教えられるようなことがあるのだろうかと改めて思った。


「そうだ、ミリアはどうだった?一応俺たちが前衛には居るけど俺たちの動きで魔術が撃ちづらかったりとかは無いか?」

「いえ、そんなことは全然ないですよっ?」

「本当に?」

「え……っと本当はたまに攻撃の指示が見えづらい事があって。多分盾の裏地の色と指が被って見える事が」

「すまない。たしかに木の色そのままじゃ見づらいかもしれない。街に着いたら染料でも買って色を変えるよ。ありがとう」


 次はミリアに話を振る。彼女は魔術での攻撃を得意にしており、基本的に攻撃は彼女に任せているのだが俺たちが魔術で巻き添えを食わないように攻撃の機会を指示することがある。

 声で指示をすることがほとんどだが、魔族相手になれば人語を解する者も多く、声を聞かれれば攻撃の察知されるので後ろ手で指し示す形の指示の練習もしていた。

 その際に俺の指と盾の裏地が被って見えてしまい、指示が分からないことがあったらしい。

 しかし彼女は言いづらかったのかそれを黙っていた。だがミリアは嘘が下手なようで俺に話を振られて明らかに目を逸らして、返答も妙に語尾が上がって不自然だった。

 もう一度尋ねるとやっと思っていたことを答えたので俺は素直に謝り、指摘してくれてありがとうと返した。

 言った側が気に病んでしまい、意見を言うことに委縮してしまっては全くの意味が無い。

 ミリアは恐縮しつつも「はい」と返事をした。


 俺は反省会を進めつつ次は焼きたてのマッサオを頬張る。大きくて食べ応えのあるマッサオの塩焼き。魚は宿でも割と口にする機会は多いのだが、こうやって自分で釣り上げた魚をそのまま焼いて食べる。これに勝る食べ方は俺の中ではそうそう無い。

 マッサオはほんのりと赤みがかった魚肉で味は癖が無くあっさりとした味わい。川魚は癖が強いものも多く、それが苦手な人でも比較的食べやすい魚だ。

 皮は少し固めではあるが、骨は非常に柔らかくそのままバリバリと食べてしまってもそこまで問題はない。


「う~ん、この魚、非常に美味でありますなあ!」

「あ、ホントだ。美味しいです」


 アンは俺と同じように豪快に胴体部分に一気にかぶりついて食してからこちらに満面の笑みを向けながら力強く味の感想を言う。俺もニコリと笑顔を返して「ああ、中々イケるだろう?」と答えた。

 ミリアはあまりこういった食べ方をしたことが無かったのか、少し遠慮がちにカプッといった感じで小さく齧ってから言う。


 とりあえず2人の口に合ったようで良かったと安堵しているところで俺たちが今いる野営地を囲んでいる茂みの一角がガサガサと揺れ始めた。気になるほど音を立てて茂みが揺れているのに他の茂みや近くの木の枝が揺れていないところを見ると明らかに風ではなく何らかの生物がその茂みに居るのは明白だった。


「ミリア、アン」

「「はい!」」


 さすがもう既に態勢を整えている2人に声を掛けて武器を手に構える。俺は茂みを見据える。アンとミリアはこれが陽動であった時のためにその他の場所への警戒をしてもらう。

 しばらく茂みの音が聞こえ続けるものの、周囲の場所から何か飛び出すことも無い。これは茂みの中に居る何かだけのようだ。そしてこれだけ音を立ててしまうということは大したことはないと考えられるが、油断は禁物だ。

 茂みの音が少しずつ近づくに連れて何かの影が形作ってきた。その影はどうも人のように見える。人型なら魔族か他の冒険者か。どちらにせよそれならばこちらの言葉が分かるかもしれない。


「お前は何者か!」


 俺は茂みの人影に向かって声を発したが返答がない。しかし人影はこちらに近づいて来る。俺は二度三度と「何者か答えろ」と言うがやはり返答は無し。俺たちは人影に向かって戦闘態勢をとる。

 人影がその全貌へとはっきりと姿を変えていく。何の警戒も無く現れたのは10代前半から半ばくらいに見える幼い少女だった。

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