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『みんなおはよう!』
『今日は収録の日!』
『初めての作曲✧٩(๑❛ᗨ❛๑)✧難しいけど頑張る』
深夜0時。俺は如月逸火のSNSを眺めている。
あいつは頻繁に呟いている。
仕事の事からどうでもいい事まで……てかあいつ作曲も出来たのか。凄え。
俺はもっと呟いた方がいいのだろうか。
俺は配信の日か、新曲をアップロードする日くらいしか更新しない。あとは、#真悠帳
のリツイートをしたり(#真悠帳とは、天喰真悠のファンアート用のハッシュタグだ)。
運営からは他者に危害を加えない程度で自由にSNSを使っていい、と言われている。
俺はアカウントのマイページを開き、呟いてみる。
『もっと頻繁に呟いた方がいい?』
すると、すぐにリプライが届く。
『やりたいようにして良いと思いますよ!』
『真悠くんの呟き増えるの?』
『真悠くんツイ廃デビューかな?』
……やめておこう。
それに俺、なんでこんな時間に女子の知り合いのSNSをジロジロ見てんだろ。
ストーカーみたいでなんかキモいな。
大人しく寝る事にした。
翌日。
今日は打ち合わせの日。眠気を振り払いつつ、オフィスの階段を昇る。
廊下の突き当たり、大きな窓の隅。そこに小さな人影が見える。
あれは、高梨?
声をかけてみる。
「よう、高梨」
「っうわあーッ!」
目を大きくしてオーバーリアクションを取る高梨。
「そんなに驚かなくてもいいだろ。ホラゲー実況か」
「へへへ……今日もナイスツッコミだね……」
「時々ネタにされんだよ、それ」
俺はいつも通り話してるつもりだが、どうにもリスナーには喋り方が面白いらしい……。
「で、何してた?」
「えっと……何でもない!」
と言いつつも、あからさまに何かを背中に隠している。
「……ああ、そうか」
「う、うん……じゃあ、またね!」
挙動不審な動きでその場を去ろうとする高梨。すると、手から何か紙袋のような物が落ちる。何だコレ……『フルオキセチン』?
「おい、落としたぞ」
「……返して!」
差し出した袋を強引に取り返される。普段とは違う、妙に荒い口調だ。
「え、あ、ごめん」
「……ごめんなさい」
重い空気が流れる。その場から逃げ去るように、俺と高梨は離れた。
午後10時。
俺は何となく、如月逸火の配信を見ようと動画サイトを開く。
あいつも俺の動画はたまに見るらしい。だから俺が見ても問題ない。ないはずだ。おそらく、多分。
暫く配信画面を眺めるが、時間になっても配信が始まらない。
まさか忘れてるとか?
あいつは、おっちょこちょいな所はあるが配信を忘れたりすることは一度もない。
リスナー達も「まだ?」「なんかあった?」と困惑気味だ。
仕方ない、あいつに連絡取ってみるか。
あいつの連絡先にメッセージを送る。
「配信忘れてねえか?」
既読はない。
「おーい」
既読なし。
……通話してみるか?
なんか小っ恥ずかしいが、このまま配信をすっぽかすよりはマシだろう。
コールが鳴り響く。
「……柴崎?」
弱々しい声がスマホ越しに発せられる。
「ああ……今日の配信どうした?忘れたか?」
「……ごめん。今日は休ませて」
息切れしているような荒い呼吸で返答する高梨。
「どうした、具合でも悪いか?」
「なんか……さっきから気持ち悪くて……さっきも吐いちゃって」
「そうか」
吐き気……なら、連絡出来ないのも無理はないか。
「俺からマネージャーさんに伝えとくよ。今日は休めよ」
「うん……ありがと……」
「……それと」
昼間、落とした紙袋を思い出す。
名前は忘れちまったが、何かの薬のようなもの。
人には触れられたくないもの。
邪推を振り払って、俺は伝える。
「なんかあったら……言えよ」
「……うん」
そう言うと、電話は切られた。
マネージャーさんに事情を伝えてから、数分後。配信は途切れ、運営からのお詫びの文章がSNSにアップされる。
体調不良なんだから無理に頭を下げる必要なんてないだろ……。
あいつだって何かあるんだろうし。
何か……。
あいつをああいう風にしている『何か』。それが気になって、今日は眠れそうになかった。
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