第2話Part.4~みんなで料理をしよう~
「ミリアは火を見てもらえるかな?アンは俺と具材を切ろうか」
「分かりました。それじゃあ火を点けますね。ラ・アローヴ」
「了解であります!」
釣りを終えて俺たちは夕飯の準備をする。野営の最中は基本的に穀物のバクを鍋で炊いた汁物が主食となる。穀物から摂取できる栄養が冒険には特に欠かせず保存が利きやすいものなので冒険食の強い味方だ。
まずは鍋に水を入れて、そこにバクを適量入れる。ミリアが火の魔術で竈に火を起こして鍋を炊いて行く。そうした後にUのような形になった竈の開いている部分にさっき釣った魚に串を突き刺し通して遠火で焼き始めた。
俺たちはバクを炊いている間に具材を切る。いくら旅にバクが付き物とは言ってもバクだけではさすがに味気なさすぎるので野菜を少々加えたい。
野菜も保存が利くように塩漬けされたもので風味にはかけてしまうが塩漬けなので汁物に味付けで塩を入れなくてもいいというのはちょっとした利点かもしれない。
アンは濃い橙色で形はまるで馬上槍のような形をしたザニンという野菜、俺はギーネンと呼ばれる野菜を切る。こちらは上部の茎のように見える葉と下の球根どちらも食すことができる野菜だ。
「少し火を弱めたいんですけど、大丈夫ですか?」
「分かった。野菜の準備はできた。アンも大丈夫か?」
「はい!問題ありません!」
ミリアから鍋が沸騰してきたので火を弱めるという声が飛ぶ。一度沸騰はさせるがずっとグツグツ炊いては食材が焦げ付いてしまうので少し気泡が出る程度くらいまで火を弱めたい。
だがその前に俺とアンが切った野菜を投入する。新たな具材を投入すれば当然温度が下がるので先に入れた方が調節しやすいからだ。
野菜を入れた後にミリアは火を調節していく。火に少しずつ砂をかけて火を適量になるまで消した。
ここまでくれば後は具材にしっかりと火が通るまでに調味料で味を調えて待てばいい。ミリアはお玉と盛り付けの皿を持ってそのお玉で更にスープを少し掬い取って皿に垂らす。味見をするためのようだ。
彼女は皿をクイっとあおって味見をする。俺とアンはそんな彼女をじっと見つめて表情を窺う。2人からじっと見つめられるミリアは「なんですか~。そんなに見つめられると恥ずかしいです」と俺たちに苦情を言う。
まあたしかにただの味見で2人からジーっと見られ続けるのは恥ずかしいというか奇妙な感じになるのは分かる気はする。
「私は大丈夫だとは思うんですけど、ブレイドさんも味見してみてください」
ミリアは特に問題は無いと思ったようだが、俺の好みに合うかどうかは分からないから味見をしてほしいと言われ、彼女が今さっき味見をした皿を渡された。ニコニコと笑顔を見せながらこの更にスープを盛るミリア。
このミリアの様子を見て、俺は朧気に残っている両親のことを思い出した。父と母は仲が良く、母が料理を作った時には自分が味見をした後に「パパ、味はどう?」なんて言ってよく父に味見をさせていた。「おいしいよ、さすがはママだ」と父は言っていた。実際母の作った料理はすごくおいしかったのを思い出す。
俺はミリアから皿を受け取って味見をする。味は不味くはないが美味とは言えない。旅の空の下で保存の問題で限られた食材と高いので数少ない調味料。そして皆料理を学んでいたわけでもないのでこれは仕方がない。
「口に、合いませんでし……あっ」
「……?」
「ご、ごめんなさい。私つい慌ててお皿をそのまま。ご、ごめんなさい!洗ってきます!」
「一体何があったのでありますか……?」
「難しい年頃なんだろう」
「ブレイド殿もでありますか?」
「ま、まあそうかもな」
「お悩み事ならいつでも聞きます!」
「あ、ありがとう。心強いよ」
ミリアは最悪のタイミングで気がついてしまった。自分が使った皿をそのまま俺に渡していたことに。ミリアは自身のやらかしが相当衝撃だったようで顔を真っ赤に染め上げながら持っていたお玉を落としてしまう。
ミリアはお玉と俺が持っているお皿を持って川の方へと走って行ってしまった。俺も何となく言いそびれてしまいミリアに恥ずかしい思いをさせてしまった。一応スープの跡を見てミリアが口を付けた部分は避けたと思うがそういう問題ではない。
そしてこのやり取りの一部始終を見ていたアンはどうしてこうなってしまったのかを理解できていないようで、アンに問われた俺は適当に誤魔化したが1歳しか歳が違わない俺もそうなのかと聞かれて自分もそうかもしれないと苦笑いだった。
それに対してアンは真っ直ぐな瞳で俺に悩み事があればいつでも聞きますと言って来た。この娘は真っ直ぐで良い子だ。なんか誤魔化そうとした自分が恥ずかしく感じる。
「お、お待たせしましたぁ……。アンちゃんも味見してみて?」
「了解であります!……う~ん、おいしい!」
「よかったぁ。ぶ、ブレイドさんはどうでしたか……?」
「え?あぁ、よかったと思うよ」
全速力で川へ行き、全速力で戻ってきたようで竈の周辺で右手を胸に当てて前傾姿勢のまま肩で息をしている。しばらくそんな体勢が続いた後にアンにも味見を勧めるミリアはさっき洗ったばかりで少し濡れている皿ではなく別の皿を渡してそこにスープを盛った。アンは受け取ったスープを飲むと力を込めておいしいと言って答える。
とりあえず主食の準備はできた。あとは魚が焼けているかどうかだ。白銀色だった鱗は焦げ目がついてパリッとした状態になっており、見た目的には焼けているように見えるが中身はどうか分からない。そこで俺はナイフで魚の腹を軽く裂いて中を確かめる。しっかりと火が通っているようだ。
「よし、調理もできたし早速いただくことにするか」
「そうですね」
「はい!」
調理が終わったので早速作った料理をいただくことにする。日は完全に落ちて空は真っ暗になっていた。
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