Web小説をカクヨムするのはなぜ?

田戸崎 エミリオ

Web小説をカクヨムするのはなぜ?


『Web小説をカクヨムすることに否定的な意見を時々見かけます。


「Web小説を読む暇があるのなら売られている本を読め」とか「プロじゃないんだから、小説を書くのは時間の無駄。その時間で働いたほうが生活が豊かになる」とか。


その時私が思ったのは、実際Web小説を読むこと、書くことにはどんなメリットややりがいがあるのだろうということでした。


否定的な意見だけでなく肯定的な意見も取り入れて、しっかり判断したいと』



たまたま見掛けたこの自主企画の概要を見て、言いたいことがぶわっと浮かんだので、思うままに書いてみようと思います。


私もちょくちょくWeb小説を読んでおり、時折自分でも書いたりしております。

最近は連載小説の方はちょっと停滞気味ですが、エッセイの方は書き続けております。


転職してからモノを書く余裕が少なくなってきたんですよね。

やりたいこと、やるべきことが色々出来て、じっくり物書きに集中する時間が取れません。

ただ、書く意欲は完全には途絶えていませんよ。

今もワークスペースには、書きたいネタを溜めこんであります。


◆どうしてWeb小説を書いているのか。


私の心に刺さっている言葉があります。

我が母校のキャッチコピーです。


「あなたがいなければ、この世に生まれなかったものがある」


人間誰しも、抱えているものはあるはずです。

それを大いにぶちまけることは、決して悪いことじゃないと思っています。


物語を書くというのは、自分の中にあるものをアウトプットするということ。

ツイッターやインスタで、自分が思うことを共有するのと、何が違うんだろう。

それが突飛な世界観だろうが、かなり個人的な経験によるものであろうが、それを誰かに伝えるというのを悪いと思うのはいかがなものだろうか。


物語は、人の中からしか生まれません。

たとえ同じテーマでも、10人いれば10の物語が生まれるはずです。

間違いなく、「その人がいなければ生まれなかった物語」が存在するはず。

唯一無二の存在であるものを否定してどうするんだって思うのです。

それって、人の存在否定みたいななもんじゃないか。

このネット社会において一番最悪なことじゃないか、なんて思ったりするのです。


私の場合、連載小説は若干自叙伝的なものも含んでいます。

自分自身の経験をもとに、「こんなのあったら面白いだろうな」というのを加味して創作しています。

ベースが自分自身ですから、間違いなく私自身にしか作れないものです。

むろん、いろんなパロディを入れたりしてもいるので、100%オリジナルと言い切れないところもあります。

ですが、ネタの入れ方を考えるのも私自身。

私自身が、色んな創作物に触れてきたからこそできることだと思っているのです。


もちろん、批判だって来るだろうし、面白くないって思う人もいると思います。

(というか、面白いって思われてたらとっくにPV数が伸びてるはずですから)


