第147話 城からの呼び出し

 俺とカオルは、城の通路を歩いている。

 相変わらずの成金趣味で居心地悪い。

 しかし、そんなことどうでも良い程の問題を抱えている。


「やっぱり今日は控えた方が良かったですかね?」

「カオルもわかってるだろ? 俺たちは王様に呼び出されたんだから、拒否権なんて無いよ」

「ですけど、この状況だと」


 俺たちの前を歩く執事は顔色悪く。

 いや、もとから顔色は悪いんだが、時々嗚咽している。

 横を通る従者達も俺たちに近づくと、踵を返すかそのまま崩れ落ちる。

 そこかしこから聞こえる声は、俺の心を抉るように掘り続け、やっぱり来なければ良かったと思っている。


「ぐぅぅぅ。くさ」パタリ。

「この臭いは何!? 魂が削られる!」ピュー。

「は、鼻がもげ……う」ドサッ。


 それもこれも、ラーメンパーティーをした翌日に呼び出すドラちゃんが悪い。

 昔から、下位のヴァンパイア程耐性が少ないと言ってたじゃないか。


「俺は悪く無い!」

「そういう問題じゃ……」


 言葉少なめに会話していると、謁見の広間に到着する。


「す、すみません。しばしお待ち臭い……ください」


 泣きそう。

 数分後、中から入って良いと言われる。

 門番も遠巻きに見ているだけで、開ける者がいないという状況。

 自分で門を開いて入ると、普段は隠れているだろう小窓が全開となっていた。さらに、従者も前回来た時の半数で、その全員が窓付近で待機している。


「良く来てくれたね。まさかここまで耐性無いと思わなかったよ」

「ドラちゃん。彼らもだけど俺もダメージが大きいぞ」


 玉座からドラちゃんが周りを見渡すと、すべての従者や兵士が鼻を押さえている。


「あー。ごめんね。みんなも下がって良いよ」

「で、ですが!」

「じゃあ宰相だけ残って」

「わ、私だけ!?」


 そうすると、周りの人々は波が引くように消えていった。

 宰相はプルプル震えているが、自業自得だな。

 余計な一言を言ってしまったと後悔しているところだろう。


「それで、用事は?」

「そうそう。ミノちゃん達はマイナール国で召喚されたんだよね?」

「そうだよ」

「そこからやって来た者達が、今日到着してね。知り合いだと言うから呼んでみたんだ」


 マイナールの知り合いなんて、数える程しかいないぞ。


「入って来て」


 ドラちゃんの合図で広間に入って来た人たち。

 確かに見覚えある。

 すぐさま跪き、カオルにも同じようにしろと指示する。

 こちらの様子を見た当人も、困惑していた。


「あぁ。ブルンザの王と対等に話す方に跪かれると困るな」

「そうだぞ。むしろ王の私に跪かないのに、なんで他の者にするんだよ」


 なんでドラちゃんに跪かないといけないんだ。だけど、マイナールの王弟様とは思わなかったな。他にいるのは料理長とナイトか。


「ミノちゃんにも言ったけど、こちらに侵攻しかけてるでしょ?」

「それは聞いたね」

「どうも、その前に脱出していたみたいでさ。本日到着したということさ」

「へぇ。ドラちゃんが気づかなかったなんて珍しいね」


 俺も気配察知は得意だけど、やっぱり夜の王には敵わない。国から逃げられた理由もそこにあるのかな?


「ノールだったな。久しぶり。で良いのだろうか?」


 こういう話し方ということは、王弟様たちには俺が長命と知らされたということで良いのかな?


