Chapter:6 「俺はこの話、乗ってやってもいい」

 三人は顔を見合わせた。スカフィードの話す、いちいちの言葉がまだなじまない。夢のことはあったが、この話をまるごと信じていいものかどうかも、三人は迷っていた。出流などは出来のいいドッキリかもしれないとまで思っていた。

「そんなとき、君たち三人が現れた」

「は?」

「間違いない。君たちは【伝説の勇士】だ」

「なあっ!?」

 出流が思わず椅子から立ち上がる。博希と五月もあまりの驚きに、椅子から転げ落ちそうになった。

「いや、ちょ、だ、だって俺たち、あれだぞ、失踪した沙織を捜してただけなのに――」

「そうだよ、いきなり観葉植物が暴れだして、そいで、ここに来ちゃっただけなんだよ」

「一口には信じられない話が多すぎます」

 三人は口々に言った。しかし、スカフィードは、冷静だった。

「だが、君たちは、コスポルーダの名を知っていた。皇姫の顔も知っていた」

「! ……それは単に、夢で見たからで――」

「君たちが見た夢は間違いなく皇姫からのメッセージだ! それに――」

 スカフィードが何か言いかけたとき、

「あちっ」

 五月が左手を押さえた。博希が気にして顔を覗き込む。

「どうした」

「あのね、なんか、ヤケドしたみたいな――あっ」

 五月の手の甲に、まるで焼き印でも押したかのように、くっきりと、抽象図形のようなものが浮かんでいた。

 博希と出流もじんわりとした熱さを左手に感じる。慌てて見ると――

「あわわわわわわなんじゃあこりゃあ!!」

「ありますね。……僕にも……」

 五月とデザインは違うものの、どこか似通った抽象図形がそれぞれ……

「勇士と目される者の手の甲には、エンブレムが浮かんでいるはずなのだ。それこそ、真に【伝説の勇士】である印」

「こいつがそうだっつーのかよっ」

「いま、コスポルーダの全都市で、レドルアビデの配下に民が苦しめられている。頼む。勇士として戦い、レドルアビデ一派を倒し、民を救い、皇妃にかけられた魔法を解いてくれないか」

 スカフィードは三人に頭を下げた。

「でもねー、もともとぼくたちは、沙織ちゃんを捜してたわけでー、……」

 五月が困ったように言う。

「だいたいその水晶球、金庫かなんかに入れてあんたが戦いに出りゃいいじゃんかよ。国の人とかお姫様助けたいって気持ちはあるんだろ?」

 博希のその言葉に、スカフィードはぐっと詰まった。出流が一瞬、いぶかしげにその顔を見る。

「――捜し人は、この世界にいるかもしれない」

「えっ!?」

「君たちがここへ来たとき、世界の“ほころび”を感じた。アイルッシュからコスポルーダへの、一種の通路のようなものと思ってくれたらいい。そのずっと前に、同じように“ほころび”を感じたことがあったから――もしかしたら――」

「その通路で、沙織がここへ……!?」

 博希が拳にぐっと力を込める。

「――沙織を探しながらでもいいなら――俺はこの話、乗ってやってもいい」

「えーっ!?」

「本気ですか。僕らただの高校生ですよ!?」

「でも伝説のナントカなんだろ! なんか色々できるんじゃねえのか!」

 説得力が全くないあいまいな反論に、出流は開いた口がふさがらない。

「沙織が……その……レンコンアミドに捕まってたりとかしたら大変だろうが!」

「レドルアビデですか?」

「それそれ」

 出流は長い付き合いで、博希の性格をよく知っている。五月も例外ではない。

「仕方ないですねぇ。博希サンは一度こうと決めたら動きませんからね」

「それでは……!」

「ヒロくんが行くなら、ぼくも行くっ」

 出流が代表して、スカフィードに向き直った。結果的にドッキリであっても構うものか。

「そういうことです、スカフィード様。僕は出流、そして博希サンと五月サンです。呼び捨てで構いません、よろしく頼みます」

「ありがとう……私のことも、呼び捨てにしてもらって構わない。――ここはグリーンライという都市だ。少し行くと、西に村がある。まずはそこで捜し人について聞いてみたらどうか」

 そう言いながらスカフィードは台所らしき所へ向かう。

「私が作ったスープだ。私は今から君たちの支度をするから、食べているといい」

 出されたスープは真紫色と緑色がぐるぐると渦を描いていた。

「……なんというか……異世界に来たぞって感じの色ですね……」

 見た目だけでもここが自分たちの世界ではないのだと念押しされた気分になる。素材が判然とせず、飲むのにだいぶ勇気がいりそうなそのスープを、三人は恐る恐るひと口すすってみた。

 博希は「マズくはねぇけど特にメチャクチャうまいってわけでもねぇな」と評した。五月は「ふしぎふしぎ」と言いながら、いつの間にか完食していた。出流は味わうようにゆっくり、ひとさじひとさじ飲み始めた。

 スカフィードはその様子を横目に見ながら、支度を進めていた。

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