6章 不老者とクラス召喚

第100話 クラス召喚

「ぼろぼろの作務衣を直すの忘れてたな」


 川で洗濯している時、着替えた服がボロボロだった。


「とりあえず乾くまではこのままかな」

「ノール氏。ここにいたか。モール族が祭りをするから、今日来てくれと言ってたぞ」


 いつもの枝で肩を叩いていると思い出してきた。

 そういえば、最近聞いた気がする。


「わかったって言っといて」


 今日も日差しが強いな。

 うーん。

 少し目が痛い。

 光強すぎないか?


「ノール氏! 下だ!」

「え?」


 俺の周りが円形に光り、色んな文字が回転している。


「これは興味深い。ちょっと動かないでくれ!」

「嘘でしょ!? 大丈夫なの?」

「なに。ノール氏なら問題ない」


 それはどういうことだ?

 場合によっては警備兵を




「ふむ。転送系の魔法陣だったか。ノール氏は祭り欠席だな」







 ◆ ◆ ◆



 オレの名前は田中樹たなかいつき

 陰キャよりだけど、深く入りきれない中途半端組。

 マニアックな世界に入っちゃった方が楽しいんだろうけど、その一歩が出ない。



 いつもの高校でいつもの授業。


「部活帰りに飯寄ってこうぜ!」

「良いね!」


「昨日のアニメのあそこが良かった」


「新しいコスメ見つけたんだけど、見に行かない?」

「私もみたーい」


 先生が教室に入って、また退屈な一日が始まる。



「では、朝礼はじめますよー」


 すると教室内が強烈な光で溢れた。


「何これ!?」

「全然見えねえ!」

「みんな大丈夫!?」

「おい! 扉開かないぞ!」

「嘘だろ!?」


 一気に退屈じゃ無い日に変わった。

 横を向いた時に、一瞬だけ見えた。

 いつも静かな女の子。

 あんなに笑うことがあるんだ。


 光が弱くなり出すと、俺たちは知らない広間に来ていた。

 俺が言い出すこと無く、周りが勝手に話を進めてくれる。


「何なんだよ!」

「ここどこ!?」

「みなさん落ち着いてください!」


 良くみると金属鎧に槍を持っていたり、教会のシスターや牧師みたいな服を着てる人もいる。

 極め付けはドレスを着た綺麗な女性。

 その女性が話し出した。


「遘√?險?闡峨?繧上°繧翫∪縺吶°」


 何を言ってるのか全然わからない。

 女性が周りに何かを伝えると、部屋の中に弱い光が広がっていった。


「これで聞こえますか?」


 今度はわかる。


「今は、魔法を使って皆様に言葉を伝えています」


 その言葉にみんなが驚く。


「魔法!? おぉぉ? これはもしかして。」

「まさにクラス転移!」

「ということは異世界に来れちゃったと!?」

「え? 異世界?」

「小説とか漫画の話でしょ?」


 テンプレ化しているから、みんなも知っている。

 もちろん俺も読んだことがある。


「なぜかわかりませんが、皆様もご理解いただけてるようですね。訳あって皆様を召喚させていただきました。あなた方を勇者と見込んでお願いがあります」


 良く通る声が、波の満ち引きのように体に入ってくるようだ。声の音量、音程、揺れ。全てに説得力を感じる。だけど、すぐに「はい」とは言えない。


「俺たちはいきなり連れてこられたんだ。いきなりやるなんて言えないし、帰りたい奴もいるかもしれない」


 クラスのまとめ役の立花君。

 彼に任せれば大抵まとまる。


「当然の事です。ですので、これから詳しく事情の説明をさせていただきたいと思います」


 だけど俺は1人気になる存在がある。

 俺らの端っこに、甚兵衛のような服を来た男がいる。

 塩と醤油半々顔に八の字眉。

 そんな冴えない顔の男が、呆けた顔をして辺りを見渡している。

 周りのみんなも同感だろう。

 こいつは何者?




 _______________



 パロ教授に動くなと言われて、そのままにしてたら、訳わからない場所に来てしまった。

 制服着た学生さんもいるから、修学旅行か何かか?

 枝で肩を叩きながら考えてみるが、まったくわからない。


 ドレスの人が、何を言ってるかわかるか聞いてきた。

 言葉はわかるが、意味が理解できない。

 いきなり何を言い出すんだ?