けど、何も作らず批判ばっかりする人より、たとえ稚拙な文章だろうと、「自分自身の作品」を生み出そうとする人の方がよっぽど価値がある。

私はそう思っています。


◆書き手だからこそ読み手になれる


もう一つ、物語を書き続けているのは、書く側の気持ちを知るためです。


私はゲームクリエイターという職業についていますが、実は1回だけシナリオライターの仕事をしたことがあります。

それまで単なるプランナーだったのですが、チームのシナリオライターがいなくなってしまい、代わりに書くことになったんです。

まぁ、その時に思い知ったんですよ。



「物語書くのって、こんなに大変なの!?」って。



ペンがあれば書けるなんて、そんな生易しいもんじゃないんです。

自分の頭の中にあるものを書き出すこと、それを人に伝えることが、どれだけ大変なことなのか。

人は自分が想像してるより、アウトプットをするのが下手な生き物なんだと思い知ったんです。

その上で、人に面白いと言わせる、感動させるということを目指さなくてはいけませんから。

プロの小説家や売れっ子シナリオライターというのは、本当に凄い技術の持ち主なんだと思います。



そう、技術です。



本当に優れた物書きは、自分なりに「面白くするため」の技術というのを持っています。



そして、技術というのは、磨かなければ身に付きません。



研究して、実践して、批評を受けてまた創って……

つまり、「実際に書いてみないと身につくわけがない」んです。



人間は誰しもが、最初は素人。

最初は稚拙なのは当たり前です。

それでも、書いていくうちに成長するはず。


Web小説は、素人が最初に書き始めるのに最適だと思います。

気軽に始められるというのが大きな魅力だし、周囲にも同じように素人から始める人がいる。

本気で小説家を目指している人も、趣味で気楽に書いている人も。

自分なりの技術を磨こうとしている人たちばかりです。



「技術を磨くことが、そんなに悪いことかい?」

と思うのです。



そして、『書き手にいろんな人がいる』ということを、読む側も気をつけないといけないと思います。


この人は本気で賞を取ろうとしてるのか。

それとも、気楽に書きたいものを書いてるだけなのか。

賞や閲覧数狙いでなく、何か伝えたいものがあって書いているのか。

それは、作品ごとに違うはずです。


自分の価値観だけで作品を読もうとすると、何も面白く感じなくなると思います。

だって、自分のことしか考えてないってことなんですから。

作品の書き手が何を考えているのか分からないから、つまらないと感じてしまうんです。


小説を「読む」というのは単に文字を読むのでなはなく、作者が何を考えているのか「読みとく」ことだと思うのです。

これも、技術のひとつ。実践しなければ磨かれません。

職業柄というのもありますが、「どうして心に刺さるのか」を考えずに物語を読んでいては、人が「面白い」と思うものは生み出せない、と考えています。


そういう意味では、web小説という世界は非常に面白い世界だと思います。

毎日のように新しいものが生まれていき、作者の価値観も千差万別。

自分の知らない世界、自分の知らない価値観に触れるという意味では、この上ない場所と思います。


◆安い批判をしなくなる


そして、「一度でも創作の大変さを知った人間ならば、軽々しく批判しなくなる」というのが私の持論です。


どんなに稚拙に思える作品でも、そこには必ず作者が何かしら込めたい想いがあるはずですから。

それが作者自身の思い出なのか、単なる思い付きなのかはモノによるでしょうが。

それらを感じ取るようになると、他の人の作品を「つまらん」などの軽い言葉で済ませなくなります。

自分が「つまらん」と安い言葉で批判されることの苦しさを知ってますからね。


私とて、なんでもかんでも面白いと思うわけではありません。

合わないと思うこと、面白くないと思うことはありますし、それを言いたい時だってあります。

けど、批評する際にも、どこが面白くないと感じるのか。

それを伝える技術が必要です。

「ここが面白くない」と自分自身の感想を『読み』解き、それを『書いて』みせないといけません。


Web小説を読み漁っていれば、もちろん稚拙だなと思う文章に遭遇することだってあります。

自分に合わない作品にだって遭遇します。

そこを「つまらん」の一言で済ませずに、どうして自分は面白いと思わなかったのか。

こうした分析が出来るようになると、自分の作品にも活かせるようになるし、何より自分の許容範囲が大きくなります。

面白くないと思うものでも、「あぁ、自分とは合わないけど、作者はこんなこと思う人なんだな」と冷静に見ることができるようになるんです。


なんでもかんでも「つまらん」と言うような人と付き合いたいですかって話ですからね。

それだったら、「あの作品、ここはいいけどここはこういう理由で合わないんだよね」と話せる人との方が、議論が出来ますから。


それに、自分に合わないと思っていたものが、いつのまにか面白いと思えるようになる時だってあります。

自分自身の好みを把握するのって、意外と出来ていないものですよ。

私だって、少し前まで少女漫画を読み漁る日が来るとは思いませんでしたから。


いろんな作品を気楽に読める場所があるのならば、それを活かさない手は無いだろうって思います。


◆結局、楽しいから


ばーっと書き並べてみましたが、結局のところ、楽しいからというのが大きいんです。

自分自身で考えたものをアウトプットするのは大変ですが、少しでも読んでいる人がいるというのがこんなに嬉しいものなのかと。

一度でも創作活動をしたことがある人ならば、大変さも嬉しさも分かるのではないでしょうか。


そして、自分と同じように色々なことを考えて創作活動をする人がいる。

他の人の作品に触れるというのは、自分の価値観を広げてくれるということだと思います。


もちろん、それこそプロの方々が書いたものは素晴らしいです。

多くの人が共感したり、あるいはデカい問題提起があってみんなで議論したり。

そうしたムーブメントを起こせるだけの力があるのがプロの作品というもの。

それを読むことはプラスにはなるでしょう。


ただ、娯楽というのはプロが作るだけのものにあらず。

世の中には本当にたくさんの人達がいる。

その価値観に触れることが、マイナスになることはまず無いと、私はそう思っています。

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