第23話 洞窟探検

 俺は洞窟の中を歩いている。

 薄暗く鍾乳洞からポタポタと水が落ちてくる。

「王国騎士団が魔獣を討伐した後なんだろう?

何を調査するっていうんだ」

 ランタンを持ち横を歩くカルメラが答える。

「道に迷わないように内部構造を見ておくのではないでしょうか?

地図を頼りにチェックポイントを目指しましょう」

 

 こんな状況になってしまったのは泣き落としに弱かったからだ。

 何度も模擬戦で泣きつかれ勝ちを譲り続けた結果、点数が足りなくなり補填が必要になったのだ。

 まあ自業自得だから仕方ないが……。

 

 何処からかロアナの声が聞こえた。

「ユウキ君ー。

居たら返事して!」

「ここに居るけど、何のようだ?」

 暫く待っていると彼女がやって来る。

「ユウキ君が負ける原因を作ってしまった事は悪く思っています。

だけど皆に泣きつかれて順位を落とすなんて本当にお人好しなのですね」

「泣かれたらどうしようもないだろう」

「私が守ってあげましょうか?」

 正直なところ、泣きつかれると困って何も出来ないんだよな。

 俺にとっては成績は割とどうでも良い事だ。

 人魚に投資した事業が上手く行っており生活に困らない程に金を得ている。

 暇つぶしに学園の生活を続けている状態だ。


 対して彼女は親が決めた結婚をしなければならない。

 優秀な成績を残せば選択肢は広がるが、無能だと判断されたら自由はなく自分の倍の歳の相手と結婚することにも成ってしまう。

 それを知ると可哀想に思えてしまって勝利に拘る事が出来なかった。

「嬉しいけど、悲しむ姿は見たくはない」

「だからユウキ君はモテないのよ。

優しい人より強く権力をもつ人に憧れるものです」

 優しくあろうとするのが不味かったのか。

 利用できる都合の良い男に成ってしまっている。

 それは嫌だけど……。

「もし俺がトップを取ったら、君は俺に惚れるのか?」

「ええ、それが出来るなら惚れるかも知れない」

 地獄にくもの糸が垂れているとして、それを掴み自分だけが助かろうとしたなら切れて落ちると言う話を聞いたことがある。

 もし他人に譲り自分は登らなかったら、その糸はどうなったのだろうか?


 自らの道を切り開くと言うのは蹴落とすことなのか?

「魅力的な話だけど、

そんな簡単な話しじゃないんだろう?」

「……ええ、また貴方を利用しよとうと考えている。

このままだと10歳も年上の男と結婚させられてしまう」

「どういう事だ?」

「毎月行っている仮装パーティーで、一目惚れしたらしいの」

 仮装パーティーは貴族等の権力者達も客人として参加する。

 ダンスをするのは学園生だけだが、交流と人脈を作るために見学に来ているのである。

 俺はあまり興味が無かったからダンスが終われば交流せずにさっさと会場を離れていた。

 

「嫌なら断ればいいんじゃないのか?」

「断るにはそれなりの理由が必要です。

優れた才能を持つ相手でなければ父は認めてくれない。

ユウキ君はメダルを持っているのでしょう?」

「メダル?」

 カルメラが耳元で囁く。

「褒美として貰ったメダルのことです。

現在13枚あります」

「あの記念品か……」

「私に良い提案があります」

「何だ?」

「既成事実を作ってしまえば良いのです。

彼女を抱きしめて唇を奪ってしまえば……」

 時々、カルメラが冗談を言うがこれは本気なのだろうか?

 この洞窟の中なら邪魔する者は居ない。

 だが無理やり奪って誰が幸せになるというのか。

「そんなことはしない。

実力で彼女から俺に口づけしてもらう」

「そうですか」


 

 ロアナに会話が聞こえていたらしく少し間合いを取り離れた。

 地味に遠ざけられるのは嫌な気分だ。

「ユウキ君は、この洞窟の悲劇を知っている?」

「いや教えてくれ」

「この洞窟にはドワーフと呼ばれる精霊が暮らしていたのです。

そこに少女が迷い込む……」

「ドワーフってどんな姿なんだ?」

「小柄なもさもさ髭のムキムキな筋肉質の妖精よ」

 うーん、小さいマッチョのおっさんみたいなのか。

 なんかヤバそうな雰囲気だな。

「ドワーフは少女を歓迎し持て成した。

だけど少女は食べ物を喉に詰まらせて死んだの」

「少女が死んだならドワーフがその話を伝えたのか?」

「違うわ。

その少女は怨念となってドワーフを襲ったの。

それ以来少女の怨念がこの洞窟を彷徨っている」

「そんな話をどうしてするんだ?」

「ユウキ君は怖い話が好きだって聞いたからです」

「一体何処の誰が、そんなデマを流しているんだ」

「秘密にするという約束なので言えません」

 

 風が通り彼女の髪が揺れる。

 不気味な声が洞窟内に響き渡る。

 ロアナの顔色が真っ青になって体が硬直した。

「風の音が声のように聞こえたんだ。

こんな所でずっと話をしているわけにも行かない。

先に進もうか」

 怖い話を信じていなくても自分の言葉で話す事によって共感を持ってしまうことがある。

 だから関連付けて考えてしまう。

 彼女は俺の手を握る。

 手が震えていたが温もりを感じ落ち着いたのか震えは止まった。

「実は怖い話しは苦手なんです」

「俺も得意じゃない」

 

 手を繋いだまま歩いていると彼女が突然抱きついてきた。

「きゃっ!」

「どうしたんだ?」

「何か冷たいのが……」

「上から水滴が落ちてきているんだ。

……」

 彼女の首筋に黒いうごめく塊が付いていた。

 小指ぐらいの大きさだ。

 それが血を吸い膨らみ丸くなっていく。

 なんだこれはヒルに似ているが、少し違う気もする。

「どうしたの?」

「動かないで欲しい、今取ってあげるから」

 カルメラがそれを止める。

「待ってください。

無理やり引き剥がすと肌を傷つけてしまいます」

「じゃあどうすれば良いんだ?」

 カルメラはランタンからロウソクを取り出し、その塊にロウを垂らす。

 それは離れ落ちた。

「吸血する小型の魔獣です。

まだ潜んでいるかも知れません」

「随分と詳しんだな」

「故郷の森にこれと似たのが居ましたのでよく知っています」


 ロアナは足元に落ちたそれを見て青ざめていた。

「私の血を吸っていたのですね。

なんておぞましい魔獣なのでしょう」

 彼女はそれを踏み潰す。

 血が飛び散る。

 恐らく吸い取られた彼女の血だろう。

 足を退けると小さな魔石が転がっていた。

「結構吸い取られたみたいだけど大丈夫なのか?」

「少し目眩がします。

こんな魔獣が居るなんて聞いていませんでした」

「確かに討伐目録には記載されてないな。

まあこれを発見できたのは大きいかもな」

 小型の魔獣は討ち漏らしているんだろうな。

 

 何もない洞窟だと思っていたからつまらなく思えたが、こういう危険な物があると解ると何かワクワクする。

 

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