25話 まあ、二階はほぼ以下略で
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「これで一応区切りなのかい?」
メルリカ婆さんがバルトン教授に調査の事を尋ねた。
ここは、魔女の試験場。
「ええ、今回はここで区切りになりますね、なかなか興味深い書物も見つかりました、どうやらあの像に関係あるようです、こればかりは解読しないと詳しくは分かりませんけどね」
バルトン教授は騎士たちに荷運びの指示を出しながら、メルリカ婆さんの質問に答えた。
「ただ、あまり好ましい感じではないので、しばらくはここを使った試験は避けたほうがいいでしょうね」
バルトン教授の言葉にメルリカ婆さんはふむと唸る。
「確かにね、あの像が見つかってからは何か嫌な雰囲気がするんだよねぇ。教授の言う通り少しの間使わないように学園長へ話しておこう」
「それがいいでしょう」
バルトンの意見を聞き入れるメルリカ婆さんである。
二人が話してる間ヴィヴィアンは首をかしげながら、騎士団のやり取りを見ていた。
「……これを、――に渡すように、けして――れるな」
「は!」
騎士団長のバーモント卿とその部下が何かのやり取りをしている。どうやら手紙を誰かに届けろと言ってるようだ、少し距離があるため聞き取りにくい部分があった。
「あぁあぁ、うあ?」
ヴィヴィアンは何かが気になるのか首を傾けて、凄い角度になっていた。
ヴィヴィアンが見ている間に、手紙を渡された騎士は馬に乗り走っていった。
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――――
「あらあら、なんか二階もあっさり終わりそうね」
二階は一階のように集会場がなくどちらかと言えば、もの落ち等の部屋が多かった。
しかし、このフロアもこれといって何もなく探索が進んでいた。
「俺はそのほうが楽でいいですけどね」
「それはそうなんだけど、オバさん的にはもっと、凄い何かがあってもいいかなって思うのよ」
アンジェリカが何も無かったことにゼノが返すが、アンジェリカは更にとんでもない事を言って返した、実に無責任である。
「アジャルタさん、それフラグですから」
リノがフラグ立てするアンジェリカに突っ込む、しかし意外な所でもアンジェリカのような発言をしている人物がいた。
「いやー、でもあっさりすぎるッスね。外から見るにそこまで大きなダンジョンではないっすから。地上四階てとこっスね」
「そうですね、多分それくらいじゃないかと思います」
「すると、あと二階ほどっすよね、ここで何もないとなると。次でとんでもないのが出てくるか?このダンジョンはハズレダンジョンになるってことっすから。何もないのがどちらにしても厄介な状況やもしれないっすね」
何もなければ無いで困ると言うのが、ダンジョンの厄介なところであった。
「ハズレダンジョンって何かしら?」
ダンジョンビギナーアジャルタの質問に答えたのはゼノであった。
「ハズレダンジョンってのはですね、旨みの無いダンジョンのことですね。例えば、そのダンジョンにマジックアイテムを作るため、必要な素材を落とす魔物がいたとしますよ。するとそれを欲しがる人がいる、その人が依頼を出せば、冒険者に仕事ができる、するとギルドにも利益が出る。依頼主も欲しいものが手に入る、その流れがあるダンジョンだとダンジョンに価値が出ます」
「なるほど、その仕組みが作れないダンジョンが、旨みの少ないハズレダンジョンってことなのね」
ゼノの説明で納得するアンジェリカ
「そういう事です、ここに出るようなアンデッドだと基本的に何も落とす事が無いので、好んで倒そうって人は少ないですね、七不思議の復活宝箱がそこそこの数あるダンジョンなら価値はあるんですが、このダンジョンの宝箱は復活するのかまだ分からないし、数も少ないですからね」
「例えここの宝箱が復活するタイプでも、宝箱復活のサイクルが遅いとそれはそれで微妙なのです。私たちの今回の仕事はその辺りの調査も兼ねてるんですけどね」
ゼノの説明にリノが捕捉する。
ダンジョンの調査は割と重要な仕事なのだ。
「さーて、それじゃあ少し休憩したら上に行くっすかね。この調子ならここの調査はすぐに終わるっすよ」
