第71話 ニールセン中央平原1

 勇者様一行が試験でのことを教えている間、俺はずっと監視されていた。

 覆面は一人だけだが、その仲間が数人いる。どいつもこいつも体中傷だらけで、ヒドイ奴は耳や鼻がなかったりする。


「それ痛そうだね」

「痛えぜぇ。こいつを取られた時は死ぬかと思った。ひっへっへ!」

「あぁ。奴らの顔は一生忘れねぇ! 今回は別のとこだがいつか神罰を下してやるんだ」


 神罰は人が下すものでは無いぞ?

 とはさすがに言えなかった。

 多少マシにしてやれるが、大事な思い出を消したら可哀想だな。

 うん。

 そういうことにしておこう。

 逆に恨まれそうだとかは思ってないぞ?


「待たせたな。今度はおっさんの話を聞く時だ」


 10分くらい話してたな。

 やっと終わったのか?

 というか、少女は全くしゃべらないな?

 いつもの喧嘩腰はどうした?

 ん?


「話って何を?」

「ここで何をしてたんだ?」

「だから採取だよ。ほら?」


 右手の野草を見せる。


「まぁ、採取だとしよう。前にいた従魔はどうした?」

「従魔だと!?」

「あんなまわしい奴らを!」


 忌まわしいだと!?


「本当にそうだよな! あいつら、俺を置いて先に行っちまったんだよ! くそが! 今度会ったら羽を毟って布団にしてやる! クラゲは! 使い道ねえな」


 しかし、確かに許せんのだ。

 思い出しただけでも怒りが込み上げてくる。


「くっそぉ! 見つけたら教えてくれ! 俺が成敗してやる!」


「お、おぅ。」

「なんだこいつ?」

「従魔ってペットとは違うのか?」

「まさか演技か?」

「そんなふうには見えなかったが……」


 演技なわけないだろう。


「普通はこんな所に来ないはずだ。何か隠してるんじゃないのか?」


 メガネ君うるさいな。


「俺が? 何を隠すんだ」

「賢者様に何て言い草だ! 無礼では無いか!?」


 今のが無礼なのか?

 そしたら俺は何て言えば良いんだ?


「皆さん興奮しすぎです。もう少し落ち着いて聞いてはどうでしょう?」

「おぉ! さすがはローズ様だ!」


 君もどうしたんだよ?

 もっとツンツンしてたでしょ?


「おっさ……じゃなくて探索者よ」

「ノールだよ」


 アレン君がフォローに回るとは……。


「ノールよ! あなたは依頼で採取に来たのですか?」


 まぁ、聞かれるなら答えるけどさ。


「依頼じゃなくて、採取は趣味です」


 ……

 …………


「やっぱり嘘じゃねーか?」

「嘘じゃないし! 趣味は採取と釣り! 超アウトドア派なだけだ!」


「え? ちょうアウ何?」

「アウトドア! 外遊びが好きってことだよ!」

「何それ? 街の外は危険じゃない。嘘じゃないわよね?」

「ローズ言い方」

「あ! 真実を告げるのです」


「だから嘘じゃないって! 君達も試験の時見たろ!? ちょっと待ってろ」


 そう言って、辺りの枯れ枝と葉を集めて焚き火を作る。

 掛けること1分。

 長めの枝で三脚を作って蔦を垂らす。


「これが超アウトドア派の実力だ」


 どうだ!


「普通にすげぇな」

「なんか関心したわ」


 だろう?


