第134話 畑の領有戦争

「よーし! みんな揃ったね!」


 そこかしこから「おう」と気合いの入った声が響く。


「じゃあ、畑の耕しから始めよう! 各自のやりかたで良いけど、漏れはないようにね!」


 それを合図にバラバラに散って、畑を耕し始める。


「何じゃありゃ!」


 声の方を見ると、メサ達の耕しに驚く者達。

 肝心のメサ達は……。


「いつから増えたんでしょうね」


 誰の声か気にする余裕など無い。

 ひーふーみーよー。7体に増えている。

 すでに管理出来てないのに、これ以上増えたら手のつけようが無い。


 中心で鉢巻を巻くのがメサ。

 他の奴らに教えるように、土魔法で耕し始める。

 他の奴らもそれに続き、100m四方はすぐに完了していた。

 喜びの舞を踊りつつ、メサが例の球根を取り出すと、素早く植え付けていく。


「早くも縄張りを作りやがったか」

「実さん。あれは放置で良いんですか?」

「あそこは手遅れだ。俺らも早く耕さないと、場所が無くなるぞ!」


 方々に発破をかけて、くらげ達より早く耕せと急がせる。


「ダメだ。このペースだと半分は占領される」

「ど、どうしましょう!?」

「カオルはトカゲ君にも手伝わせて! エリン! エリンはいるか!?」


 声を張ってエリンを呼ぶと、遠くからイツキを引きずりながらやってきた。


「何か用?」

「説明は後でするとして聞いてくれ。あのくらげ達より早く畑を耕したい。協力してくれ!」

「ふむふむ。それなら報酬が必要だね」


 やはりそう来たか。

 だけど、エリンが欲しい物なんて持ってたか?


「あれが良いな。牢屋で精霊達に種あげたでしょ? その実が良いな!」


 牢屋のって、桃か?

 縮小させてた物を探すと、残り2つしかない。

 しかも大事に気を送り込んでいた仙桃。


「良いやつ持ってるんでしょー? ほれほれ」


 この手をヒラヒラさせている動作が、さらにイラつかせる。

 だけどどんどん使える土地が減っていく。


「背に腹は変えられないとはこういうことか…。わかった」


 泣く泣く仙桃を渡す約束すると、さっそくイツキを引っ張って耕し始めた。


「うひゃー! エルフの魔法もすごいんですね。あっという間に十数メートルも」

「関心してないで、こっちも全力でやるぞ!」


 今こそ、くらげ共に半仙人の力を見せつけてやろう。


「半仙人式耕作術! 発勁地均はっけいじならし!」

「僕たちそんな技使えないですよ」

「良いから全力で耕すんだ! 傭兵共! 手を止めるんじゃ無い! 奴らに場所を取られても良いのか!?」


 ボサっと眺めてると、本当に奴らが占領するぞ。

 2体のつもりが7体に増えるとは、軽く考えすぎていたか…。


「オラオラオラオラオラオラ!」

 ブルブルブルブルブルブル!


「ぶべっぺ! 土を飛ばすのはずるいぞ!」

 ぷるぷーる。


 以前にも増して舐め腐るようになったか。


「こいつは俺が止める! お前達は耕作を続けるんだ!」

 ブルブル!


 改めて対峙すると、以前と比べても魔力量が跳ね上がっている。ロック鳥に届かないまでも、その半分はあるか。


「ふふふ。立場が逆転して、こちらが挑戦者か」

 ぷるぷるぷる。

「かかって来いとは余裕だな。では、行かせてもらおう! ホァァァァァ!」


 無手は良く見せていたが、棒術は慣れてないだろう。相手の目線から棒を隠し、最短の動きで突く! 躱し方も上手くなりやがった! ヒラリヒラリと突きを避け、お返しと触腕を振るってくる。

 素早い対応に驚きつつも、転がりながら避ける。直後、横の土が弾け飛び、その威力を見せつけてきた。


「魔力だけで無く、他もパワーアップしたのか」


 自慢げに揺れるくらげが更に憎らしく見える。だが、俺の勝利条件はメサを止めておくことだ。他のくらげ共の魔力量は、常識の範囲内。メサだけが異常なので、こいつに耕させなければ、結果として多く占有できる。

 なるべく多く時間を稼がなければいけないな。


「古来より円運動は、様々な力を発揮してきた」

 ぷる?


