9話 全自動箒
教室に戻ってきた一行。
薬を作る者は調合を、道具を作る者は刻印の作成へと取り掛かる。
やはり最初は慣れないためか、皆苦労しているようであった。
「ルーシアその印じゃないよ、それじゃただの魔除けじゃないか」
「え、え? 違うんですか?」
「違うねえ、そこの線の数が多いんだよ」
「え? え? え?」
メルリカ婆さんに指摘されるルーシア。素人が見ても、ちっともわからない謎の模様が描かれていく。正直理解できない。
「ギギギ。こ、細かい、ささ作業難しい……」
「配合これで合ってるんスか? なんか量が多い気がするッス」
薬組も苦戦中。マーシャもヴィヴィアンもどうみても、薬の調合には向いていなさそうである。案の定のようだ。
「おい! ヴィヴィアンの薬から紫の煙が出ているではないか! 机! 机が焦げておる!」
「ヴィヴィアン! それ防腐剤じゃないッス! 腐食剤っス!」
「もはや劇薬ではなかろうか?」
ヴィヴィアンの作る薬で、マーシャ、リヴァイアサンがぎゃーすか騒いでいる。授業中は静かにしましょう。
「あらあら、皆騒いで何か平和ねぇ。オバさんも頑張って箒を作らないとねぇ」
マイペースなアンジェリカ、平和の二文字で周りの騒がしさを流すと、自分の作業に没頭する。
さらさらと慣れた手つきで円を描き模様を描いていく、本を見ては頷き模様を加えていく。
「うんうん、アレンジもいい感じよ」
だからアレンジすんなよ、謎アレンジが加えられていく魔女の刻印。
そして、よく見ると何故か手足の付けられた箒が置いてある、ただ手は右手がハタキで左手が塵取りとなっている、正直嫌なフォルムだ。
アンジェリカ的にそのフォルムで全自動箒なる物を作るつもりらしい。そのフォルムからどう言ったものを連想していたかが分かりそうなものだ。
「塵取りつけてみたけど地味に使いにくそうね、でも試作段階だしやってみましょう」
足で掃いて左手で取る、まあ使いにくいだろう。ただ色々試す姿勢は重要である。
「流石に最初から全自動は無理っぽいわねぇ、簡単な指示だけ聞くようにするのが良いかしら?」
周りがギャーギャーやってるなか黙々と作業を……案外独り言が多いから黙々ではなかった……
メルリカ婆さんも静かな(?)アンジェリカの方へやってくると術式を見る。
「ん? 何なんだいその模様? あんた独自の模様書いてるねぇ。」
「ええ、いい感じにアレンジ出来てると思うのよ」
え? て顔をするメルリカ婆さん。それはそうだろう、別にそんなことを教えた事はないのだし、謎のアレンジを加え続けるアンジェリカに尋ねるメルリカ婆さん。
「アレンジしてどうするんだい? まともに起動すらしなくなるんじゃないかい?」
「神のみぞ知るってやつよ」
「大丈夫なのかい?」
あきれ顔のメルリカ婆さんい大して、含み笑いをするアンジェリカ。
「大丈夫よー、見ててちょうだいね」
「本当に大丈夫なのかねえ」
――
――――
そして数時間後。
「よーし、大体できたようだね」
メルリカ婆さんは一同を確認して声をかけた。
マーシャ、ヴィヴィアンはぐったり倒れているが、机には小瓶が置いてあり一応は完成したようだった。
ルーシアも机にアミュレットが置いてあり完成はしたようだ。
当然リヴァイアサンは魔女ではないので何も作って……何故か机に鰹節が置かれていた。しかも何故か満足げな雰囲気だ。
「うんうん、起動テストはまだだけどできたわよー。全自動箒」
アンジェリカは得意げな顔で箒を指さしたが、何故か箒はプルプルと震えている。
箒は普通プルプル震えない、しかも震えるだけでなくなんか変な音もしていた。
「アジャルタ、それ本当に大丈夫なのかい? 震えてるしギギギって変な音までしてるじゃないか?」
「大丈夫だと思うわよ」
そういう時は大体大丈夫ではない。きと爆発するのがオチである。
「では、起動実験開始よ」
アンジェリカが箒の刻印に魔力を込める、すると箒が一人でに立ち上がると教室の床を掃き始めた。動きはぎこちないが確かに掃いているのである。
