第133話 このドワーフって
「用事って程では無いんですけど」
俺の話し方が気に食わないのか、渋面を全面に出している。
「その丁寧語は何とかならんのかい。鳥肌が立つわい」
半仙人になってから、ごく稀にこういうことがある。細かく覚えてないんだけど、昔を思い出す感覚。
「ははは。なんか懐かしい感じだな」
「そうか? とりあえず、名前も呼び捨てにしろ」
「そうするよ。ノーリ!」
そこからは機嫌が良くなり、急に話しやすくなった。
畑の人足を探していることや、エリンと王様に会いに行くことを伝えると、ノーリの顔には若干の恐怖が見て取れる。
「エリン様が来とるのか……」
ぷるぷる震えてメサみたい。
「にゃははは! だんちょが震えてるにゃ!」
いつの間にか復活したミコが笑っている。
タイミングとしては笑ったらいけない時だと思うんだが…。
「こんのぉ!」
ガコンという岩がぶつかったような音を鳴らし、発生地点には先ほどと同じ人形が倒れていた。
「いっつも調子乗りおって! お主も一度は尻拭いしてみろってんだ」
「苦労してるねぇ」
「無駄に役職が上がって面倒じゃわい。それより人足じゃったな。報酬をどうするか」
そこからは、隣の机に座る補佐の男や受付嬢を交えて、あーでもないこーでもないと議論する。
どのくらいとか言ってるけど、金なんて持ってないから、作物が採取物くらいしか無いんだよね。
「そうじゃったな。報酬は現物が良いじゃろ」
ノーリの言葉に、補佐の男が悩む。
「現物は管理しづらいんですよね…。薬草…いや、畑なら食料の方が良いか」
「俺としてはどっちでも良いんだけど」
「もう食い物で良いじゃろ。薬草は採らせて覚えさせたいからの」
自分で採れるようにもさせるのか。ほとんど探索者ギルドと同じだな。
「一応儂も見に行くか」
「待ってください!まだ仕事が」
「ちったぁ休憩させてくれい。体が固まってやる気も出んわい。ほれ行くぞ」
慌てる補佐を置いてけぼりに、ノーリがのっしのっしと部屋から出て行った。
「どのくらいで帰れば良い?」
「3、いや。出来れば2時間半程でお願いします」
「了解しましたー」
そのくらいあれば戻って来れるかな。
「はやくしろーい!」
「はいはい! 今行くよー!」
全身鎧を着たドワーフとボロ服の男が並んでいると、街の目線は釘付け状態。何の組み合わせか気になっているけど、話しかけられない様子。
そこに、傭兵団員が数名話しかけてきた。
「団長!」「仕事?」「お出かけですか?」
「仕事の下見だ。暇なら、お前らも着いてこい!」
そんな風に増やしつつ、現地に着くと10人程になっていた。
「あれぇ?さっきの兄ちゃんか?」
「すみません。人手を依頼する為に、下見で連れてきました。」
「ちょっくら失礼するぞい」
「畑作るんなら必要だわな。好きに見てってな」
許可をもらったので、自分たちの土地を説明する。貸してくれるのは一部と言われたが、直径1km程と予想以上にある。
「デカイのぉ。農場主に10%だったか?」
「そうそう」
「何を植えるんじゃ?」
「余らせてるから、好きなので良いよ。俺の分は端っこに作るし」
植える種類も自由にして、依頼というより協力者という形になった。欲しい野菜はその都度交渉。
「思ってたより良い交渉じゃったな。いっそ館に食堂も作るか」
それを隣で聞いてた団員達も喜び出す。
「そっちも自分たちでやれば、出費抑えられるね」
俺の言葉には愕然としている。ちょっとくらい料理出来た方が便利だぞ。
エリンやメサ達は、どこかに行ってしまって会えなかったが、そのうち会えるだろう。
「そろそろ戻らないと、怒られるよ」
「む。そうか」
ノーリは、あからさまに嫌そうな顔をしている。
帰り道で話を聞くと、最近ずっと書類整理ばかりで、体を動かしていなかった。代わりの人もいないから仕方なくやっているが、そろそろ下の人を繰り上げたいと考えている。という話をとつとつと
「最初は多めに送るようにする。ある程度落ち着いたら減らしていくかの」
「それで良いと思うよ」
「すまんが、受付で簡単な書類だけ書いてくれ」
1階の受付で、ノーリと並んで書類を書いてると、視線が集まってくる。
師団長と一緒にいるあいつは何者なんだと、今まで何度も視線を集めたけど、こういうのは未だに慣れないな。
「相変わらず人が多いところは嫌いなようじゃな」
「今でも山に篭りたいよ。やること早く終わらせて、山暮らししたいなぁ」
「その様子じゃ、しばらくは無理じゃろうな」
何を見てそう思ったのかわからないが、確かに面倒を見るやつらが心配で、まだまだ離れられないな。
子離れ出来ない親は、こういう気持ちなんだろうか?
やっと書き上げた書類に受付が印鑑を押すと、ノーリがその場でさらにサインする。
「よし。明日からの依頼じゃ!この団の食材確保先が増えたぞー!」
そう言って、依頼のボードに貼り付けている。
「飯か?」「マジか!」「食い物と聞いて」「じゅるり」
食い物に弱いのか、亡者のようにワラワラと集まった物共が、俺の依頼書を眺めている。
「なんだ、すぐに貰えるわけじゃ無いのか」
「待て待て、良く読むと、ほとんど俺らの食い物じゃないか?」
「何? ほうほう。半分専用畑みたいになるのか」
「新人や経験浅いのに良いんじゃないか?」
反応は悪く無いから、人手は集まりそうで良かった。
「ノーリ」
「何じゃ?」
「ありがとね」
「臭いこと言うない!」
「あと、エリンはノーリのこと気づいてるはずだから、今日あたり行くと思う」
一瞬大口を開けたが、すぐに閉じ、周りに見えないようにしていた。
「わ、わわわ、わかっとる。」
筋肉痛を拗らせた人のように、ギコちない歩きで3階まで戻って行く。
「受付さん。初日の人には、ちゃんと種を持たせてね」
「えぇ。すでにリストアップしてるので、明日には用意出来ているはずです」
できる人は違うね。もうこの人を役職につけた方が良いんじゃないかと思ってしまった。
ひと仕事を終えたと宿に戻ると、いるのはアオイだけ。
「みんなはまだ戻ってないの?」
「そうですね。僕は衣装の作成があったので早めに」
アオイの手元を見ると、麻の布で作られた服があった。
わざわざ作らなくても買えば良いと思ったんだが、売っていても中流階級の服までで、微妙に貧困ラインの服を作りたかったということだ。
ここまでこだわりが強くなると思ってなかったが、悪いことではない。
ただし、一点だけ問題があるのは、服の置き場が無いということ。
「それどこに置くの?」
「それが問題なんですよね」
豪華な部屋に、10着以上が散乱している。
「あれだ。お金貯めて魔法カバンを買った方がいいよ」
「前に聞いたあれですか? どうやって貯めるか」
「……ちょっとなら手伝ってあげるよ」
「やった! ありがとうございます」
何がやっただ。それを見越しての返事だろうに。
変装術の練習を始めてから、アオイの交渉力が異様に上がっている。
中性の見た目を全力で生かし、男には可愛く見せ、女には美少年キャラで対応する。
こいつは最終的にどこへ辿り着くのか…。
恐ろしい生物を育ててしまったのでは無いかと気が気じゃない。
「明日の午後、ギルドの依頼でも見に行こうか」
「そうですね。よろしくお願いします」
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