第2話

「それでは、修学旅行についての会議を始めます」


 ホワイトボードの前に立っている男の人が言った。きっとこの人が実行委員長なのだろう。


「初めに自己紹介から始めましょう。僕は実行委員長を任された春田陽太といいます。よろしく」


 春田陽太と名乗った男が深く一礼をすると、室内に拍手が響き渡った。


「では、一組の人から順に自己紹介をお願いします」


 陽太は引くほどの笑顔で、廊下側の席に座っている人を指名する。笑顔すぎてとても怖かった。


 陽太が指名した子は立ち上がると、少し恥ずかしそうに髪を弄りながら口を開く。


「二年一組、清水明莉」


 彼女が名乗り、ぺこりと礼をする。それと同時に、教室内がざわついた。


「あかりーん!」


 彼女が席に着くと、窓際の席に座っていた坊主頭が立ち上がりながら大声をあげた。


 彼が発した言葉に、次々と教室内の男共が声をあげる。

 その光景を目の当たりにし、私は素直に思ってしまった。そう、地獄絵図だなと。


 それを見た陽太は大きなため息を吐いた。


「伊藤……。くれぐれも会議を取り乱すような真似は、やめろと言ったよな」

「ごめんごめん。明莉さんがいたからつい、ね」


 陽太に伊藤と呼ばれていた坊主頭の男は、反省していないような表情をしながら頭を下げた。


「つい? 前もそんなこと言ってたよな。部長会では、会議を中断せざるを得ないくらい荒らした気がするけど」

「そんなことあったか? 記憶にないな」

「ほう、そういえば許してもらえると思っているのかな? それとも、ハゲてると記憶力が低下するのかな?」

「ハゲだと? 聞き捨てならないな!」

「陽太くん。早くしないと下校時間になる。早く進めて」


 明莉のとても冷たい声音によって、二人の口喧嘩は一瞬で終わる。清水明莉、まるで彼女の声音は吹雪だ。


「おお、そうだな……。それでは会議を始めます。資料を配るので、足りない所は教えてください」


 明莉に止められた陽太は急いで資料を配り始めた。おかしいな……。まだ自己紹介の途中なはずだけど。というか一人しかしてない気がするけどいいのかな。


「春田さーん、一枚足りませーん」

「はい、どうぞ。全員資料受け取りましたか? 大丈夫そうであれば、会議を始めたいと思います。」


 どうやら、自己紹介はしないようだ。せっかく自己紹介で言う内容考えたのに。


「それでは、目の前のスライドか資料を見てください。これから話し合う内容は、数週間後に控えた修学旅行ついてです」


 教室内が少しざわざわとする。


「今日決める内容は大きくわけて三つ。修学旅行で行く場所、日数、そして持ち物についてです。まず行く場所についてですが、どこに行きたいか希望のある人はいますか? いたら挙手で」


 陽太が一通り話終えると、陽太と向かい側に座っていた女の子が手を挙げた。


「はい、どうぞ」

「私は京都がいいと思います。やはり修学旅行といえば京都だと思いますし、なにより京都には観光スポットが沢山あるからです」

「はい、ありがとうございます。他にいますか?」


 陽太が周囲を見渡すが、誰一人手を挙げている人はいなかった。


「京都がいいという意見が挙がりました。賛成の人は挙手を」


 陽太が立ち上がって言うと、一斉に手が挙がった。満場一致のようだ。


「はい、ありがとうございます。では京都ということで」


 陽太はそう言うと、再び席に着いた。するとそれと同時に下校時間を知らせる鐘がなった。


「あー……。なってしまいましたか。では今日決まらなかった内容は、次の会議までに考えておいてください。では、解散」


 陽太が立ち上がると、それと同時に話し始める人、教室から出ていく人など、様々だった。


 帰ろう。そう思って水稀の方を向くと、水稀は涎を垂らして寝ていた。なんだこいつは……。


 私が水稀に全力で平手打ちをすると、水稀は少し驚いた様子をしながら目を覚ました。


「寝ていたのか……?」

「そうだよ。多分ずっと寝ていたと思う」

「そうか……。もう会議は終わったのか?」

「うん、終わったよ」

「じゃあ、帰るか」

「そうだね」


 私たちは立ち上がると、陽太に一度挨拶してから教室を出た。

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