第10話

 「何故、奴らは平気なんだ」

「何か秘策でもあるのか」各家の密偵たちが持ち帰った報告を見て、そんな発言が連合の集まりで愚痴のように洩れた。こうなっては無駄な連合だったと言うしかあるまい。そんな状況に一番に焦ったのは岸田家だった。懇意だった勝山家を裏切った形で連合に参加した形であるが故、最終的に岸田家が一番恨まれるだろうと思えたからである。『潰すしかない』岸田家安泰の為にも、勝山家は滅ぼすしかないのだ。岸田家の代表として会議に参加していた家老の富田は、家の存続のためにも連合に動いてもらうしかなかった。

「泰国殿はよく知っている。確かに武勇に優れ、知も優秀だ。けれども、これだけの家が集まって何を恐れているのだ」富田は弱腰な連中に腹を立てていた。

「しかし、これほどの余裕を見せられては、なにか裏があると考えるべきではないか?早急な動きは我々の首を絞めてしまうだろう」と根津家の代表が他人事のように発言した。その発言には富田の怒りを爆発させるには十分だった。

「何を気弱なことを!同時に攻撃を仕掛ければ如何に泰国殿であろうとも、適いますまい。責任を取れぬと言うのならば、岸田家が盟主となりましょう」

「勝山家をよく知る岸田家なら適任やも知れぬな」富田は根津家の代表の言葉を聞いて、連合に参加した不甲斐なさを嘆いた。結局は我が身可愛さで泰国殿を怖がる羊の群れだったと気付かされたのである。その証拠に、どの家も微かな笑みをこぼしていたのだ。責任を取らずに済むと言うことだろう。

「作戦を立案するので、各家は従ってもらいたい。よろしいかな」富田は強い口調で決断を迫ったが、各家は肩の荷が下りたような表情でその要求を呑んだ。

そうして連合の集まりは幕を閉じた。富田は独断で盟主になったことを、どう詫びたらいいかを考えながら、帰路に着いた。しかし、急ぎ行動を起こさなくては、直ぐにでも連合は崩壊する恐れがあった。それだけは阻止しなくては、と富田は焦っていた。連合の集まりから戻った岸田家家老の富田は、打ち首覚悟で領主の前に出た。

「何故、我らが憎まれ役を買わねばならぬのだ」と若い岸田の領主は激怒した。

「理由がございます」富田は至って冷静に言葉を返した。血気盛んな若い領主を怒らせるべきではない。と分かっていたからだ。

「ことによっては許さぬぞ」岸田の領主は厳しい視線で返した。

「承知しております」富田はそんな視線に気が付かぬ素振りで答えた。

「では申せ」

「集まった他家は、誰も戦の指揮を取ろうとはしませんでした。下手を打てば、このまま立ち消えになる恐れさえございました」

「なんだと!戦をする気が無いと申すか」流石にこの言葉に、若い領主は怒りを露わにした。祖父の時代から懇意だった勝山家を裏切るように仕向けられたのだ。怒りを露わにするのは当然の事である。富田は領主の反応を見てから、ゆっくりと口を開いた。

「勝山殿を恐れるあまりに、誰も具体的な案さえ出せずにいます。そうなると、後々岸田家だけが、勝山家から恨まれる結果となりましょう。それだけは断じて防がねばなりませんでした。岸田家が盟主になることで団結し、見事に勝山家を滅ぼせれば、岸田家の地位もおのずと向上し、且つ、誰からも恨まれなくなると言うことでございます」富田は岸田家の利点をあげた。

「ふむ……。で、勝算はあるのだな?」

「それよりも大事なことがございます」

「なんだ?」戦よりも大事なものなど、若い領主には見当もつかなかった。

「岸田家安泰、これに尽きます」富田の鋭い眼光に光が差したのを、岸田の領主は見逃さなかった。富田が一番避けたかったのが、岸田家の領地を荒らされることだった。資源の少ない岸田家にとって、土地が生命線であったからだ。岸田家の領地で戦が起こることだけは何として避けたかった。そのためにも、戦は他国の領地で起こす必要があった。

「よし分かった、そなたは参謀として参加せよ。領地を奪われてはならんぞ」

「御意」

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