第2話我らがアレス様
「なー、黒白がまた出たんだって!」
「知ってるわ!北の犯罪組織のやつでしょ!」
「かっこいいよなー、謎多き組織 黒白!」
「二人で倒しちまったんだろっ、いいなー、俺もなれるかな?」
「あんたなんかなれるわけないでしょっ」
アハハハッ
そこらかしこで似たような話が聞こえてくる。
そんな会話を聞きながらオシャレなカフェのテラスに座っている美少年がいた。
よく見なければわからないが、長いツヤのある黒髪にルビーのような鮮やかな赤い瞳、白い肌。全身を黒に包み所々に金の刺繍がしてあるいかにも高そうな袖が襟袖のものを着た美少女のような少年だ。いや、少年と青年の間の歳くらいだろうか。その顔は人形のように整っており、浮世離れした美しさである。
青年は注文したコーヒーを飲みながらじっと手元の本を読んでいる。その本は見るからに難しそうな本である。
一見近寄りがたい印象を受けるが彼の美貌のせいか周りに人が集まりそうである。しかし彼の周りには人がいない。なぜか、それは青年が異様なほどに気配を消しているからである。そんな青年に声をかけるものが現れた。
「アレス様!ここにいらしたのですか!」
そんな声をかけながら一人の美青年が現れた。その青年は探しましたよ!と言いながらアレスと呼ばれた青年に心配したのか何もないか気にしたようにさりげなくチェックしている。
「アレス様!あれほどお一人での行動は謹んでくださいと申し上げましたのに」
そんなことを横で本から目を離さずに聞いていたアレスはやっと青年の方を向き言った。
「平気だ、それに何かあったとしても俺に傷一つつけられるわけがないだろう。お前は心配しすぎなんだシン」
シンと呼ばれた青年は銀髪に近い白髪を肩の下の方まで下ろし、片方の髪を編み込みで耳にかけている。その耳には、雫のような形をしたとても鮮やかな赤いピアスをしている。身長も高く足も長い、服は執事服のようなしっかりした生地のものを着ており、こちらも顔の整った美しい青年だ。
「もちろん、アレス様に傷をつけられるものがいるとはおもいません!
ですが、貴方様のお力を悪用する輩がいつ狙ってくるとも限りませんもっと危機感をお持ちください」
アレスはシンを見やりため息をつく。
シンは何か失礼なことを言ったしまったかと体を固くするがアレスは
「そんなことはとっくの昔から知っている...
...ありがとう」
と、優しく恥ずかしそうに微笑むアレスを見てしまった。そんな表情を見てしまったシンは
「...グハッ!!」
理解するのに時間がかかったのか、硬直した後、耐えられないとばかりの声音を発しながら後ろに倒れた、その手には写真を撮るための機械であるカメラと動画を撮るためのビデオが握られている。さすが、アレス様第一主義者である。ぬかりない。
「何をやっている!もう行くぞ」
照れ隠しなのか顔を隠しながらもアレスは先に行ってしまった。
隠しきれていない耳は真っ赤だ。それを見てしまったシンはまたしても床に倒れふすことになった。
シンの頭の中は今頃、アレス様を褒めたたえる言葉で埋まっているのだろう。だが手にはしっかりと今起こった出来事を記録すべく動いているから流石である。
町をある程度歩くとひっそり隠れるようにできている店についた。アレス達はその店に躊躇いもなく入っていく。店に入ると店主らしき老人が出てきた。
「お久しぶりにございます、アレス様。お帰りになられるのですね。どうぞこちらに」
「ああ、久しいなセル。毎度すまないな」
アレスがそういうやいなや、セルと呼ばれた老人は感極まったように目に涙をにじませながら
「いいえいいえ、アレス様のために動けることが私めの幸せにございます。」と顔をこれでもかというくらい嬉しそうに微笑むのだ。
「お前達は、もっと自由に生きても良いのだぞ・・・私のことなど気にしなくともお前達ならもう一人で生きていくことなど容易いだろうに」
お前達とどこか遠くを見ながらアレスは言葉を紡ぐ。その言葉を聞いてセルは返事を拒否するようにうつむくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます