花畑のロイン ─神の手違いで最強になった、と思い込んでいる男─
綿野 明
プロローグ 神託を授かったロイン
真っ白な場所にいた。
辺りを見回す。ここは一体どこだ? どこまでもただ真っ白で……いや、違う。これは雲だ。よく見ればふわりふわりと淡い青色の影が落ち、風でゆっくりと流れる、これは雲だ。
ロインはそう考えて、再び首を捻った。上下左右を雲に囲まれたこんな空間に、どうして俺は浮いているんだ?
──ロインよ、そなたに謝らねばならぬ
その時どこからともなく威厳のある声が響いてきて、ロインはハッと顔を上げた。それが神の声だと、なぜかロインにはハッキリわかった。
「神よ、私に何を謝罪なさると?」
ロインは言った。雲の中をぐるりと見回す。神の姿は見えないが、天から清らかな光が降り注ぎ、彼を照らした。
──ほんの少しの幸運をと、そう思うたのだ。しかし我が力はあまりに膨大で、人間にとっての『ほんの少し』という調整ができぬ。そなたへ、人の身に授けるにはあまりに大きな力を与えてしもうた
「我が身に……力を?」
ロインは
──『
「ルシラ」
ロインが言われるがまま唱えると、彼の手のひらに煌々と輝く光の玉が現れた。耳に馴染んだ光の呪文だが、これはしかし──
「なんと、美しい……」
ロインは言った。その光はまるで太陽そのもののように白く、
──
神の声と共に手の中の光が一際大きく輝き、あまりの眩しさにロインはぎゅっと目を閉じて──
◇
目を覚ますと、そこは見慣れた自宅の寝室だった。
「夢……?」
ロインは寝台から身を起こし、自らの両手を見下ろした。いつもと変わりない、剣ダコの目立つ無骨な手。
彼はしばらくそうしてじっと自分の両手を見ていたが、そうっと深呼吸すると、小さな声で唱えた。
「ルシラ」
次の瞬間、目の眩むような眩しい光が部屋を満たした。ロインは慌てて魔力を抑え込むと光を消し、そして再び自分の──少し震える両手を見つめて言った。
「……そうか、わかった。ならば俺は……与えられた使命を、果たさねばならないな」
囁くような声は
彼は朝食もとらず、一杯の水だけを飲み干すと旅の支度を整え、すぐさま家を飛び出した。行くべき場所は不思議なことに、はっきりと彼の頭の中に示されていた。
◇
こうして十八歳の若き冒険家ロインは、神に与えられた使命を胸に秘め、勇敢に旅立った。
その「使命」がまさか神のお告げでもなんでもない、彼の子供じみた空想癖が生み出した「ただの夢」であるとは、これっぽっちも気づいていなかった。
――ロインは、とても純粋なのだ。
(次回:『運命の仲間を集めたロイン』)
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