第4話

 ガタン。



 私の意識は、バスの揺れによって戻された。どうやら私は、バスの中で寝てしまっていたようだ。


 先程の揺れは何だったのだろうかと思い、窓の外を見てみる。するとバスは、見覚えのない場所を走行していた。当たり前だろう、私が一度も行ったことのない場所に行くのだから。


 私は今どこを走っているのかを聞き出すべく、課題マンこと古谷先生の座っている席に向かおうと立ち上がる……つもりだった。

 しかし、私が立ち上がろうと思う気持ちはあるのだが、何故か立ち上がることができなかった。私の太ももに何か乗っている感触はずっとある。


 物体の重さは恐らく十キロ程度だ。米袋でも乗っているのだろうか。

 私は太ももの上に乗っている物体に、恐る恐る目を向けてみる。するとそこには……水稀がいた。

 しかも、とても気持ち良さそうに寝てる。寝てやがる。


 私は水稀を起こそうと思い、いつも通り頬を思い切り叩いてみる。するとバス中に、とても良い音が響いた。

しかし全く反応がない。もしかして、強く叩きすぎたのだろうか。いや、それはないか。


 そもそも、こんな脳筋ゴリラに物理攻撃が効くはずがない。



 では、これはどうだろうか。



「脳筋ゴリラ……」

「おいおい、脳筋ゴリラって呼ぶの好きすぎないか? 俺は脳筋でもなければ、ゴリラでもないぞ」

「え、どこが?」

「いやいや、全てだろ。脳筋な思考もしなければ、ゴリラのような体型でもない。ほら、脳筋ゴリラじゃないだろ?」

「え、どこが?」


 もう一度繰り返し聞く。


「だから、脳筋でもゴリラでもないって。」

「うーん、そっか。それで、どこが脳筋ゴリラじゃないの?」

「聞いてる? 全てって言ったよ……?」

「ごめんごめん。で、どこが?」


 私は真剣な顔をしたままもう一度聞く。

 すると水稀は険しい表情をしながら、大きな口を開いた。


「す・べ・て・で・す!」


 どうやら怒らせてしまったようだ。一度怒ったら面倒くさいので、後でプロテインとバナナを買ってあげよう。


「皆さーん、トイレに行きたい方は今のうちに行ってくださーい」


 課題マンこと古谷先生は大きな声で言った。どうやら、サービスエリアに着いたようだ。


 先生が一通り話し終えるのを聞いてから、怒っている脳筋ゴリラにプロテインとバナナを買うために、私は水稀を引っ張りながらバスを出た。今日は天気がとても良い。

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