本気の侵略者

切見

第1話

ある一人の人間が、超能力を手に入れた。

それは、この世に存在するには強大すぎる力だった。

戦後まもなく。

世界中で、数人の能力者の存在が確認される。国によっては、能力の発現率が多い国があった。

日本もそのうちのひとつだった。

人々は、能力者を恐れ、嫌い、憎しみ、妬み、迫害した。

しかし能力者は増加するばかり。

いつしか能力者は、無能力者の数を超えたのだった。

そして無能力者は、ことごとく排除された。

「能力を持たない無能力者など、まさしく無能だ」と。

その後、無能力者は『旧人類』と呼ばれ、この世を追い出された。

もはや旧人類に居場所は無く、見つかればすぐに排除されてしまう。

そんな世界で、未だ生き延びている旧人類がいた。



──────────



この世界は間違っている。

腐った世の中だ。

この世界に生きる人々の、ほとんどが間違っている。

そんな世界に生まれてしまった俺もまた、間違えたのかもしれない。


「おはよう!いっくん」


元気に手を振りながらこちらへ来る彼女は、神橋 実梨(かんばし みのり)。

俺の幼馴染みで、同じ高校に通っている。

元気が取り柄の彼女は、その取り柄を余すところなく使いこなしていた。


「おはよう。実梨」

「今朝は暑いね。溶けちゃいそうだよ」

「はは、本当だな。でももうすぐ学校に着く。そしたら、エアコンが待っているさ」


昔は、全ての学校にエアコンが着いていたわけじゃないらしい。

今となってはありえない話だが、ではどのようにしてこの猛暑を乗り切っていたのだろうか。


「よし、じゃあ学校まで競走しよ!」

「馬鹿言え、そんなことするわけ──────」

「よーい......どんッ!!」

「......」


実梨は、一人で走って行ってしまった。

こんな暑い中、朝からよくもそんな元気を出せるな。まぁそれが取り柄なと言ったばかりだが。

申し訳ないが、俺は運動が苦手だ。

それか実梨の誘いだとしても、俺は走ることはしない。

しかし、やはり申し訳ないと思いつつもゆっくりと登校した。

実梨は、本当にいつも元気だ。

とても素直で、正直で......俺とはまるで真反対な性格。実梨は、周りの人まで元気にしてくれる。

そんな実梨に俺は、秘密にしている事がある。

それは───────


「あ、いっくん遅ーい」


教室へ入ると、実梨が仁王立ちで待っていた。

教室には、まだ誰もいない。

俺達の朝は早いのだ。


「あぁ、悪い」


いつものように、俺は軽く謝った。

実梨はニパッと笑顔を浮べ、「よろしい。許す」と言った。

俺達はいつもこんな感じだ。


「そう言えば、隣のクラスの前田......だったか。襲われたらしい」

「......」

「最近多いな......『辻斬り』。まぁ今に始まったことじゃ無いが。昔、まだ無能力者がいた時代では、能力者に反旗を翻すために『能力者狩り』が行われていたようだ」


無能力者......かつて、この地上を支配していたとされる、昔の人類。

今となっては古い存在だと言われているが、そう遠くない過去の話。

ほんの数十年前までの事だ。


「その話......あんまり得意じゃないなぁ」

「あぁ、悪い。暗い話はよそう。まぁ、くれぐれも気をつけて欲しいということだ」

「それを言うならいっくんこそ。今どき『能力者』だなんて言い方しないよ」

「......そうだな」


ほんの数十年前とは言ったものの、既に地上は能力者のものとなっている。

その時に、無能力者は全て排除された。一人残らず、女子供も見境なく。

絶滅された。

だから、今回の件が生き残りの無能力者によるものだとは言わない。

可能性としてはゼロではないものの、限りなくゼロに近いだろう。

しかし、夜な夜な街の人が襲われているのは事実だ。それが何にせよ、気を付けなくてはならない。


「あ、いっくん時間大丈夫?今日はいつもよりもちょっと遅めに学校に着いたから」

「そうだな。じゃあ、そろそろ行くか」


俺達は教室を出て、ある場所へと向かった。

そこは、割と校内の端の方にある部屋。

俗に言う、生徒会室という所だ。

そう、俺は生徒会。

この支丘高等学校(ささおかこうとうがっこう)で、会計を務める者だ。

実梨は生徒会では無いが、教室で一人ぼっちにさせておく訳にもいかず、生徒会の手伝いもするし皆に好かれているという理由から、「役割は無いがほぼ生徒会」という立場にいる。


