15話 最上階

 言うや素早く、マーシャはゴブリン達に向かって走り出す。

 一番手前にいたゴブリンの腕をつかむと、ぐるんと一回転しアンジェリカたちの方に向かって投げ飛ばす、プロレスのハンマースルーだ。

 一匹をアンジェリカたちに任せると、他の五体のゴブリン達の前に立ちはだかった。


「さあ、ちょいと遊んでもらうっすよ!」


 そう言って槍を構えた。

 そして、投げ飛ばされたゴブリンはたたらを踏み、踏みとどまろうとしたが。


「あぁ、ぐあぁ。くうらえぇ!」


 そこにヴィヴィアンのラリアットが炸裂した、ゾンビの容赦ないパワーから繰り出されるラリアットに首を刈られて今度は縦に回転し背中から叩きつけられるゴブリン。


「ぐぎゃ!」


 汚い悲鳴をあげるも、急いで立ち上がろうとするゴブリンここは流石にザコとはいえ魔物と言ったところか中々に丈夫だ。

 しかし立ち上がった所にアンジェリカの魔法が飛んできた。

 ピンポン玉程度の大きさの赤い弾がゴブリンに直撃するとゴブリンが炎上した。


「当たったわー」


 呑気に言いながら自分で拍手をするアンジェリカ、しかしこうしてあっさりと一匹を排除した。

 しかしマーシャはすでに二匹を排除していた、そしてアンジェリカ達が倒し終わった所へまた一匹を送る。


「マーシャはかなり場慣れしてるようだな」

「ああ、この子相当経験を積んでるようだねぇ」


 水晶の向こうでメルリカ婆さんとリヴァイアサンが感心してみていた。

 そしてゴブリンはあっさりと倒されていた。


「ま、こんなもんすかね」

「じゃあ、次の階に行きましょう」


 アンジェリカ一行は階段を登りさらに奥へと向かった。

 時々ゴブリンが出てくるも、もはや彼女たちの敵ではなかった。


「プニャンピーとその亜種だけなら楽だったんすけど、流石に最上階ではそうもいかないっすね」

「でも今のところは問題なく進めてますね」

「最後に凄いの来たりしてね」

「それは勘弁してほしいっすね」


 アンジェリカそれはフラグというものだ……

 そんな軽口をたたくほどの余裕はあるらしく、彼女たちは進むのであった。


 ――

 ――――


 このフロアは大して大きくないようで、苦労せずに奥の部屋に来ることができたようだ。道中たまにアラートの罠があり引っかかることもあったが、アラートの罠はそれ自体に危険はないのでアラートが呼んだモンスターを倒すだけで良かった、出てくるモンスターもゴブリン一匹なので楽な罠だ。


「はぁ、そろそろ腰に来るわー。でもここが最後みたいね」


 アンジェリカがそう言ってる間に、マーシャが素早く入り口に罠が無いかを確認。そして確認が終わると部屋に入った、奥の祭壇に合格の証があった。しかしその前には鎧を着たゴブリンと四体のゴブリンがいた。


「彼らがガーディアンですね」

「そっすね、ゴブリンソルジャーがいるっすね。あいつは普通のゴブリンより腕がたつ、いわばゴブリンのエリートっすね」

「あら? そうなると要注意って事ね」


 マーシャがゴブリンソルジャーの説明をしていると後ろの扉が閉まった。


「はは、ここまできたら逃がさないって事っすね。覚悟を決めるッス……ん?」


 マーシャがいいかけるとそこに異変が起きた、壁が吹き飛ぶと奥から大きな影が出現、そして近くにいたゴブリンたちを殴り飛ばした。


「ん? あらー? これも演出かしら?」

「た、多分、違うんじゃないでしょうか?」


 身長三メートルはある大柄な魔物が立っている、逆立つ髪の毛のカバのような顔、肌の色は灰色がかった青の怪物、手には棍棒を持っている。


「な! トロール? しかもハイ・トロールっすか!? 初心者冒険者が相手するような魔物じゃないっすよ!」

「どれくらい強いのかしら?」


 当然のようにマーシャに尋ねるアンジェリカ、マーシャの様子から察するに楽な相手ではないようだ。


「……そっすね、中位冒険者が複数パーティーで討伐する、かまたは上位冒険者パーティーが出張るモンスターっすね」

「た、たしか怪力なだけでなく、高い再生能力も有する難敵ですよね?」

「そっすね、再生力そこが一番キツイところっすね。一発デカイのがないと厳しいっす」


 ハイ・トロールと対峙する一行、一方水晶の外も大騒ぎだ。


「どうなってるんだい! なんであんな大物が出てくるのさ?」

「ん? アレは予定にない魔物なのか?」

「当然だろ、初心者が相手するような魔物じゃないからね、しかも扉がしまっちまってる」


 メルリカ婆さんは予定にないハイ・トロールの登場で冷静さを失っていた、リヴァイアサンは何故か落ち着いている。


「アンタ落ち着いてるね、お前の主がピンチなんだよ?」

「うむ、そのようだな。しかし何故か知らぬが大丈夫という気がするのだ」

「どっちにせよ応援呼ぶにも時間がかかっちまうねぇ……急いで救出隊を編成させるが持ってくれよ」


 ――一方マーシャはこのメンバーでハイ・トロールを倒すことを考えていた。火力はあるそれをどうやって活用すべきか。


「こりゃ、やっぱボクが気張るしかないっすね。さてどうする?」


 全員がマーシャをじっと見ている、主人公のオバちゃんもマーシャを見ている、主人公が覚醒してピンチを切り抜ける……そんな展開はオバちゃんなので無い。


(アジャルタさんのあの火力ならハイ・トロールも一撃で倒せるっスね、すると魔力を溜めるための時間が必要っすけど、そこはやっぱボクがやることになるっすよねぇ……)


 アンジェリカは何故かシャドウボクシングをしていた、やる気の表れなのだろうが謎である。


(ボクが時間を稼いでルーシアさんにサポートに回ってもらう、ヴィヴィアンにアジャルタさんの護衛を頼んで最後だけ手伝って貰うのが妥当っすよねぇ、とりあえずやってみるっす)


 ハイ・トロールがゴブリン達にトドメを刺すとアンジェリカ一行に目を向ける、マーシャは素早く全員に作戦を伝えると動き出した。


「アジャルタさん! 攻撃魔法をお願いするっす! 威力は実技の時の半分の力でいいッスからね!」

「任せて、オバさんはりきっちゃうわよー」


 言うと行き成り魔力の球をつくり出すアンジェリカ。

 マーシャもルーシアの補助を受けてハイ・トロールへと向かう。

 接近ついでにマーシャの槍がハイ・トロールの腹を貫く、しかし貫いた瞬間から再生が始まった。


「うわ、なんですかアレ気持ち悪い……」

「その気持ち悪いのが厄介なんすよ。しかし今回はその習性を利用するっすよ」


 こうして卒業へ向けての最後の戦いが始まった。

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