クリア・クリア・クリア

かいまる

クリア・クリア・クリア

スポーツの梅雨、なんて言葉はたった今俺の脳内で乱数ジェネレータのごとく生成された造語なのだが、事実、俺たちSOS団は毎年恒例初夏の軽運動大会に参加しようとしていた。

たった今、我が団長がその大会とやらのチラシを持って部室にマッハ30と思わしき速度で突っ込んできたところである。


「何だ?その薄っぺらいカラープリントは」

「あんたも解ってるんじゃないの?そう、今年もスポーツ大会に参加します!」

まあそうだろうな、と思い部室を見渡す。

古泉はいつもと同じニヒルな笑顔を貼りつけており、こいつは何時もこの顔だなと思っていたら会釈をされたので無視。

朝比奈さんは湯のみを持ったまま唖然としていた。毎年のことなんだからそんなに驚くこともないだろうと思いつつ、まあ今日も可愛らしいぜ、朝比奈さんよ。

長門はそうだな、言わなくても分かると思うが今日も広辞苑のような厚さの洋書を読んでいるさ。

それにしてもアレは何語だ?俺にはアラビア語にしか見えないのだが。


まあ、そんなことを考えていようが話は進まないし、どうやら俺しか会話を進める権限を持っていないようなので俺はハルヒにこう問いかけた。

「それで、何のスポーツ大会だ?種目を教えてくれないと練習もできん」

ってね。

そのような俺の問いは当然予想されていたらしく、ハルヒはこう答えた。

「我々SOS団、今年はタスポニー大会に出場します!」

ああ、知らんスポーツが遂に来てしまったようだ。

種目を教えてくれないと練習もできんと言っていた俺には申し訳が立たないが、競技内容が解らないものは仕方あるまい。


「それで、そのタスなんとかってやつはどんなスポーツなんだ?」

「タスポニーよ!今から説明するわね」

ハルヒの言うところによると、タスポニーは日本の中部地方の都市で生まれたスポーツであり、ルールはテニスに近く、テニスボールの代わりにスポンジ製のボールを手で打ち合う競技なのだそうだ。

「このスポーツはまだ有名じゃないけど、それは時代が追い付いていないだけ!人が少ないうちに優勝狙っていくわよ!」

なるほど、競技人口が少ないから優勝を狙えると。こいつにしてはよく考えたものだ。

まあそんなマイナースポーツでなくともハルヒなら難無く優勝できると思うがな。



そんなこんなで大会当日を迎えた。

俺は昨日寝る前にてるてる坊主を逆さに吊るしたうえで五寸釘を刺しておいたのだが、

天候は極めて快晴である。

まあこのスポーツ、屋内でやるので天気は一切関係ないんだが。

そうして始まった試合は、ハルヒは練習もしていない筈なのに抜群のセンスを見せ、あっという間に点数を重ねていた。

「ちょっとキョン、なんでそのボールが取れないのよ!もっとこう身体を伸ばして取りに行くの!」

お前、どんなスポーツでもできるんだな。

俺にもその才能を少しくらい分けてもらいたいね。


「キョンくーん、がんばってぇ」

「頑張ってくださーい」

「頑張って」

と三者三様な応援もありつつ、まあ最後の長門は俺の読唇術によるものなのだが、

「おーう」

と返答しておいた。

しかし、

「キョン!何よその返事は!SOS団員ならもっとハキハキと返事しなさい!」

との声が横でボールを打とうとしているハルヒから聞こえてきた。

まあそれはそうだ。そう思った俺は3人の方を向いて俺なりの元気で

「ああ、頑張るぞ」と口にした。


その直後だった。

「キョン、危ない!」

とハルヒの声が聞こえ、何に対して言っているんだと前を向いた瞬間、軟らかなボールが俺の顔面を直撃した。まあそれなりの痛さだ。

「大丈夫?」

心配そうな声でハルヒが問いかけてくる。

大丈夫だ、スポンジだったから問題ないさ。怪我もしていない。

これが硬式野球だったら俺の顔は見るも無惨になっていただろうが。

「良かった…。」

そう口にするハルヒの顔は優しかった。



結局俺たちSOS団は優勝し、

なんだあのチームはと運動後の疲労困憊な脳を働かせている参加者全員の気持ちなどつゆ知らず、ハルヒは意気揚々と会場を後にした。

俺もその後ろに続く。

視線が痛いぜ。あと顔面も微かに。



「やっぱり私たちSOS団は最強ね!そう思うでしょ、古泉くん?」

「ええ、実にそう思います。これもひとえに団長様の努力の賜物でしょう」

まあそうだな、スポーツイベントに限ってはハルヒがいないと話にならん。

まあ長門がいるが超人的すぎるのであまり目立たないほうがいいだろう。

「貴方の身体を張ったプレーもとても素晴らしいものでしたよ。」

うるさい、あれは俺がやりたくてやった訳じゃない。あのプレーが褒められたものなら世の中のスポーツ選手は顔で当たりにいくんじゃないか?

「それはどうでしょうかね、ですが本当に貴方は頑張っていましたよ。」


「当然、みくるちゃんも私の意見に同感でしょ?」

「え?あ、はい、そう思います…。やっぱりみんな仲良しなのがいいですねぇ」

朝比奈さん、ハルヒの話聞いてたのか?まあいいや、可愛いから許す。

「長門はどう思う?」

「とてもいいチーム。私もここに所属する意味を感じている」

長門にしては長いセンテンスだな。

SOS団に思い入れを感じ始めているのか、嬉しい限りだ。

「あら、そう?有希がそこまで言ってくれるなんて嬉しいわね。

よし!みんなの意見も聞けたことだし、これからもどんどん活動がんばっていくわよ!」

「おいおい、俺の意見は聞かないのか?」

「あんたの意見はいいのよ、いつでも聞けるんだから!直接ね!」

そうかい。


俺たち5人は、運動した疲れを心地よく感じながら

夏の猛暑のエッセンスを醸し始めている夕方の町を歩いていくのだった。

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クリア・クリア・クリア かいまる @Kaimaru0630

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