 その言葉で理解出来たら、俺はホームズになっているぞ。


 先生っぽい人に聞いてみるか。


「ちょっとすみません」

「はい。えぇ?」

「これって修学旅行とかですか?」

「そんな訳ないです。教室にいたと思ったら急に」

「なるほど。わかりませんでした」


 この人達も知らないと。

 別の場所に行ったからと困るわけでは無いんだが、祭りは楽しみだった。

 仕方ないから、今回は諦めよう。


 ドレスの女性は助けてくれと言い、少年は状況説明が先だと言う。

 でも、段々兵士の雰囲気が悪くなってるな。

 その時に、金髪の女の子が言った言葉が問題になった。


「無理矢理連れてこられて、これって誘拐でしょ!」

「そうだよな」

「そうだ!」


 数人が賛同して良く無い流れだ。

 ちょっと離れとこ。


 兵士達が動き出して、叫んだ奴らを取り押さえる。


「無礼者どもが!」

「たとえ勇者でも王女に失礼は許せん!」


 1拍置いて、その王女さんが止めた。


「やめてあげなさい」

「「はっ」」


 王女さんの話だと、魔王さえ倒せれば、帰すことが出来るかもしれないと言う。

 なんとも無理難題をおっしゃることだ。

 結局、彼らは出来る範囲で協力するということになった。

 ここで抜けたら目立つからな。

 しばし同行する。


「こちらは鑑定の指輪です。これを装着すると皆様の能力がわかるようになります。おそらくですが、召喚時に神様から何らかの能力が付与されていることでしょう」


 みんなおっかなびっくりだけど装着する。



 名前:立花 昇

 年齢:17歳

 職業:勇者 ランクSS

 スキル:《剣術》《身体強化》《全属性魔法》《限界突破》《ブレイブソード》

 称号:勇者



 名前:後藤 順

 年齢:17歳

 職業:剣聖 ランクS

 スキル:《剣術》《筋力強化》《動体視力強化》《斬撃向上》



 名前:明石 鈴奈

 年齢:17歳

 職業:聖女 ランクS

 スキル:《杖術》《魔力強化》《聖属性魔法》《光属性魔法》



 名前:立花 芽衣

 年齢:17歳

 職業:弓聖 ランクS

 スキル:《弓術》《身体強化》《動体視力強化》《風属性魔法》




 この四人は王女がベタ褒めした者達で、スキルが4つ以上の者が召喚されると思っていなかったと言っていた。



 他にも優秀な魔法使いや狩人。

 生産系も充実している。


 名前:田中 樹

 年齢:17歳

 職業:道士 ランクC

 スキル:《体術》《動体視力強化》


 こいつはさっきチラ見してた奴だ。

 他のチラ見どもは一応覚えた。

 明日には忘れると思うがね。




 名前:山田 薫

 年齢:17歳

 職業:従魔士 ランクE

 スキル:《従魔術》


 この子は物静かな感じで、ランクが一番低かった。

 従魔士悪く無いと思うんだけどな。



 名前:ノール

 年齢:?包シ撰シ撰シ先ュウ 歳

 職業:ふろうしゃ ランク1

 スキル:《生存術》《逃走術》《釣り》


「ふむ。謎だ。兵士さん。これってどうです?」

「これは……わからん。司教さま!」


 他の人もやってくるが謎。

 ただし、スキルは微妙だと言われた。


「きゃははは。おじさんゴミじゃーん」


 兵士に倒されたくせに回復はえーな。

 口紅で裂け女になってるの、誰か教えてやれよ。


「今日は食事後にお休みいただきまして、明日から訓練を開始します」


 豪華なことに、1人ずつ部屋がある。

 ランクごとに良くなったり悪くなったりあるが、住めるのは良いんじゃないか?


 俺の部屋はここか。


「あっ」

「あぁ」


 ん?

 さっきの女の子。

 それとチラ見男。


「奇遇だね。君達もここの並びか。俺はノールって名前だ。よろしく」

「え? 日本人じゃなかったんですか?」

「日本人だよ。名前がノールってだけ」


 一瞬考えた素振りをして紹介を返してくれる。


「ハーフかクオーターですか。オレは田中樹たなかいつきです」

「私は山田薫やまだかおるです。よろしくお願いします」


 まともに返事出来る子もいるじゃないか。


「じゃあ、また明日」

「「おやすみなさい」」


 扉を開けて入ると、埃まみれの倉庫。

 倉庫は良いが、埃はいかんな。

 扉を開けて吹き飛ばそう。

 良さそうな板があるからこれで扇ぐか。





 気づけば夜明け近くになっていた。


「こういうのって、没頭すると時間が経つの早いよな。とりあえず屋根上で日光浴でもするか」


 朝日を浴びて爽やかな気分。

 とうとう、おじさんも異世界で花開く時が来たか。

 なんてね。

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