「その感覚はお任せします。僕らの久しぶりに合わせると、おそらく御生誕されてないと思うので」

「ははは! それなら久しぶりと言っておこう」


 身分の高い人たちの会話なので、他の人は入りづらいだろう。そこに俺が入ってるのは例外で、たまたまだから自惚れることは無い。長生きしても小心者は変わらなかったな。

 宰相の咳払いが続きを話してくれと急かす。

 これまでの経緯を聞くと、王様と王女が暴走し、戦争をしかけるとうことになってしまった。王弟様も必死に抵抗したが、殺されそうになり逃げ出して来たという。

 周りの人間達の様子も変わり、人形のようになってしまったらしい。動ける者達で脱出し、なんとかこの国までやってきた。

 本当はもっと詳しく話してくれたんだけど、脳が受け付けないんだ。知らない名前出されてもわからんよ。


「こちらの調べでもコルード殿の話と一致している。やはり洗脳だろうな」

「一度兄上が表に出たが、その後に従者たちの様子が一変した。おそらく、その時に何かしたのだろうと思う」

「洗脳されなかった者達は、共通してミノちゃんと関わりがあったようでな。その後を辿って来たと言うことだ」


 考えてみてもわからんな。依頼のシナモンが効果あったのだろうか?


「実さん。あれじゃないですか?」


 急にカオルが話しかけてくるが、あれって何だ?


「ほら、森から帰る途中にやってくれた」

「それって……気づいていたのか?」

「えぇ。感覚が変わりましたので」


 頭にこびり付いた黒モヤを消したのは覚えている。ただ、従者達には見えていなかったので違うと思っていた。

 他の人たちも興味深そうに聞いていたので、その時の話を伝える。




「なるほどな。確かに仙術ならありえるか」

「いやいや。仙術までやってないよ。ただ気で弾いただけ」

「そんなの気が使える者しかわからないぞ?他のやつには仙術に見える。私の魔力もずっと打ち消してるしな」


 時々変な感覚があったのはそのせいか!

 イタズラしようとする時、いつも変な感覚があると思ったら。


「まさか、からかう為に魔法使おうとしてたのか!?」

「ついついね? 悪気は無いんだよ?」

「信じられない!」

「む。そういうミノちゃんも気で小突こうとしてたじゃないか!」


 まさか気づいていたのか!?

 どうりで避けられるわけだ。


「気づかなくても余裕で避けられるけどね」


 才能という壁が立ちはだかる。

 こういうチート達が多いから、諦めもつくんだけどね。


「やはり狙うは小物界の大物か」

「実さんカッコ悪い……」

「うるさい! 覚えておけ! 我らが目指す道は、戦うべからずだ!」


 ナイトも笑うんじゃ無い!

 お前も強いかもしれないが、どっちかと言うとこっち側だぞ!


「ま、まぁ。そこまでにしておいて。話して無かったが、他にも逃げて来た者が居てな」

「そうだった。そっちはミノちゃんというより、カオルちゃんの知り合いかな」

「うむ。スピカに居た先生とやらも同行している」


 お? 海野さんも来てるの?

 ラーメンの目処が立ったから、ちょうど醤油を量産して欲しかったんだ。

 こいつはラッキーだな。


「ずっと立ってるのも疲れるだろうから、食事でもしながら話そうか」


 そう言うと、ドラちゃんが奥の扉に入っていく。ぞろぞろと後を付いていくと、寝室とは違う方向に外れて行った。


「ところでノール。お前の臭いはなんだ?」

「ふふふ。料理長にも今度食わせてあげますよ」

「それは良いが、かなり強い臭いだな」

「ニンニクという食材なのですが、量産中でしてね」


 前を歩く宰相の肩が跳ねる。


「実殿。量産中と申しましたか?」

「えぇ。浮きくらげ達の好物なんですよ」

「とりあえず、ダンピールの多い場所ではご遠慮いただきたい」


 思いっきり屋台を展開するつもりだったが、どうしよう。

 どこなら良いか聞いてみると、ほとんどダメで、何とか畑周辺のみ許可を貰った。


「まさか場所限定か……。屋台より屋外のフードコートの方が良いか?」

「フードコートってのは何だ?」

「色んな店舗が集まって、共同スペースで食べれるようにした場所かな。まぁ、俺の店舗だけだとフードコートにはならないんだけどね」

「面白そうだな。俺にも噛ませろよ!」


 料理長がやってくれるなら心強いな。

 あれこれと話していると、目的の部屋に辿り着いた。


「さぁ、入ってくれ」


 中では、先に待っていたのか海野さんが座っていた。

 その横に居る人がカオルの知り合いのようで、白い法衣に包まれた女。

 見たことはある。

 なんだったかなぁ?


「明石さん……」


 そう明石とか言うやつだ!

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