「おっはよーうございまーす!」


実梨が元気に生徒会室の扉を開けると、中には既にメンバーが揃っていた。


「遅い!」

「遅くないですよ。時間ピッタリです。てか、それ毎回言うじゃないですか」


毎回俺に対して、遅いと言うこの人は生徒会長こ篠乃宮 摘音(しののみや つみね)。

イベント好きで、はっちゃけているが、いざと言う時は頼りになる。生徒会唯一の三年生で、割と一番厄介な人。

この前なんて、俺の方が先に生徒会室へ来て待っていたのに、後から入って来た生徒会長が「遅い!」と言ったのには衝撃を受けた。俺は一体どうすればいいんだ。


「遅刻では無いが、時間ピッタリなら良いというものでも無い。出来れば、五分以上前には来ておくのが理想だ」


先生みたく、硬っ苦しいことを言う男。この人は副会長の薄池 雄二(うすいけ ゆうじ)。二年生。

先の言葉の通り、硬派な男で、正義感が強く、融通が利きづらい。

何故か俺のことを敵視している気がする。


「すみません......」


すると突然、カシャリと音がした。

シャッター音だ。


「先輩......またですか?」


音のした方向を見ると、そこにはカメラを構えた人の姿があった。

俺はカメラには詳しくないが、それが良い品物だということは大体分かる。

そんなカメラを持つ女子高生、新田 美羽(にいだ みう)。書記だ。こちらも二年生の先輩で、一言で言えば大人しいミステリアスガール。

見た目通り、趣味は写真で、常にカメラを持ち歩いている。


「あの、毎回俺が怒られる度にシャッター切るのやめてもらっていいですか......?」

「何故です?私は、貴貝塚君のそういう姿が一番好きです」

「いや、そういう姿って......」


怒られている姿の事だったら、相当な性癖だ。

お願いだからやめて欲しいものだ。


「分かったらさっさと座って仕事をしろ」

「......はい」


俺は、席について自分の仕事に取り掛かる。

俺は会計だからな。

そう、生徒会会計の貴貝塚 一隆(きかいづか いちたか)。実梨を抜けば、生徒会唯一の一年だ。


「そうだ、会長に」

「あぁ、」

「さすがいっくん!記憶力良いねぇ〜神だよぉ」


そう、俺は他人よりも記憶力がいい。

絶対記憶能力。それが、俺の能力だ。

生徒会に入った理由はとても簡単なもので、俺の能力が生徒会向きだったと言うだけ。

ただ、それだけだ。

この地味な能力のせいで、俺は生徒会になってしまったというわけだ。

俺はそんなに生徒会向きな能力だと思っていないが、会長が言うにはそうらしい......よく分からない。


「それだけが取り柄だからな」

「あー!ユージ先輩ったら、ひどーい!」

「事実を言ったまでだ。取り柄があるだけマシだろう。それに、記憶なんて忘れていった方がいい」


確かにそうだ。

取り柄もなく、ただの平凡過ぎる男子高校生よりは、まだ俺は平凡では無いのかもしれない。

まぁ、超能力者まみれのこの世界においては、平凡どころか寧ろ落ちこぼれだと俺は思うがな。