「だ、だったらなんだ!」


 _______________


 <帝国軍>


「やっと平原まで来たな」

「中佐。それほど掛かっていませんよ」

「まぁまぁ、それよりも戦場はもっと先でしたっけ?」

「ちゃんと覚えておけよ。元王都の西側が予定地だろ?」


 例の帝国軍人達が2000人規模の部隊を引き連れて行軍する。


「人数が多いから、街道をちょっと外れないといけないのは困りものですね」

「ニールセンから住人の邪魔しないよう言われてるだろう。代わりに、食料は融通してくれたんだから、ゼロだな」


 そこに斥候がやってくる。


「何かあったか?」

「は! 前方で聖教国の旗が見えました」

「それはおかしいな? まだ先のはずだ」

「私も見てきましょう」


 1人飛び出して前方へ向かう。


 ……

 …………



「ちょっと見にきたぞ。規模はどのくらいだ?」

「相手は1000人程ですね。騎士100、残りはほとんど兵士ですね」


「前線じゃないと細かい様子がわからんな」

「少尉! それが妙なんです。異端官がいるのは見えますが、大勢で1人の男と何か話しているようなんです」


 少尉と呼ばれた男が、望遠鏡を覗き込む。


「本当だな。あっ。今度は違う奴だ」

「あ! あれは元王国の勇者ですよ!」

「なんだと!? 中佐に伝令出せ」


 ……

 …………


「例の責任勇者か! 俺も前線に出るぞ!」

「中佐は戦いたいだけでしょ!?」

「誰かは残らないといけないですよ!」

「ふ。それを言った奴が残るのさ」


 中佐は、そう言うと駆け出す。


「えぇぇぇ!?」

「中佐に言われたらしょうがないな。じゃあ俺も行ってくる」


 ……

 …………



「様子はどうだ?」

「中佐! 来ちゃったんですか?」

「勇者なんだろ? 俺が消毒してやるって言ったからな」


 中佐が渡された望遠鏡を覗き込む。


「なんだ? 状況がわからんな。あの男は仲間じゃなさそうだが」

「我々も把握しきれていませんが、最初に見た者の話だと、平原で何かしていた男を軍が見つけて詰問中のようですね」

「お。何かするぞ」

「あれは、焚き火ですね」

「うっわ。あいつ早えな! ある種の達人だな。隊に1人いると便利な奴だ」

「確かに欲しいですね。丁寧に三脚まで作ってる」



 _______________


「信用されなくても良いから、もう行って良いですか!? 俺は従魔にお仕置きしなきゃならんのよ?」

「良いわけ無いだろ! くそ! こいつを捕らえろ!」

「なになに!? 何もしてないのに捕まえられる筋合い無いんだけど?」


 簡単に捕まってやらんぞ。

 兵士達の手は遅くて楽勝だな。

 見よ!

 この飛び込み避けを!


「キッモ! 避け方が変態的すぎよ!」

「騎士も混ざれ!」


 うわ!

 さすがに20人超えると大変だな。

 だが、それでも捕まえられまい!

 スウェーからの起き上がり。

 そのまま頭から滑って股下を通ってやる。


「はっはっは! まだまだ避けられるぞ!?」

「面倒だ! 斬ってしまえ」

「ええ? 攻撃してないのに斬られるのかよ!」


「オレはそういう許可を貰ってるから良いんだ!」


 アレン君め。


「クズに成り下がったか」

「その言葉は許せんぞ!」


 うへ。

 アレン君も混ざってきた。

 周囲から斬ってくる剣を棒で受け流し、棒を後ろに引いたら兵士1匹撃沈。

 右の剣は横腹を叩いて前方へ。その勢いで地面を叩き、反動で斜め後ろの兵士の股間へスマッシュ。


「ほっほっほ! まだまだ未熟じゃの!」

「こいつこんなに強かったの!?」


 ローズちゃんもびっくり。


「だけど、まだ誰も死んで無い! 僕の魔術も使うよ!」


 メガネ君め。

 だが、言ってしまっては奇襲の意味は無いぞ。

 そう思ったが、かなりキツい。

 これに魔法が加わるとやっかいだ。


「ほいや!」


 土をすくって投げつける。


「ぶっへ。ゴホッゴホ!」


 どっしゃり食らった土の味はいかがかな?


「ここの土は栄養満点だよ!」

「話す余裕も無くしてやる! ローズも弓を打て!」

「わかってるわよ!」


 そんなことは百も承知よ!


「好きに打つが良い! 俺は動き続けるがな!」


 絶妙に兵士や騎士を盾にしてタイミングを外す。


「君らは道具ばっかり使ってるが、人の体は色々使えるのだよ」


 騎士の目の前に滑り込み。

 回転しながらお尻でお腹にアタック。

 次の兵士には背中を胸に押し込む。


「内臓に衝撃があるとしばらく動けんのだ。これが逃げと避けに特化した人間の動きよ!」


 剣も途中で軌道を変えるくらいやらねば当たらんよ!


「だから気持ち悪いのよ! クネクネしてるかと思えば急に止まるし」

「俺もあれを使うぞ」


 アレク君か。

 だから言ったら意味無いっての。


「めっさ剣が光ってる!」

「これが俺の光剣こうけんだ!」

「流れに……ぶっへ!」


 避けきれなかった。


「はっはっは! さすがに避けきれまい!」


 攻撃範囲デカすぎだ。

 仲間まで吹っ飛んでるぞ。

 かすり傷程度だけど、徐々に切り傷が出来てきた。

 まだまだ動けるが、連携がうまくなってきて辛い。


 ちょっと態勢を整えたいな。

 あれをやるか。

 右足を高く上げて。


「ちょっと揺れるからご注意!」


 振り下ろす!

 見よ!

 これが、気を使った震脚よ!

 ズゴン!


「うわぁ!」

「ぶへぇ」


 取り囲んでたのは吹っ飛んだな。

 その周りはまだ多いけどな。


「なんだあいつ!」

「あんな技を持ってたなんて」

「あ、悪魔だ!」

「そうだ。悪魔に違いない!」


 ピシ。


「え?」


 ピシピシ。


「あ、嫌な予感」


 久しぶりだから気合いが入りすぎてしまったようだ。

 地面に亀裂が入ってしまったが、それよりも。

 足が抜けない。


「ん?」

「あいつ足がハマってるぞ!」


 ……

 …………


「僕悪い人間じゃないよ?」


「「「やっちまえ!」」」


 やっべぇ。

 そう思ってると結構近くから角笛が聞こえた。

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