第95話 報告

 ドリーは村に戻ると、すぐに辿り着いたことを伝えた。


 村人達もまさかと疑っているが、他の同行者の話を聞くと、徐々に理解し始めていく。その日は英雄を祝うように皆んなでお祭り状態。


 バート達からドリーには、情報の統制をかけて少しずつ開示していく。そう事前に伝えてあった。村人には、壊れた電子端末をいくつも見せ、今度は国を巻き込んで調査する形で伝える。


「サグはどうする? 休んでく?」

「すぐ出る。ここの王に、会ってくる」


 それだけ言うと、バート達を連れて、また黒モヤに消えてった。俺の知ってる長命種はほとんど忙しい人ばかりだ。色々背負って、大変な仕事して、でも楽しそうにしている。

 そんな後ろ姿を見ると笑顔が溢れてしまう。


「何をニヤニヤしてるんだね? 私たちも戻って研究だよ! さぁ来たまえ!」

「ノール君! 私達だけじゃ荷車押せないよ! 頼む」


 もうちょっと休ませてくれても良いのに……。

 仕方ないか。オスクに残ったパンでもあげよう。あいつもこれなら食べれるはず。


「メサ、行くよ。オスクに帰った報告だ」





 _______________



「本当に、私も行って良いんですか?」

「最初から、いたの。君、だけだ。来い」


 サグはバート達を連れて王城に来ている。

 ゲイルも来たことはあるが、呼ばれても無いのに来れる程の身分は無い。それを心配しているが、サグは気にした様子も無くついて来させている。


「俺も行くがぁ。ほとんど答えられんからなぁ。ゲイルじゃないとダメだろぉ。メルロは何も話すなぁ」

「なぜですか! 大発見ですよ!?」

「ゲイルより見てるのかぁ? 言わなくて良いこともあるんだぁ」


 メルロは、少しむくれた様子だが、納得はしている。

 その後も広めの通路を進むと前に大きな扉。両側に兵士と侍女が控えている。


「ラス・トゥー国。サ・グ侯爵御一行の御来城!」


 扉をくぐると遠くに玉座が見え、バート達は半分程の距離で跪く。

 サ・グだけがさらに進み、階段下で立ち止まった。


「良く来てくれた。なかなか都合がつかなくてな」


 背後から出てきた男の冠から、ヤギ角が飛び出している。


「かまいませぬ。あなた方は、必ず会う」

「他国の者は言え! 王の御前で立ったままとはいかがなものか!」


 横で囀るのは歳をとった宰相。

 彼にとっては侯爵程度が跪かないのは許せないのだろう。


「立派に仕事してくれるのはありがたいが、今はこれが宰相だ」

「私は別に跪いても良い」


 その言葉に被せるように宰相が返す。


「ならば早く!」

「宰相よ」

「何でございましょう」

「お前は出ておれ。この男はこのままで良いのだ。それに、話が進まぬ。」

「ですが!」

「団長聞いてたな? しばし、出させておけ」


 引きずられながらも騒ぎ声を上げ、徐々にその声が小さくなっていった。

 王がため息をつくと、疲れたように話し出した。


「議会の奴も、もっとマシなのを選ばないものかと思う。で? これで良かったんだろう?」


 するとサ・グが跪いた。


「ありがたく。ゲイル。横に来い」

「え。はい」


 王がゲイルを見ると、面白そうに口角を上げた。


「何かあったな?」

「獣王国、創設前の記録が見つかった」

「その男が見つけたと……。教えろ」

「は、はい」


 ゲイルが地下で見聞きしたことを伝えていく。洞窟には興味を示さなかったが、遺物の話になると、だんだん前のめりになっていく。

 だが、ゲイルが意図的に話してない内容があるとわかったのか、眉を寄せる。


「ゲイル。王には、言って良い」

「え? しかし……はい」


 言わなかった話を伝えていくと、再び笑顔になり、時折何かを考える様子も見える。


「たまたま、知り合いに会いにいったら、それに居合わせた」

「余も見たかったぞ。龍人様か。それで、獣族が多かったか? そうだろ?」


 その言葉には奥に控える兵士も身じろぎをし出した。


「なぜそれをご存知で?」

「代々王には伝えられている。わざわざ言わないだけだ。面白いことを教えてやろう」


 獣王国が作られた時、初代王が龍人様から言われたことがある。それは、いつまで王をやるのかと、誰に国を託すのか。国が落ち着いてから、議会を作って政治を任せたり、後継になる者を探したりしている。王から王へとそれを伝えられているが、いつまで経っても託せるほど国がまとまっていない。

 それを聞いてた者達も驚いたが、王にしか伝えられないそれを。


「なぜ言ったか気になるんだろう? 龍人様の声を聞いたんだろ? お前らもこっち側に来い。任せてダメなら動くしかないだろ」


 そう言って1人1人見ていく。

 控えの兵士を含めて全員。


「俺は、やらん」

「当たり前だ。他国に頼んだら恥だろ。それで? 他にもあるんだろ。お前が来る時は大体厄介ごとだ」


「……ふぅ。大陸中央の情勢は?」

「きな臭いというだけは聞いた」

「どこの国か、わからないが、召喚の形跡がある」

「それは! 良く無いな」


 王が周りを見ると、誰もが全くわかってないように見える。


「召喚は簡単に言うと、特定の何かを呼び出す魔法だ。それだけ聞くと大したことないが、以前召喚した国は消滅した。その後に残ったのは凶悪な魔物と荒れた土地だけだ」

「我が国の北方だ」

「ラス・トゥー国は他の大陸だから、そこまで心配いらんが、この大陸ならマズイな」

「とにかく、伝えたぞ。あとはそちらで、やることだ。では帰る」


 それだけ言うと、サグは1人で出ていってしまった。


「各騎士団長を呼べ。議会も開く。それと、バート。お前達は近場の国で調査だ。金は必要分国庫から持ってけ。俺の命令だと言えば良い」


 王から言われるがまま全員が動き出す。







「未だに状況がわからない」

「俺もだぁ。メルロは家に戻って親父に報告してくれぃ。ファングが集まったらすぐぐ行くぞぉ」

「戻ったばっかりなのにもう出発か。報酬は弾んでくれよ?」






 _______________


「教授。こっちの資料はどうです?」

「む。それもあったか! ダメだ。全然まとまりきらないぞ」


 1ヶ月もこれだよ。

 最初の1週間は手伝ってたけど、最近じゃ声もかけられなくなった。

 かえって邪魔になるから、今は外でゆっくりしている。


 ピピィ?


「そうだな。久しぶりに瞑想でもするか」


 プルプル。


「山の中なら好きにして良いよ。じゃあ、今回は上の方でやってみようか」

「ノールどっか行くの?」

「ホー。暇になったから瞑想しようと思ってね。ちょっくら山に行ってくるよ」

「そっか。じゃあ教授達の飯だけは用意してあげたほうが良いね」

「頼む。よーし! 今回は気合い入れちゃうかな」


 ピピピィ!


「ははは。そんな何年も経つ訳ないじゃん。オスクも自由にしてて良いからな?」

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