28話 趣味悪いわー
このフロアは今までと違って雰囲気がガラっと変わっていた。
床にはボロボロになっているが赤いじゅうたんが敷いてある、
壁には謎の像が立っており、より宗教色が強くなっていた。
「随分と雰囲気が変わったな」
「そうだね、兄さんはここ何だと思う?」
「……そうだな、ロクでもない場所な気はするな」
「やはりそう思う?」
妙な絵も飾ってあるが、額に入れて飾っているわけではない、インテリアのようには見えない。
「このフロアは博物館みたいねぇ」
「あー、言われてみるとそっすねぇ」
何気ないアンジェリカの一言にマーシャやゼノ達も手を打って納得していた。
「アジャルタさんの言う通り、博物館や資料館みたいな装飾ですね」
「でも、何故最上階が博物館に?」
単純な疑問を口にするゼノであった。
当然ながら答えられる者はいないので、一行は再び調査を開始した。
――
――――
「ほほう、なかなか興味深いな古の神についての資料だったか」
ダルトンは持ち帰った品々に目を通し、興奮しながら文献と資料をすり合わせている。
持ち出した文献を資料を見つつ解読していくダルトン、使われている文字は古いがある程度解明されている文字だったのが幸いしているようだ。
「古の神の文献、それを祀る集団の資料か。しかしこんな神は知らないぞ」
ぶつぶつと呟きながらもペンを走らせる。王国から派遣されるだけあってダルトンは優秀な人物であった。
「なるほど、これは俗にいう神降ろしの儀式か?」
ダルトンは尚もペンを進め記録を取る。
儀式、そう古の神を降ろす儀式の記録、これらを紐解き解明を進めている。
この神が何の神かまでは知らずに……
「……これを」
「は」
そして、ダルトンのそばで蠢く影もあった。
――
――――
一行はとある部屋で休憩しつつ、成果を纏めていた。
リノが幾つかのメモを見ながら、思ったことを口にした。
「このダンジョン、結論から言って、正直そこまで美味しい場所ではなかったですね。モンスターのレベルに差が有りすぎて初心者冒険者には旨みが少ないです」
リノの結論にマーシャとゼノも頷く、アンジェリカは良く分かっていないようだ。
「まあ、俺も同意見だな。罠は大したことないが。無理してくるようなところでもない。宝箱に関しても今の所発見できたのは三つだ、中身はそこまで悪くなかったが……リッチなんてのがいるとなるとなぁ」
「そっすねぇ、素材的にも美味いモンスター少ないっすものね。ギルドにはそこまで美味くないって報告になるっすね
「そうなの? 残念ねえ」
多分何が残念なのか分かっていない。
「ただまあ、全部周ったわけじゃないっすから、まだ何かあるかもしれないっすね」
「可能性は低そうだけどな」
「違いないっす。さて、続きと行くっすよ」
残りの部屋はそこまで多くはない、今までの部屋はどこもかしこも良く分からない文字の文献や、日記メモばかりだった。
だが一行の眼前に広がるのは今までの扉より頑丈な扉であった。
「こいつは今までと違うな、きっと何かあるかぞ」
ゼノがそう言いつつ扉を調べだす。
手早く調べ終わると、鍵穴を覗き込んだ。
「罠はないが鍵がかかってるな、少し時間がかかりそうなんで。モンスターが来たらよろしく頼むぜ」
「いやよろしくじゃなくて、兄さんも戦ってよ」
妹の言葉を無視しながら鍵開けを始めるゼノであった。
最初は鼻歌交じりだったゼノも次第に静かになり、表情が険しくなっていく。
「これは思った以上に難易度が高いぞ、ちょいと真面目にやるんでモンスターはマジで頼む」
「了解っすよ」
それから一時間ほどが経った、モンスターに二度ほど襲われるも難なく撃退に成功している。
「あと、少し……あと」
ガチャンという音ともにゼノの顔が笑顔になった。
「よし、開いた!」
「うんうん、よく頑張ったわねー。頑張った子にはこのイワシのパイをあげましょう」
ゼノにイワシの頭の刺さったパイを手渡すアンジェリカ。
「お? 有難い。いただきます」
ゼノが躊躇うことなくイワシのパイを食べる。
「――な? アレを躊躇うことなく食しただと? と、言うか主よ、何故それを持ってきていた……」
「なかなか美味いですよ、これ」
ゼノは平気な顔であのパイを食べている、そのゼノの上手いという言葉を聞いて全員が固まっていた、当然手渡したアンジェリカもかたまっている。
「ゼノの味音痴は凄いっすね……」
「え、ええ。渡したオバさんが言うのも何だけど、アレ生臭くて不味いのよね。息子にも大不評だったもの」
「我が兄ながら恐ろしいです、というか何で不味い物持ってきてるんですか」
「何となくよ」
オバさんの行動原理の大部分を占める、それは何となくである。
何となくで人に不味い食べ物を渡す迷惑なオバさんアンジェリカ、これでもこの物語の主役である。
くだらないやり取りをした後に一行は部屋へと入っていく。
部屋へと足を踏み入れた一行全員が息を飲む、何と言うか他の場所より温度が一度から二度ほど下がったような、そんな雰囲気である。
「オバさんの気のせい? この部屋に入った瞬間少し気温が下がったような気がするのだけど?」
「気のせいじゃないですよ、俺もそう感じました」
「ボクもっすね」
「私も」
アンジェリカと同じ意見の三人、リヴァイアサンも同じ意見なのか腕を組んで考え事をしているようだ。
「……何というか、嫌な魔力の流れだな」
リヴァイアサンはそれだけを言うと当たりをぐるっと見回した。
壁には他の部屋と同じ絵や巻物らしきものが飾ってある。
「うへ、この絵に描いてあるのなんか油黒虫みたいじゃないっすか?」
そこには油黒虫のような生き物が描かれていた。見た感じどう見ても美術的な価値はなさそうだ
「んー、そこらへんに油黒虫の絵や模型があるわね……悪趣味だわー、ここって何油黒虫の研究所かしら?」
「最悪っすね。文字が古代文字なためか読めないッスよこれ」
ここのフロアにある書物や巻物は全て古代文字で書かれていた、古代文字は今から千年以上前に使われていた文字で、現在では読める者は少ない文字である。
「リヴァイアサンはこの文字読めるかしら?」
「残念ながら我にも無理だな、我が誕生する数百年前に滅んだ文字だ。我も読めぬよ」
ここにいるメンバーは誰も読めないようだった。
そしてしばらくこの部屋を調べるが、重要っぽそうな物はなく、書物関連も読めない文字のものばかりであった。
油黒虫研究施設と思われる謎の施設、これ以上の探索が出来ないようだった。
「さて、今回の任務はここまでッスかねぇ」
「そうだな、ここまで調べればいいだろう」
マーシャの終了宣言にゼノが賛同した。
「オバさんはよく分からないので、マーシャちゃんに任せるわよ」
「了解っす、んじゃ。ここまでにしてギルドに戻るっすよ」
マーシャの撤退指示により一行は元来た道を戻ることにした。このダンジョンが後にとんでもないことになるとはつゆ知らず……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます