第123話 首都ヴィーン

 知り合い口添えしてくれると、楽に入れて良いね!

 初めての場所は、だいたい門番に止めらるんだけど、今回は素通りで中へ入れる。


 城門を潜ると、生徒達がキョロキョロ見回しながら、街を見ている。


「こんなに栄えているのか」

「あの国とは大違いだ」


 マイナール国と比べると、城下町に響く人々の声が騒がしい。

 種族関係なく受け入れているのか、人数も多く、時折ぶつかりそうになる。

 これだけ人もいると、スリも増えてくるな。


「新人組は盗られないように注意するんだよー」

「「「「「はい」」」」」


 多少気配がわかるようになったとしても、なかなかすぐに対処は出来ないだろう。

 それとなくフォローしつつ、スリの巾着を奪ってみた。

 銅貨3枚かよ……。可哀想だから銀貨1枚いれてあげよう。


「お兄さん巾着落としたよ?」

「え? あれ?」

「はい。気をつけてね」

「あ、ありがとう……」


 俺から離れると中身を確認して、何度もこちらを見てくる。

 笑顔で返すと、顔を青くして走って行ってしまった。


 そんなことを何度かやっていると、遠くから飛んでくる視線がいくつもある。


「実さん。見られてますよね?」

「そうだね。何もしてこないようだけど、海野さんも警戒だけしておいて」

「わかりました」


 大通りの中央交差点を北に曲がると、ピースの目的地に到着する。

 ここが首都ヴィーンの従魔ギルド。


「母ちゃん帰ったよー!」


 ピースが大声を出すと、奥から怒鳴り声で返してきた。


「声がでかいんだよ! そんな大声じゃなくてもわかっとるわ!」


 出てきたのは杖を着いた虎人族の女性で、ピースとよく似ている。

 鋭い視線を巡らせ、何人かの前で視線が止まる。


「面白い奴らを連れてきたじゃ無いか。それにそこの男」


 そんなに見つめられても、というか視線怖いんだけど、止めてくれないかな。


「似ている……が気のせいか。そんで、いつまでも放浪しおって、何しとるんだ?」

「ちゃんと依頼やってたよ! 今回のも依頼だったの」

「それはよか。そげん事より、この者らは何?」


 ピースと母の会話は、共通語とグルマン語が混じってしっちゃかめっちゃか。俺が聞いても訛りが強くて所々わからなかったよ。


「大方の話はわかったわ。そこん娘が従魔師な?」

「じゃ、カオルは私と従魔ギルドの説明ね。どうせほとんど聞いてないんでしょ?」


 カオルが目配せしてきたので、行って良いと合図する。


「あんたは、また明日来んさい」

「あー、ちょっとめんど」

「きんさい!」

「わかりました」


 すごい剣幕だったが、真剣だったので気圧されてしまった。

 ギルドを出るとちょうど昼ごろ。

 屋台の串焼きを食いつつ、宿屋の確保しに向かう。


「まぁ、この大所帯が入れる場所は無いよね」

「冒険者は依頼完了だろ? お前達だけならあるんじゃないか?」

「それでも足が出そうだよね」


 それから1時間程かけて色々話し合った結果。冒険者達とは別れて、女性達が宿屋に泊まり、男性組が他を探すことになった。

 理由としては、女性と男性が一緒に泊まれないことと、大人数の女性部屋を探す方が大変だから。


「じゃあ、出発しんこー!」


 歩き出した俺達が向かうところは。


「どこに行ってるんですか?」

「そういえば、アオイ達はまだ行ったことなかったっけ?」


 いつも通りのスラム地区。

 若干の埃っぽさとカオス空間。一般人はあまり近づこうとしないのは、そういう雰囲気をあえて漂わせているからだ。


「さすがは、通い慣れたスラム。初めての場所でも当たったな」


 怖気付く青年3人を押して、無理矢理中に入れる。

 今までの経験からすると、この一番奥に教会があるんだよね。


「当たり!」

「当たりじゃなくて、後ろからスラムの人来てますよ……」

「まぁまぁ、教会行くだけだから大丈夫だよ」


 気にせず、教会の扉を開けると、見慣れた精霊像があった。


「なんで精霊教はこんな奥にあるのかねぇ?」

「そう言ってるということは、ここにあることをご存知のようですね」


 扉の影に隠れていたのか、横から出された声の主を見ると、壮年の神父だった。


「神父様は初めてです」

「精霊教では精霊父と言うのですよ。それでお願いします」

「精霊父様ですね。唐突ですが、宿が無いので泊めてください」


 目を見開き瞠目どうもくしていうのが見て取れる。


「ふふふはっはっは! 良いでしょう。わかりやすいのは好きですよ?」

「よし! 寝る場所は確保した! あとは飯だ」


 精霊父様に断りを入れて、教会前の広場を耕す。

 俺達の行動を見ていた子供や、スラムの住人が次第に参加し始めて、数時間で小さな畑が出来上がった。


「よし! この種を植えていけー! ゴーゴー!」


 ニンニクは欠かせないとして、モロコシとキャベツを植えていく。


「ツンツンは奥の方をやって」


 新しく入った名前の知らない男の子。頭がツンツンしているので、あだ名で呼んでいる。おいちゃんもう名前覚えきれないよ。


「今日のところはこれで良いか。よし、ちょっと食材買ってくるわ」


 みんなを置き去りにして、露店の食材を買ってくる。スラム前に安い露店があったので、そこで物色する。


「大通りと品質同じだと思うんだけどな。なんで安いの?」

「あそこは金払って店だしてるんだよ。その分高くなるし、俺のは直卸しだからな!」


 露店の兄さんは自信ありげに笑っている。

 なかなか良い店を見つけられたようだな。


「せっかくだから、銀貨1枚でそっちが選んでよ」

「気前の良いやつだな。美味いのを選んでやる」


 空いてる木箱にポイポイ放り込んで行くと満杯になってしまった。


「結構な量になったな。あとは肉か魚も食べたいだろうな」

「それなら、3件隣の魚が良いぞ。今日は良いのが入ったと自慢してた」


 言われた通り向かうと、大きめのサケが何匹も吊るされている。

 1匹銀貨1枚と安かったので衝動買いしたが、残りの銀貨が3枚になってしまった。


「帰ったよ」

「うわ! すごい量だな」

「これならみんなで食べられそうですね」


 田中君の驚きよりも、精霊父様の便乗にこちらが驚いてしまった。

 元々そのつもりだったから良いさ。


 大鍋を3程使って、それぞれ違う味の鍋料理。普通の塩味、トマトベース、最後に海野さん作の醤油。移動の終わり掛けにやっと完成した一品。


「実さん、この匂いは!」

「これってやっぱり」

「間違い無いよ!」


 3人共気づいたようだな。


「おかわり自由だけど、みんなにも1口ずつは食べさせてあげるんだよ?」

「「「はい!」」」


 食事の合図が出ると、みんなで精霊に祈り、食べ始める。

 畑づくりに参加した住人から孤児、生徒も関係なく会話を挟み笑い合う。

 新人2人は指輪の効果が切れて、まだカタコトしか話せないのに、楽しそうにしていた。

 食事が終わると、貸してもらったわらの布団で、泥に沈むように眠ってしまった。


 みんなお疲れ様。

 今日はゆっくり休ませてやろう。

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