50話 そっちじゃねぇ!
問題は使者の移動する先にある物だった。
このまま使者がまっすぐ進むと、それは街の北門がある位置であった。
盗賊らしき男は街に逃げ込もうとしていた。
「あら? あらあら、それは困るわね」
盗賊が街に逃げるのは想定外であった。と、いうか盗賊があんなにいること自体がすでに想定外なのだった。
「仕方ないか、主よ我が使者の軌道修正を行おう」
リヴァイアサンが使者の相手をすることを提案してきた、リヴァイアサンといえども危険な相手なのは承知であった。
「うーん、流石に危ないわよー」
「しかし誰かが行かねばならんだろう、なーに少し街から離れてもらうだけであろう、我に任せておけ」
そう言うと、リヴァイアサンは使者の方へと向かっていった。
「必ず戻ってきなさい! リヴァイアさんにも赤ちゃんを抱っこしてもらいますからね!」
リヴァイアサンの後ろ姿に向かって叫ぶアンジェリカであった。
「マーシャちゃん! このまま使者との距離をキープしてちょうだい、リヴァイアさんが使者をこちらに向かわせたら、また匂いで引き付けないといけないものね」
「了解っすよ」
「仕方ないから、この香料を使うわよ」
アンジェリカが赤い瓶の香料を取り出したのであった。
――
――――
リヴァイアサンが使者の前に降り立った。その姿は「親方! 空から生臭いナニかが!」そんな状態である。
「改めて間近で見るとデカイな」
リヴァイアサンはそう言って使者と対峙した。
(さてさて、進路を変えるだけでも骨が折れそうだな)
使者は目はあまり良くないのか、目の前にいるリヴァイアサンにはまだ気付いていないようだ。いや、気付いていても無視しているのかもしれない。
「あえて気付かぬふりか? それはそれで構わんぞ! 行き成りでかいのを一発かますまでよ!」
リヴァイアサンが叫ぶと同時に巨大な水の玉が出来上がる、リヴァイアサンはそれを使者目掛けて打ち付ける。
「潰れろ!」
使者は避けようともせず、ただ視線をリヴァイアサンへと向けた。
「くは、視線が合うだけでこのプレッシャー! バケモノめ!」
お前の外見も十分にバケモノだよというツッコミは置いておく、リヴァイアサンの水球の直撃を受けても使者はビクともしていなかった。
触角を動かしながら使者は様子をうかがっているだけであった、ただ運がいいのは盗賊が隙を見て逃げ出した事であった。それに気づいたリヴァイアサンは内心でこれで範囲の広い魔法も打てると考えていた。
(さて、攻撃魔法はほぼ……いや、まったく効果が無いと見て言いな。するとどうしたものかな?)
使者と対峙しつつ、思考を巡らせる。そして、その間も攻撃の手は止めない、使者の周りは既に水浸しになっている。
(全く嫌になる魔法レジスト能力だ、埒が明かんな)
しかし、これまで動かなかった使者が少しだがモゾモゾと動き出した。
(ん? 何かを気にしているのか?……そう言えばいつかは主が語っていたな、油黒虫は触角が汚れるのを嫌うと。ふむ、試す価値はあるやもしれん)
リヴァイアサンは何かを思いついたのか、今までいた位置から少し移動する。
風下へと移動するのであった。
「さーて、こんな魔法は使った事が無いが上手くいくだろうか? 水と土の複合魔法、上手くいけば相手を動かすことができるであろうな」
足元に水たまりを作り出すリヴァイサン、そしてその水たまりに小さな渦を起こすのであった。
「まずは試しの一発よ!」
すると水たまりの水が泥水になった所を、魔法で打ちだした。
「泥水でっぽうと言ったところか!」
すると、使者は触角を動かし魔法を避けるのであった。
「ククク、避けたか」
嬉しそうにリヴァイアサンが笑った。するとまた水たまりの水を泥水へと変える。
「主よヤツもまた油黒虫であったということだぞ!」
次回『本能には逆らえまい』でございまする。
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