第14話 人魚の肉は不死の味。

 次の朝は心地よい小鳥のさえずりで目が覚めた。

「おはよう」

 起きると既に部屋にはジュリエンヌが居た。

 彼女の部屋だから居るのは当然だが……。

「うん、おはよう……」

「良くも騙してくれましたわね。

カルメラは抱きついて離してくれなくて暑苦しい思いをしたのですわ」

「自業自得じゃないのか?」

 彼女はムッとして睨んできた。

 怖い……。


 怒らせるとろくな事がないよな。

 気を反らせるなにかが無いか……。

 雨は上がって青空だな。

 んっ?

「外を見て虹がかかっているよ」

 ジュリエンヌと一緒に外を眺める。

 何処から巨大な泡玉が飛んでくる。

 それは沢山浮かんでいて幻想的に空を彩っていた。

「本当、何か幸せの予兆なのかしら」

「多分そうだよ。

恐怖に耐えたから神様がくれたご褒美だ」

「それって、良いことだとしたら、

もう良いことは終わりなの?」

「そんなことはないと思う。

これは始まりに過ぎない」

 だふんね。


 ふと謎の声が聞こえた気がした。

「助けて……?」

「何を助ければいいのかしら?」

「いや声が聞こえたんだ」

 彼女は首をかしげた。

「私は何も言ってないですわ。

それにそんな声は聞こえない」

 彼女は手を耳に当て音を拾おうとするが、全く聞こえなかったようだ。

「俺の勘違いみたいだ」


 カルメラがやって来て食事に呼ばれる。 

 皆と食堂で食べている時も囁くような声が聞こえてきた。

 だが周りしそんな声が聞こえていないのか反応がない。

 カルメラが耳元で囁く。

「どうしました?」

 食べている時でもよく気づいて反応するな。

 俺の方をずっと見ているのだろうか。

「いやなんでも無い」

 とは言うものの気になって仕方ないんだよな。

 食べ終わったら声の聞こえる方に行ってみるか。


 いつも同じ料理が出てくるんだな。

 朝昼晩全部同じって……変化が欲しい。

 このパンは硬いからスープに付けるんだけど塩っぱい。

 饂飩うどんぐらいなら小麦があるんだから作れるかも知れないけど、出汁が問題だな。

 出汁といえば昆布。

 海もあるし手に入らないのか?

 ああ、もう一つ大切な醤油がない。

 港市で売ってたいか記憶にないな。

 もっとよく見ておくべきだった。

「食べられさえすればいいという考えなので、

同じものしか作らないんです」

 心が読めるのか。

「いや、とても美味しいよ」

「無理しないで、私も飽きています。

ですから食材を一緒に買いに行きませんか?」


 

 それで村の港にやってきていた。

 漁船が帰ってきたばかりで大賑わいしている所だった。

 大漁だったらしく過剰に取った魚を格安で売っていた。

「小魚がいっぱいだな」

 赤いのや青いの等色鮮やかな魚が多い。

 見たことのない魚が多く異世界だからと思っていたらサバやアジといった知っている魚も混じっていた。

 サバ味噌や煮付けは好きだけど、塩焼きでも良いな。

「魚は腐りやすいから、

干物にして保存出来ない魚は港付近でしか食べられないです。

ですから食べたことのない魚も多いんじゃないでしょうか?」

「美味しいのか解らないから迷うな」

「では私の好みで選んで宜しいですか?」

 カルメラが作ってくれるみたいだから任せるべきか。

 いや小魚といえば骨ごと食べられるフライや天ぷらが良い。

「カリッと油で揚げた奴が食べたい」

「解りました」

 

 遠くに人集りが出来ているのに気づき何があるのか近づいた。

 なんと人魚が取れたらしく手を縛られ吊るされていた。

 下半身が魚みたいになっている。

「人魚も食うのか?」

「食すと万病が治るらしいです。

とても高額で取引されていますが腐りやすくて保存が出来ない為に生きたまま取引されています」

 人魚が口を開く。

「お願い助けて……」

 漁師のおっさんが人魚の口を塞ぐ。

「この人魚は俺達の仕掛けた網を破り魚を盗み食いしてやがったんだ。

人魚は害獣でしかない全部駆除して俺達の海を取り返す」

 人魚の肉がどうして不老不死なのか疑問だったが、なるほどそう云う噂を流せば自然と欲しい人間が集まってくる。

 

 カルメラは囁く。

「出来れば助けてあげたい」

「どうしてだ?」

「幼い頃に私は海に落ちて、その時に人魚に助けて頂いたのです」

「なるほど、それはあの人魚なのか?」

「それは解りません。

違っているかも知れないけど恩を返したい」

 もし海に人魚を逃しても漁師達は納得しないだろうな。

 噂を流し滅ぼそうとしている奴らの考えを改めるのは容易ではない。



 俺は漁師の前に立った。

「人魚を譲ってほしい」

「その格好は、王国立魔術学園の……。

魔法の研究にでも使うのかい?」

「いや、開放する為だ」

「はぁ? これは漁の邪魔をする害獣だ。

生かしておけば、生活が苦しくなる」

「それは大きな誤解だ」

「一体何が間違っていると言うんだ?」

 漁師達は筋肉を見せつけるようにピクピク胸の筋肉を動かす。

 威嚇なのだろうか。

 男の筋肉を見ても嬉しくはないんだが……。

「ある国では狼が害悪だと絶滅させたんだ。

その結果は狼が食らっていた害獣であふれることに成った。

目先の利益だけを考え行動すればしっぺ返しを受けるぞ」

「人魚が食うのは魚だ。

網を破り魚を盗む」

「それはどうかな?

一方だけの意見を聞くのは公平ではない」

 俺は人魚の口を縛っていた縄をほどいた。

「魚を根こそぎ取られては私達は食べていけません。

それに稚魚が育たなければ魚が滅びしてしまいます」

「何言っている。

魚は神様が与えてくれたものだ。

幾らとっても無くなるはずながない。

横取りをしているから減ったんだろう!」

 神様が魚を作り出していると思っているのか。


「魚の卵は無いのか?」

「今の時期はないが、秋になれば卵が取れる。

……仮に人魚の言うことが事実でも、

彼らを滅ぼせばそれだけ食われる筈だった魚が助かる」

「所で売れ残った魚はどうしているんだ?」

「それは干して肥料として売っている。

よく作物が育つと人気でな」

 ……海の幸が無限に湧いてくると思っているのか。

 たぶん人魚が居なく成っても魚が減り続けて初めて気づくんだろうな。

「そんな事をしていれば魚が滅びるのも時間の問題だな。

無駄に大漁に取る事を止めないと死の海になってしまう」

「ふざけるな。

漁が出来なければ何で稼げっていうんだ」

「養殖すればいい。

魚を繁殖させ確保する」

「そんなこと出来る訳がない。

一体どうやるのか説明してくれ」

 具体的な方法は知りようがないからな……。

 困ったな。

 人魚が言う。

「私にそれをやらせてください。

魚が増えることは私達にとっても良いことです」

 漁師達は笑い相手にする様子はなかった。

 

 俺が袋から金貨を取り出すと、漁師たちの目の色が変わった。

「この人魚は俺が買い取る」

「海に逃さないと約束しろ」

「俺の敷地内で飼うことにする」

「なら良いだろう、商談成立だ」

 ん? この金貨は幾らの価値があるんだ?

 不老不死の価格が金貨一枚って安すぎないか。

 

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