再会したイケメン幼馴染に彼女がいるんですけど恋してしまいました

清見こうじ

雷おこし

「はい、これ」


 おみやげ、と手渡されたのは、レジ袋に入った巾着型の淡いオレンジ色のパッケージの、雷おこしだった。


「……何これ?」


 ありがとう、を言う前に、思わず、そんな言葉が出てしまう。


 だって。




 雷おこし。


 言わずと知れた、東京名物。



 仮にも、高校生の男子が同級生の女子に買ってくるおみやげとして、このセレクトは、どうよ?


 まあ、グループに対して買ってくるんだったら、手頃な値段で、それなりに数も入っているから、いいかと思うけど。


 一応、「私個人」に買ってきてくれたのなら、他に選びようがあったんじゃない?


 お菓子だったら、同じ値段で、もっと小ぶりな、中身は少ないけど「高級?」な感じのモノがゴマンとあったはず。




 ……あのね、決して、雷おこしがいけないとは言ってないの。


 雷おこしでもいいよ。


 どうせ東京みやげなら、どこどこの新作がよかったな、とかは、言わないよ。


 雷おこしでも、いいの。




 ……純粋に、「東京」の、おみやげなら、ね。




「……柏原くん、静岡に行くって、言ってなかったっけ?」


 お母さんの実家に、行くと聞いた気がしたんだけど。


「うん、そうだけど?」


 悪びれもせず、ニコニコしてうなずく、柏原くんの顔を見ていたら、何だか、聞く気力も無くなってしまった。


「ありがと……」


 とりあえずお礼は言って置かないとね。


 例え、帰りがけの、乗換駅だか高速のSAだかで、間に合わせに買ったのだとしても。




 単なるクラスメートにあげるための、おみやげだもの。


 おばあちゃんのお葬式の為に忌引きしていた間の、ノートのお礼だしね。


 それだけの、意味しかないし。


 彼女でもないのに、贅沢言ってる場合じゃないよね。




「れ……北見、雷おこし、好きだったろう?」


 ……?


「小学校の修学旅行で、言っていたの、俺、覚えていたからさ……」


 誇らしげに言う、柏原くんの顔を見ていたら、何だか胸がドキドキしてきた。




 ……覚えていたんだ。




 もう、5年も前のことなのに。




 好きになっちゃ、ダメなのに。


 不毛だよ。


 彼女のいる人を、好きになったりしたら。




 ……ツライだけじゃない。




 好きだと思った時には、もう彼女がいたなんて。

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