ギルド長クロアの優雅なる日常

首が1本のヒュドラ

第1話

 朝礼と午前中にやるべき仕事を終わらせて一息つこうと、机の上にある甘いジュースにチーズが沢山乗ったピザ目掛けて駆け出す銀髪の乙女。


「わーっ!ピザだピザだ!疲れた時はこれだよねっ!」


 まるで幼子の様にはしゃぐ彼女はここ、【賑やかな賽子亭】と呼ばれる酒場兼冒険者ギルドの長、クロア・カーティスである。


「全く……最近は冬だからって備蓄を狙った野盗の被害が多くて困るよ。私に送られる書類が増えるんだから!」

「最近の楽しみがピザしかないよぉ〜……私そんなに食べれないんだけどさ。」


 そんな食の楽しみに浸っている彼女の部屋の扉がコンコンと響く。


「クロアさん、今大丈夫でしょうか?」


 一時の安らぎを少しばかり邪魔された彼女はムッとしながら大丈夫だよと扉に伝えた。


「いやぁ、すいませんね。何分急ぎの話だったもんで。」

「あぁいや大丈夫だけどさー……急ぎの話ってなにさ?ラーギル君。」


 ラーギルと呼ばれた男は2m強の巨躯と樹木の肉体を持つトレントと呼ばれる種族である。

 彼らトレントは人より寿命が多く、種族柄穏やかで呑気な者達が多い。彼もその例に漏れず穏やかな者であった。


 そんな彼が急ぎの話として持ってきたのだ。どのような物かとクロアは興味深そうに耳を傾ける。

「いやそれがですね、この時期には冬眠してるはずの沼地の主が暴れてましてね。先程ウチの冒険者が怪我して帰ってきたんですよ。」

「……本当かい?ちょっとその冒険者に会わせてもらってもいいかな?」

「えぇはい。冒険者、コクラは黒狼亭という宿に泊まってますんで、案内しましょか。いや本当昼休憩にすいませんね……」

「いやいいよ!私そんなに食べれないから!」

「それ安心していいんですかね?」

 等と軽口を叩きつつ黒狼亭へ向かう2人。



 黒狼亭は飯が安く量が多い。そして大部屋に大人数が泊まり宿泊料が安いという新人冒険者オススメの宿である。

 そんな場所へギルド長が赴くと少しざわつきが起こったが、厄介事に触れたくはないと絡まれる事も無かった。


 事前連絡はしていたが、少々急だった為待ったが、無事冒険者コクラに会えた。

 傷もそこまでのものでは無かったようで、軽く雑談をしつつ、ギルド長クロアは事情を聞こうと言葉を切り出す。


「さて、コクラ君。沼地の主が暴れてたって事だけど、何か異変が起こってたのかい?」

「アハハ……いやそれがですね、なんと言いますか……」


 言葉を詰まらせるコクラにラーギルはどうしたのかと聞くと


「いやぁ、恥ずかしい話なんですがね?」


 と前置きをして話し出した内容が[沼地の魔物討伐の途中、尿意を催したのでその辺でシたらたまたま冬眠中の主にぶっかけてしまって暴れた]との事。


「……はぁ〜〜〜〜〜〜〜、心配して損した!!!というか怪我ってそんな事でしたのかい!?こんな事で私は昼休憩を奪われたの!?」

「まぁまぁクロアさん、そんなこともありますよ。新人の教育不足と、報告と連絡が拙かったせいですね。今後はその方面にも力を入れていきましょう。」

「あぁ……そうだね……うん。」

 ピザの時間をそのような事で奪われたクロアは意気消沈しつつ帰路に着く。


 そんなギルド長クロアの優雅なる日常……優雅?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギルド長クロアの優雅なる日常 首が1本のヒュドラ @hidora7521

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る