なぜなら、この生徒会はただの生徒会では無い。

性格は変人揃いだが、中身は超エリートな学生なのだ。

まず、生徒会長。

能力は『能力無効化(スキルキャンセル)』。超能力を無効化する能力だ。

まるでラノベの主人公が持っていそうな能力だが、これが本当に強い。

一昔なら評価も違うだろうが、超能力者しか存在しない今、会長の能力は最強だ。

そしてその能力のお陰で、学校の治安を維持できていると言っても過言ではない。

だからこそ、会長なのだ。

次に副会長。

『炎地獄(ヘルファイア)』という厨二くさい能力を持ち、「地獄の業火で全てを焼き尽くす」......らしい。

これは俺の言葉ではない。本人がそう言っていたんだ。

そして、美羽先輩。

『隠し腕(ハイドアーム)』。

通常腕に追加で、見えない腕を持つ。精密なことも可能で、本人の意思がなくとも自動で字を書くことも可能。まぁ手動だけど。

俺の能力は、どちらかと言えば書記の方が適していると思っていたが、この人ならば確かに俺よりも向いてる。

なぜなら、美羽先輩の速書きは、速いなんてものじゃない。二本の腕で同時に書いているのだから、単純に倍の仕事量を持つ。

と、まぁそんな所だ。

こんなエリート達に囲まれていて、劣等感を抱かないわけが無い。

しかし、せっかく俺をスカウトしてくれた生徒会長のためにも、断る訳にはいかないと思ったのだ。

そして、この現状がある。


「あ、そうだ。まだ生徒会に入って間もない一隆のために、明日歓迎会を開こうと思うんだ。空いてる?」

「明日......ですか。今のところは何も予定は無いですけど、わざわざそんな、いいですよ」

「何言ってんの。か、勘違いしないでよね!べっ、別に、あんたのために開くわけじゃないんだからね!」


と、会長はツンデレ風に言ってきた。

俺のためじゃないなら、一体誰のために開く歓迎会なのだろうか。


「まぁそういうパーティーとか、定期的に開いておかないとさ。モチベ続きにくいし、楽しいことやってる方が思い出もできていいでしょ?ずっとこうして、仕事ばかりしているより」


それもそうだ。

漫画やアニメのように、生徒会が学校を支配しているような所ではない。

思っているよりも、生徒会の仕事は少ないのだ。


「嬉しくないかい?」

「いえ、そんなことは......嬉しいですよ」

「なら宜しい。それじゃあ、今日の仕事もさっさと終わらせちゃおうか」


──────────


空の色は橙色に変わり、日も落ちて来た頃。やっと俺は帰るところだった。

今日は、生徒会の仕事が少し長引いてしまった。

実梨には先に帰ってもらっているし、久しぶりに一人の帰り道となる。

一人の時は、近道を使う。

裏路地を通って行くと、普段よりも五分ほど短縮出来るのだ。

普段は実梨に怒られるから通らないのだが......。


「......ん」


薄暗い道。

建物の隅に、何やら大きな物が転がっている。

それは、長くて細い物だ。まるで人のような......


「なッ!?」


俺は、急いでそのものに駆け寄った。

近くで見て、すぐに分かった。

それは、長い青髪の女性。

アイマスクに口枷、顔はほとんど分からないほど隠されている。

そして両腕、両足ともに拘束されており、足には何も履いていない。

まるで、拘束衣。

囚人のように、動けないよう縛られているようにしか見えなかった。


「お、おい!どうしたんだ!」


死体の可能性もあった。

誰かに殺された死体が、ぐるぐる巻きにされて放置されていたという可能性が高かった。

だが、こんな綺麗な髪をした女が、死体には到底見えなかったのだ。


「大丈夫か!?」


アイマスクを外す。

両腕を拘束されていて、自分で外すことは不可能のはずだか、それでも念入りに拘束は硬かった。

そしてアイマスクを外すと、中から美しい瞳がこちらを覗いていた。

それは、思わず見とれてしまうような美しさだった。


「外国......人......か?」

「やっと見つけた」


突然、通路の向こうから声がした。

重たそうなベストに、丸いヘルメット。顔には、ガスマスクを装着している。

見た目は完全に、どこぞの特殊部隊だ。

そんな装備の人が二人、こちらに向かって歩いて来ていた。


「おいお前、そいつを渡してもらおうか」


......最悪だ。

変な状況に巻き込まれてしまった。

何が最悪かと言うと、この人達......声からして男だろうが、この二人の男が手に持つもの。俺に容赦なく向けているもの。

そう、銃だ。銃口を俺に向け、話しかけ来ている。

アサルトライフル。それこそ、特殊部隊の持っていそうな武器だ。

超能力者の蔓延る現代において、銃というのはただの玩具だ。人を殺傷する力はあっても、昔に比べれば相当難しくなったものだ。

だが、こうも簡単に銃を向けるということは、躊躇わずに撃つぞという意思表示でもある。

おそらく、男のどちらかは銃を使った能力を持っているのだろう。そうでなければ、俺がどんな能力を持っているか知らない限り、能力者を相手するのは厳しいものだ。


「大人しく渡せば、命は助けてやる」

「......」


ここは大人しく両手を上げ、降伏のサインを出した。

俺は特に悪いことをした覚えはないが、この女性とぶつかっただけでこの仕打ちだ。

ったく、帰り道は選ぶべきだな。


「......分かった」


俺は、転んで倒れている女性からゆっくりと離れた。

別に、この女性を庇う義理は俺には無い。

最低だと言うのなら勝手に言え。呪うなら呪え。

それでも俺は、こんな所で変な奴らに絡まれている時間は無いんだ。

見たところ特殊部隊......所属は警察っぽい見た目だ。もし目をつけられでもすれば、俺は今度相当動きにくくなる。

......俺の、夢を実現できなくなる。

だから申し訳ないが、ここでお別れだ。


「よし、回収するぞ」


もしここでこの女性を助ければ、俺は主人公になれたかもしれないな......アニメや漫画なら、ここであの男二人を倒していることだろう。

だが、俺は主人公じゃない。

ただ、変な事件に巻き込まれただけの男子高校生だ。

武装した特殊部隊兵二人を相手に、記憶能力で勝てるとは思えない。

いや、勝てるわけが無いのだ。

俺と同じ状況なら、誰もがそう思うことだろう。


「回収完了。これより帰還します」


女性は特に抵抗する様子もなく、普通に持ち上げられた。

逃げ出したのなら、もっと嫌がるはずだが......諦めたかのように大人しくしていた。

男達は女を拾うと、どこに向かってか報告をした。この二人は特殊部隊の派遣された人達で、雇った人物が他にいるのだろう。

まぁ、知りたくもないが。そんな面倒なこと、巻き込まれるのは御免だ。


「お前学生か?」

「......?はい」

「こんな所、通るんじゃない。特に夜は危険だから、学生は振らつくな」

「......はい」

「それと......」


男が振り返り、銃をこちらに向ける。

俺はその意味を、理解できないような馬鹿ではない。

これからその銃をどうするか、銃でどうするかなんて、想像できないわけが無い。


「悪いな」

「ッ!?」


パパンッ。

大きな破裂音がこだまする。

痛みはなかった。

本当に痛い時は、実は痛みがないと聞く。

しかしそれは一瞬のことで、後からジワジワと撃たれた場所が熱くなる。

俺は、腹に二つ穴が空いていた。

後ろに倒れる。


「何だよ、雑魚能力者か」

「目撃者は男子学生。制服からして近くの高校だろう。排除した。これより帰還する」


腹が痛い。

あぁ、クソ。

こんな所で、俺は死ぬのか。

こんなことで、俺は死ぬのか。

トドメを刺さなかったのは、証拠を残さないためだろう。

プロならば、頭を一撃で撃ち抜くことも可能だったはずだ。

しかしそれをすれば、プロが行ったと疑われてしまう。

事件性を装うために、下手な位置を撃ったのだろう。

......などと、考察している余裕は無いんだがな......。

段々と意識が遠のいて行く。


────────生きたいか?


......何だ?

薄らと聞こえる声......これは、女の声だ。

一体誰なんだ......?


────────このまま死んで良いのか?