マーシャがそう言うと、各々が腰を下ろし休憩に入る。リヴァイアサンは腕を組みマーシャの方を向くと話しかけた。
「ふむ、マーシャよこの規模のダンジョンの調査だと、本来はどれくらいの時間がかかるのだ?」
「んー、そっすねぇ。パーティー構成や規模にもよるっすけど。ボク達なら三から五日ほどっすね。けど今回のダンジョンだと人工物のダンジョンで魔物が少なく大した強さでもないから、長くて二日、上手くいけばその日に終わるっすよ」
「なるほどな、ではこの規模で今のままなら一から二日ってとこなのだな」
「そっすね、ま、こう見えてボク達のパーティーは早い方なんで、普通ならもっとかかるっすね」
実は優秀なマーシャ達である、そこに今回はアンジェリカが入ったと言う事は……戦力アップだと思いたい。
でも、多分効率は下がってる気がするんだー。
――
――――
約二〇分ほどの休憩の間も何事も無かったようで、一行は準備をして階段のある部屋へと向かった。
「この部屋が最後っすね」
「あらー、階段を護るように槍を持った骸骨が二体いるわね。あと何でこの建物は部屋の中に階段があるのかしらね?」
「……」
部屋の外から中を覗き込む、すると装備の立派なスケルトンが二体中で待ち構えていた。
ついでにアンジェリカの疑問は全員で無視した。
「ここはボクがまずは一人で部屋に入って、敵の注意を引き付けるッスよ」
マーシャが作戦を皆に伝えようとしたが、アンジェリカが作戦説明を遮ると。
「んー、マーシャちゃんばかり危ない目に合わせるのは、オバさん何か違うのよ」
「うむ、そうだな」
アンジェリカにリヴァイアサンも相槌を打った。
「ここはオバさんの頑張るところね」
「何か良い考えでもあるっすか?」
「考えも何も、ここからあの二体を倒すのよ」
ケロっと簡単そうに言ってのけるアンジェリカ、そう彼女は魔王に匹敵するほどの魔力を持つ何だか得体のしれないオバさんになっているのだ。
「距離がありすぎじゃないっすか?」
「まあまあ、見てなさいな。この油黒虫を倒すためにオバさんが習得した魔法を」
そういうとアンジェリカは魔法の球を作る、大きさとしては野球ボールほどである。
マーシャ達がアンジェリカが何をするのかと見守っている。
そして、その魔法の球を握り振りかぶると、アンジェリカは魔法球を投げた! しかもかなりの速度が出ている。
「「え? 投げた!(ッス)」」
リノとマーシャの声が重なる。
しかもどう見ても目標から、外れてるように見えた。
「的から外れてる! アジャルタさんどうするんですか?」
今度はゼノが叫んだ。
しかし、何故かアンジェリカとリヴァイアサンは落ち着いていた。
そう、よく見ると投げた球がカーブを描き曲がっているのだった。
「え? まさか……」
「そのまさかよー、オバさん結構肩が強いのよー」
アンジェリカがそう言った瞬間に、ボゴ! っと凄い音がした。
魔法球がスケルトンの頭に命中し、その頭がはじけ飛んだ。
「……すげぇ」
「さて、次よー」
ピッチャー振りかぶって、第二球、投げた!
間髪入れずアンジェリカが第二球目を、もう片方のスケルトンへと投げた、今度は先ほどとは違いアンジェリカの利き手側の方向に曲がっていく。そして少し球が落ちながらスケルトンの頭に命中、やはり弾けた。
「うんうん、やはり安全な所から攻撃して倒すのが賢いわよね」
「まさか、このような形であの謎の特訓が役に立つとわなぁ」
二人してうんうんと頷いていた、なんなんだこいつら?
「魔法の球を投げる……いや、それどう考えても油黒虫倒すための練習じゃないッスよね?」
「油黒虫は遠くから倒した方がいいと思ったのよぉ」
「はぁ、色々と滅茶苦茶っすね……流石っすよ」
マーシャなんとかツッコミ入れるが、即行で何かを諦める、そして一行はスケルトンのいた部屋へと入っていく。
「ゼノ、罠が無いか見てほしいっす」
「了解、ま、この部屋にゃ無さそうだけどな」
少しするとゼノが罠を調べ終わる。
「案の定何もないな。このまま上に行っても大丈夫だろう」
「オーケーっす、それじゃまたボクが最初に昇るので後から来てほしいっす」
「「りょうかーい」」
こうして苦労することなく二階の探索は終わりを告げた。
次回は三階の探索だー。
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