第5話 ボス撃破! ほとんど伊藤さんの手柄だね

『レベルが上がりました。スキル、明星みょうじょうを習得しました』


 うお、唐突にアナウンスが入ると吃驚するな。


「何かスキルを習得したと言われたわ」

「ええと、メニュー開いてスキル欄見てみて。この右上のところのやつ」

「二つあるわね。読み方はキョクゲキで良いのかな? 極める攻撃で。クリティカルヒットで与えるダメージが二パーセントアップ、だって」


 ふむふむ『極撃』か。内容から察するに、取得条件は多分クリティカルヒットの通算回数か、あるいは連続回数ということだろうか。確率じゃなくて何らかの条件でクリティカルになるということだろうか。


「よく分かんないんだけど、まず、クリティカルヒットって何?」

「カウンター攻撃がスコーンって気持ちよく決まることってあるじゃない? あとは、攻撃見事に急所に直撃したり、それのことだと思っておけば良いんじゃないかな。それがうまくいった時にあのオレンジ色の光が出るんだと思う」


 顔面が急所なのか、勢いよく起き上がろうとしたところに叩き込んだからなのか。よく分からないが、何らかの判定があるのだろう。


「もう一つはミョウジョウ、明るい星」

「それは私も習得したみたい。えっと、攻撃力が、敵レベルマイナス自分のレベル、それに掛けることの十パーセントアップ?」


 これって敵の方がレベルが低いと攻撃力下がるの? っていうか、レベル十以上下だったら、攻撃したら自分がダメージ受けるの? なんか使い勝手悪そうだなあ。パッシブスキルからポイッとスワイプしたら外れた。伊藤さんも外すことにしたようだ。




「えーと、奥に行く前に剣はきちんと回収しておこうか」


 インベントリを開いて剣を一本放り込む。もう一本は伊藤さんに渡そうとしたら、やはりいらないと言われた。骸骨の剣を貰うから、それで良いということだ。


 装備すると、左腰に自動的に鞘が装着される。これは一体どこから出てくるんだろう? 伊藤さんは左右の腰に一本ずつ、二刀流の状態になっている。わたしも右の腰にも差しておこう。盾とか入手していないし、予備武器としてあった方が良いだろう。


 改めて周囲を確認すると、骸骨の椅子の奥の壁に扉が開け放たれている。あれが出口なのかな。まさか罠ということもあるまい。


 扉の奥は、小部屋になっていた。小部屋といっても、五、六十平米くらいはありそうだけど。そこに踏み込むと、派手なファンファーレが鳴り響く。


「Congratulations! 第一階層初クリア者に特典が贈られます」


 アナウンスがあり、部屋の中央にスポットライトが当たる。そこには名前の浮かんだ二つの大きな宝箱が並んでいた。


 開けてみると、二つとも中身は同じっぽい。靴に水晶玉みたいなやつ、メダルが三枚に革袋だ。これは人数分出るという理解で良いのだろうか?


 インベントリに入れてみると、靴は『蹴靴』、名前そのまま蹴るための靴らしい。装備がでるのは良いんだけど、キックのための靴ってどういうことだよ? 剣と魔法を謳い文句にしたゲームじゃなかったのかよ?


 水晶玉は『帰還の水晶』これも名前そのまま。迷宮内で使うと町にワープできるアイテムということだ。


 革袋の中身はお金で、所持金がゼロから一千二百Gになった。そういえば、今まで文無しだったのか。


「水晶玉で町に帰れるみたいだけど、どうする?」

「そろそろ時間だし、ログアウトしようと思うんだけど、町に戻った方が良いのかしら?」


 ここでログアウトして大丈夫なのかはよく分からない。多分、町に戻った方が安全ではあると思う。

 そう伝えると、伊藤さんも一度町に戻ることにした。


 フレンド登録をして伊藤さんはログアウトしていったが、わたしはまだまだ頑張るぞい。取り敢えず、全然見ていなかった町の中を見て回ろうか。



 広場を中心に色々見て回ると、少しずつ分かってきた。初心者向けチュートリアルもやってみたし、それでお金も百ゲー手に入った。Gと書いて「ゲー」と読むらしい。


 武器屋や道具屋を覗いてみたけれど、ロクなものが売っていない。これは生産職が育つのを待つしかないのだろう。店でやたらと強力な武器が買えるならば、誰も鍛冶屋なんてやらないだろうしね。


 わたしは剣は入手したし、第一階層はキックで進めるし、今すぐ装備の購入はしなくても良いだろう。お金はとりあえず貯めておこうと思う。


 そして、大事なことがある。CPというものだ。なんの略なのかは知らないが、生産やら何やら、町での活動をするときに必要となるらしい。


 一人一回だけ引ける初心者用ガチャなんてのもあるのだが、これを回すにもCPが必要で、いくら注ぎ込むかを自分で決めることができるのだ。


 普通はこれで初期装備を入手するらしいのだが、既に剣は手に入れたし、レベルが上がって、注ぎ込めるCPが増えてからにしようと思う。


 とにかく、アレもコレも後回しだ。今はレベル上げと、お金集めと、情報の入手が優先だ。


 ということで、再び迷宮に向かう。第一階層のマップはまだ全部は埋まっていない。というか、結構スカスカだ。まず、コレを埋めよう。どこかにお宝とかあるかもしれないしね!