「この力は武術にも取り入れられ、良く使う鞭打もその1つだが……相手にぶつけるだけでは無いと教えてやろう。かかってこい!」

 ブルブル!


 思い通りに乗ってくれたか。先ほどより苛烈な触手も、体や手で滑らせてしまえば問題ない。



 ◆◆◆



「はぁはぁ。いつまでやらせるつもりだ!」

 ブールブール。


 お互いクタクタになりながら、へたり込むと、ようやく周りが見えてきた。


「あ、終わりました?」

「アオイか。そっちは……終わったの?」

「だいぶ前に終わってましたよ」


 それなら早く言ってよ。こっちは……もう疲れて動けない。


「あぁ、しんどい」


 寝転んで空を見ていたつもりが、光でなく暗い影が降りていた。


「寝るのは良いけど、報酬先に頂戴ね」

「エリンか。わかったわかった」


 起き上がり、懐から取り出すと、引ったくるように奪われる。


「これこれ! ケープから妙な物作ってるって聞いたけど、これは特別力があるわね!」

「長年かけて育ててきたんだ。大事に食べてくれよ?」

「わかってるわかってる。うぅーん! 良い香り」


 仙桃を色々な角度から眺め、楽しそうにしてるが、エリンの横には魂の抜けたイツキが転がっている。

 今日の功労者は、俺とイツキだな。


「さて、くらげ共の占有地はどのくらいか」


 全員頑張ってくれたおかげか、敷地の8割は確保出来たか。ほとんどエリンだろうけど、それでも上々だな。

 メサも他のくらげ達を労っており、彼らもあれで十分らしい。結果として互いの妥協ラインになったようだな。


「あのぉ」

「あぁ。傭兵団の方ね。どうかした?」

「種まきはどうします? 一部だけでもやっちゃいましょうか?」


 どうしよう、本来なら肥料も撒きたいところだけど、用意もしてないからな。

 しばらく迷ったけど、昼まで種まきすることにした。


「傭兵団もかなり種類を揃えてきたんだね」

「師団長が野菜好きなんですよね。ドワーフなのに珍しい」


 俺の知ってるドワーフは普通に野菜食ってたけどな?一般的には野菜あまり食わないイメージなのかな?


「まぁ、傭兵団でも野菜好きは他にいるかもしれないしね」

「その傭兵団て止めませんか?」

「あら、嫌だった?」

「これから付き合いもあるので、やっぱり魔鴨団と呼んでいただきたいですね」


 名前に誇りを持っていたなら、失礼にだったか。申し訳ないことをしたな。


「そうか。すまなかった」


 頭を下げるとかえって恐縮してしまった。どうしたものかと悩むけど、謝らないよりはマシか。

 彼らも昼になると、館へ引き上げていった。




「実さん。午後にギルド行くと言ってましたけど、疲れてませんか?」


 アオイと約束してた仕事の手伝いか。

 正直、少し。いや、かなり疲れてるけど、約束は覚えてるんだよな。

 忘れた約束は気にしないけど、覚えてる約束を反故ほごにしたら堕落しそうだ。


「大丈夫。どんな依頼があるか見てみないと何も始まらないしね」

「じゃあ、他の2人にも声かけておきますね」

「わかった」


 カオルは来るかもしれないけど、イツキは難しいんじゃないか?


「カオルさんも来るって。あと……エリンさんが、イツキも連れていくって」


 エリンが来るかぁ。なんか面倒事が増えそうだな…。

 というか、なんでアオイがむくれてるんだ?

 お前も嫌な予感がするのか?ん?


_______________


    メサメサメサ

  メサ      メサ

メサ          メサ

メサ          メサ

  メサメサメサメサメサ

 メ サ  メ  サ  サ

 メ サ  メ  サ  サ  サ

メ  サ  メ   サ  ササ


野生のメサが飛び出してきた。

メサは仲間を呼んだ。

浮きくらげ2が現れた。

浮きくらげ3が現れた。

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