「なんだい、割と素直に成功じゃないのかい?」
「んー、動きが微妙だけど初めてにしては良い感じよね」
アンジェリカとメルリカ婆さんは感心してみていた、他のメンバーも箒を見守る。五分ほど経ったがコレと言って爆発する様子は無く、ぎこちなくだが少しづつゴミを集めていった。
「はー、初めてなのに凄いっすね」
「うむ、主は本当に天才なのかもしれんな」
リヴァイアサンが自分の主を感心していた時であった、ヴィヴィアンがただでさえいつも斜めの首を更に傾けている。
「ん? うあぁぁ?」
ヴィヴィアンがルーシアの肩をつついた。
「どうしました?」
ルーシアはヴィヴィアンにつつかれ、ヴィヴィアンの方に顔を向けようとしたとき。ルーシアも異変に気付いた、どうやらヴィヴィアンはこれを伝えたかったようだ、箒の塵取りになってる腕がうっすらとした煙を出していた。
「あ? 煙……ちょっと、け、煙でてませんか?」
ルーシアは呟くと、すぐに周りに聞こえるよう煙だと言った。
更にギギギギと大きな音がしだした、最初メルリカ婆さんが指摘してた音だ。
ルーシアの声と音により、皆がざわつく。
――ガキン。嫌な音が響いた。
この音とともに箒は両腕を広げ回転し始めた、そして回転しながら暴れだした。
「やっぱり、変な音がしてると思ったら失敗じゃないかい!」
「あらー? どこで失敗したのかしら?」
叫ぶメルリカ婆さんと、ふーと息を吐いて何故かしらという顔で首をかしげるアンジェリカ。
箒はリヴァイアさんとマーシャの方に向かっていった。
「こっちに来たっすよ!」
「ええい! 迎撃するぞ!」
「了解っス」
マーシャは壁に立てかけてあった槍を手に取ると、回転する箒の足元を薙いだ。
しかし器用に飛んで躱す箒。
「えー、箒なんか器用っすねぇ」
「何をしている!」
リヴァイアサンも箒を止めようと、ワカメの手を振りぬくがこれも躱す。
「なんだと!?」
マーシャとリアイアサンの攻撃を何度も器用に躱す箒。
「うんうん、動きが良くなったわね、でも目的が変わってるのは失敗ねぇ」
「そういう問題じゃないだろ……」
箒とマーシャ、リヴァイアサンのバトルを見ながら感想を言うアンジェリカ、どうやら自分が原因だとは思っていないようだ。
「そ、そうだ。さっき作った薬で強化して戦うッス!」
「大丈夫なのか?」
そういってマーシャは先ほど自分で作った薬を器用に飲みながら、箒と打ち合う。
「まっず! クソ不味いっす! なんすかこれ? なんとも形容しがたい臭みが……おえーッス」
しかしマーシャの動きが加速する、効果はあったようだ。
ただその時、ギギギという音がひときわ大きくなりだす。箒が変な風にプルプル震えだした、それと同時にマーシャのお腹も鳴る。
「ん?」
マーシャが顔をしかめた途端に……箒が爆発した。
「あー! 二重の意味であーッス!」
「やはりこうなったか!」
「あらあら」
「あらあらじゃないよ!」
爆発に巻き込まれたマーシャとリヴァイアサン煙が晴れると、髪型こそアフロにはなっていないが真っ黒になったマーシャとリヴァイアサンが立っていた。
「死ぬかと思ったっす……いや、死ぬかもしれないっす! お腹やばいッス!」
そういうと真っ黒なままトイレへとダッシュするマーシャであった。
「あら、マーシャちゃんはしたないわねぇ」
「……あうぁ、ルーシア。箒が変な音をたてて……あ、あ、れ?」
「ヴィヴィアンさん、私をつついてから言うまでがいくら何でも遅いですよ。マーシャさんと尻尾さん真っ黒ですよ」
教室は箒の爆発で滅茶苦茶になっていた。
「はー、全く何なんだい……アジャルタの箒はとんでもなかったねぇ」
「うーん、どこがダメだったのかしらね」
「ダメのはあんたの頭だろうが……」
メルリカ婆さんがアンジェリカにそうつっこむと、残りの時間は全員で教室の掃除をするはめになった一日であった。
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