 マップを見ながら行ったり来たりを繰り返し、チビデブを蹴り殺していると、レベルも上がる。ダガーもできるだけ強奪するようにしていると、どんどんと溜まっていく。


 インベントリの一枠に何個まで収まるんだろう? やっぱり百個とかなのかな? 収まっているダガーの数は三十三。まだまだ入るね。インベントリの枠は三十あるし。



 時間が経つにつれてレベルは上がるし、マップも塗りつぶされていくが、それ以外の変化もある。

 他のプレイヤーの存在だ。

 サービスインから三時間以上が経ち、第一階層の入口付近はかなりの数の人がいる。


 彼らの戦いぶりはかなりヘッポコだ。まあ、わたしも他人のことを言えたものでもないが、パーティーにお誘いしようかと思えるような人はなかなかいない。

 チビデブを相手に攻撃は躱されるし、反撃は喰らうしで、まあ、見ていられない。伊藤さんから見たらわたしも同レベルなんだろうけど……


 人の少ない奥の方へと向かい、枝道を進んでは戻りを繰り返していると、物凄い数の芋虫がウヨウヨと蠢いている部屋を見つけた。十メートル四方程度の部屋に、百は軽く超える数の芋虫が折り重なるようにいるのだ。


 とてもキモいが、なにかありそうだし行ってみる。数が数だけにキックだけでは対応しきれないだろう、ということで、両手の剣を抜き逆手に持つ。


 部屋に突撃して、手近な芋虫を蹴り飛ばし、剣で突き刺す。芋虫には剣はよく効くようで、二突きで絶命する。

 どんどん殺していっても、減っている気がしない。殺している傍からリスポーンしてたりしないだろうな?


 と、思ったりもしたが、五分ほど延々と蹴って刺してを繰り返していると、芋虫の密度が減ってきたのが分かるくらいには少なくなっていた。だが、それでもまだ百匹くらい残っているんじゃないだろうか。


 なんかスキルを習得したとかアナウンスが流れたけど、確認する暇はない。いや、一旦部屋から出れば確認はできるだろうけれど、出た瞬間にリスポーンされても敵わない。


 もう、練習だと思ってとにかく殺し続けていると、大分、間合いの取り方が分かってきた。剣での下段への攻撃も様になってきたんじゃないだろうか、蹴り転がした芋虫をすかさず剣で薙ぎ切ってやれば芋虫は死んでいく。


 気がついたら、部屋の中の芋虫は数えるほどしかいなくなっていた。


「よっしゃ、もうちょいで終わりだー!」


 喜び勇んで殺してまわれば、十数匹などすぐに終わる。だが、ここで油断してはいけない。すっ転んで袋叩きにあったりしたのでは目も当てられない。


 最後の一匹を倒して大きく息を吐くと、部屋の中の確認だ。出入口、と言えるものはいくつかある。が、入ってきたところ以外は、やたらと高い位置にある。


 一番低くても三メートルくらいの高さだ。壁面をよじ登るにも、取っ掛かりがなさすぎる。ジャンプすれば届くかとも思ったが、岩がヌメネメしていて掴まれない。


 ジャンプ力を上げるか、梯子や台を用意しないとどうにもならなさそうだ。


 現在のレベル、芋虫を倒しているうちに一つ上がって八になっている。って、そういえばスキルも習得したんだっけ。メニューを操作して確認してみよう。


鏖殺おうさつ


 なんか酷く物騒な名前のスキルである。効果は、敵の数が十倍以上のときに攻撃範囲二倍、攻撃力十パーセントアップ。

 攻撃範囲二倍ってどうなるんだ? 試してみたいけれど、いつになるのか分からない芋虫のリスポーンを待っているのも面倒だ。これは、そのうち確認かな。

 何か、どんどんやることが山積みになっている気がする。


 芋虫部屋を出て、迷宮の探索を再開だ。まだまだ行ったことのない枝道はいっぱいある。だんだんと人に会う頻度が増えているし、第一階層の探索は早めに終わらせたい。

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