バハムート

ツヨシ

第1話

家に帰ると父はいなかった。


先に帰っていると思っていたのだが。


母に聞いても知らないと言う。


しばらく待っていたが、それでも帰ってこない。


母が面倒くさそうに言った。


「ふみちゃんでも行ってるんじゃないの」


ふみちゃんとは、この小さな猟師町にあるただ一つの飲み屋だ。


父は漁の帰りにたまにだが立ち寄ることがある。


母がそう言うので、俺もそうじゃないかと思っていた。


ところがそれから数時間経っても父は帰ってこなかった。


何度携帯に連絡してもつながらない。


ふみちゃんに問い合わせたが、ママが言うには今日は来ていないそうだ。


他にも知っていそうな人数人に連絡してみたが、誰も知らないと言う。


――まさか。


母は漁業組合と警察に連絡した。


そして調べたところ、港に父の船がないことがわかった。


もう夜だ。


早朝からこんな時間まで漁をしているはずがない。


夜の海など危険しかないのだ。


最悪の事態が予想されたが、こう暗くては誰もどうすることもできない。

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