良いわけがない。

死にたくなんてない。

まだやり残したことが沢山ある。

やり残したことが......そう、やり残したことがあるんだ。

だから......。


────────ならば見せてみろ。お前の悪足掻きを。


「なぁ、何か暑くないか?」

「そうか?俺はあまり感じな......」


ボウッ。

そんな音と共に、男達の装備が赤く光る。

火だ。


「な、なんだ!?」

「どうした!」


焦った男は、思わず女性を落としてしまう。

それと同時に火は、燃えている部分からさらに燃え広がった。


「うわぁああ!!?」

「落ち着け!この装備には防火能力があるだろッ!体まで届きはしない!」

「熱い!!熱いぃぃ!!」


男は、瞬く間に全身へと火が燃え移り、火だるまとなってしまう。


「うっ、ぐおぉああああああ!!」


その様子を隣で見ていた男も、一瞬で全身に火がついた。

火はどんどん大きくなり、やがて炎となる。

炎は男達の全身を包み込み、その体を燃やし尽くした。


「ぁああああああ............」


男達からの声は途絶え、暴れ回っていたのも落ち着いたかと思うと、その場にバタンと倒れてしまった。

後に残ったのは、真っ黒に焦げた死体だけ。

防火と言っていた装備も、形もわからぬほど焼き崩れてしまっていた。


「はぁ......はぁ......はぁ......」


俺は、立っていた。

自分でも死んだかと思っていたが、気付けば男達の目の前に立っていた。


「どういうことだ......これは......」


両手が熱い。

見ると、まるで炎の中にでも突っ込んだかのように火傷していた。

それに気づくと、熱いどころではなくなる。

突如襲ってくる痛み。

しかし両手を痛めてしまっているがために、摩ることも抑えることも叶わない。


「ぐっ......」


本来、超能力とは産まれつき持っているものである。

故に、その能力への耐性を持っている。

例えば、雷の能力者は感電しないし、毒の能力者に毒は効かない。

また、同系統の能力者からの攻撃も、ほぼ無に等しい。

だが、もし耐性の無いものが能力を使えば......。


「ぐぁあああああああ!!!」


能力による負荷が、自身を襲う。

まるで、両手が埋め尽くされるほどにマッチを貼り付け、それを一気に燃やしたかのような感じだ。

空気に触れるだけで痛い。


「ぐぅぅ......」


そうだ......あの女性は......!

まさか、一緒に燃やしてしまったか!?

俺が......殺してしまったのか!?


「だ、大丈夫かッ!」


おぼつかない足取りで、まっ黒焦げの死体へと近づく。そこに倒れている人型は三つ。そのうち、形がはっきりと残っているのが女性だと分かった。

なぜなら、その焦げた拘束衣の中から、美しい青色の髪が溢れていたからだった。

焦げていない。少しも傷んでいるようには見えない、サラサラの髪。

まるで作り物のようだった。


「おい、生きている......か......」


転がっているところ、顔をこちらへ向ける。

すると、大きな瞳がこちら見つめた。

俺は一瞬だけその瞳に見とれてしまったが、すぐに我を取り戻し、女性の口の拘束を外した。

痛みなど関係ない。一度は見捨ててしまったものの、確実に助けられる状況であれば、俺は助ける。別にこの人の死を望んでいる訳では無い。ただ、変なことに巻き込まれたくないだけだ。


「お前......」

「......?」

「最低だな」


......第一声がそれか。

しかも、日本語喋れているじゃないか。全然外国人じゃなかった。


「普通に私を見捨てるものだから、少し驚いてしまったよ」

「それを言うなら俺も驚いた。見た目より元気そうじゃないか、ん?助けて貰っておいてそれか。お礼の一つでも言って欲しいものだね」


別にお礼を言って欲しくて助けた訳じゃない。だが、最低だと言われて少し頭にきてしまった。

人助けをした結果がこれか。


「感謝する」

「意外と素直だな......で、これは何だ?」


俺は、女性に両手を見せる。

火傷しかない両手。そう、その原因は恐らくこいつだ。

俺の能力は、もちろん発火ではない。そうであれば、こんなことにはなっていない。

だが、突然その能力が使えた。能力が突然目覚めるなど、ありえないことだ。

よって、俺個人の問題ではなく、何らかの力が働いた。つまり、第三者からの干渉だと思っている。

......まぁ、そんなことは後付だ。

本当は、この女性を怪しいと思った方が先だった。


「その髪......いや、皮膚もだ。服以外の君の体は、全くと言っていいほど炎の影響を受けていない」


あれほどの炎だ。

直接触れていないとしても、焦げるくらいは近くにいた。

それなのに、まるで何事も無かったかのような姿。おかしいとしか言いようがない。


「君が俺に何かをしたんだろ。あの声......君とよく似ているような気がする」


もちろんそんなこと覚えていない。

ボーッとした意識の中で聞こえた声だ。その後の出来事もあって、記憶としては随分と薄い。

だが、鎌をかける価値はある。


「......場所を変えよう。拘束を解いてくれないか?」

「断る」

「え?」

「断ると言ったんだ。知らない人の拘束を解いちゃいけませんって、親に言われていたからよ」

「嘘つけ!さっさと拘束を───うぐっ!?」


うるさい口を押さえ、俺は女性を抱えあげた。

というより、肩に担ぎあげた。

それにしても頑丈な拘束だな。

まっ黒焦げになってもまだ、人の力では脱げないほどに拘束力があるようだ。

場所は......変えた方がいいな。それには賛成だ。こいつらの死体もある。もしかしたら、すぐに仲間が来るという可能性もあるからな。


「俺の家で良いな?」

「......」


口を押さえなくとも、女性は喋らなかった。

ずっとブスッとしたまま、俺の家まで黙って運ばれたのだった。

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