第70話 獣族大移動2

 1日目


 まずは、俺が通ってきた村に近づく経路を辿る。

 その村は長年付き合いがあったので、タヌキ族が別れの挨拶をすることになった。


「なんと!村ごと引っ越しですか……」

「急で本当に申し訳ないが、今までありがとう」


 元の村には他の人達が住んでいるが、閉鎖的な者だと伝えておく。


「こちらも交易で助かっていたのですが、仕方ないですね」


 本当に残念そうにしていた。


「こちらも相当助かっていたのです。お礼になるかわかりませんが」


 ボンゴがコーンの種を渡す。


「これは?」

「この穀物は、いつも渡していた小麦の代わりですよ。粉にするのは一苦労ですが、生命力が強い種なので、お役に立つかもしれません」


 例のフリントコーンちゃんだね。

 村でも改良して、育てやすくしていたようだ。


「これは助かります。安価でおいしかったので、村でも重宝してたのですよ」


 喜んでくれたようでなにより。

 お互いの繁栄を願って再出発。


 ……

 …………



 夕方になって、見晴らしの良い場所を見つける。


「今日はここに泊まろうか」


 平原のど真ん中だが、草が低めで使いやすい場所だ。


「みんな! 野営の準備だぞー!」


 こういうのはウサギ族と猫族が担当だ。

 ネザーさんと猫族のニャフ。

 俺を見つけた奴の1人だな。


「焚き火係は大きめ3箇所!」

「大鍋持ってこいにゃ!」


 焚き火を中心に、周りを馬車で囲む形をとっている。

 屋台はその中に入って料理用に使われる。

 俺のも使われているよ。


 探索者組は、獣族が取ってきた野草が気になるようで色々聞いていた。


「え? それって食べられるの?」

「知らんのか? こいつは一度湯がくんじゃ。するとエグミが取れる」


 ヤギさんが実践して見せた。


「おぉ! どこにでも生えてるからこりゃ便利だな」

「だが、注意が必要じゃ。多く食いすぎると下すぞ。1人1食1握り。儂らはそう教わってきたな」

「それで食えないって言われてたのか。でも香りは良いよな」


「それ毒性あるじゃん!」

「こっちは乾燥させると毒が抜けるにゃ。1週間もあるなら使えるにゃ」

「そんな長旅しないからなぁ。これも初めての経験だよ」

「お前らは他の探索者より、経験が少なそうにゃ」

「わかるのか?」

「斥候に穴が多いし、匂いが弱っちそうにゃ」


『ニルファン』は猫族と仲良くなったみたいだな。


 他の人達もまだ問題無いな。

 それぞれ準備してる時に、スーゲンがやってきた。


「話には聞いていたけど、本当に獣族と知り合いとはね」

「嘘なんて言ってませんよー」

「さすがに今回は、長命会もびっくりしてたわよ?」

「何でです?」

「何でって、獣族よ? この国では100年前には消えたと言われてるのよ」


 知らなかったな。


「でも、エリンさんは知ってたっぽいよ?」

「あの人のことは長命会でも把握出来てないわよ。あなたのことも把握出来てないけどね。ふふっ」


 何とも良い顔するな。

 探索者は良く動くから体に無駄が少ないくて、スポーツ選手体型が多い。

 スーゲン達も例外なく、いわゆる美ボディというのか。

 生傷だけは多いが、勲章なんだろう。


「長命会って権限あるから、偉そうに見えたんだけど、今回あたふたしてるの見て考えが変わったわ」


 俺なんていつもあたふたしてるよ。


「ちなみに依頼料足りなかったから、会が3倍追加してるわよ」


 そう言って去っていく。

 がんばってお金貯めたのに……。


「薬人どうした? そこで寝ると風邪引くぞ?」



 ……

 …………


 10日目

 隣村の人も、多少探索者と話できるようになっていた。

 そんな時、行程の3分の1まで来た所で問題が起きた。


「あれって、やっぱりそうだよね?」

「間違いなく人族の軍隊だな」


 俺とオーバさんが見たのは、剣に放射状の線が入ったマークの旗。


「ルインさん知ってます?」

「あれは聖教国だな。かなり厄介な奴らだ。獣族もそうだが、獣人にも敵対する可能性がある。俺でも対応できんな」

「でも、人族って俺と」


 ジャンとベンしかいないよ?


「獣人に絞り過ぎたのはまずかったな」

「とにかく、このままだと俺たちの後方を横切る形だな。後を辿られると面倒だぞ?」

「わかった。俺が後方に行こう。ベンは先導に必要だから、そのまま先頭に行って」


 俺が行くしか無いよな。


「それしか無いだろうな。あとはどの隊かだが、異端審問官がいるとやっかいだぞ」


 もう一度良く見てみる。

 先頭にいるのは、煌びやかな銀の鎧に豪華な剣と盾。

 キリッとした顔だが、まだ少年だな。

 その横には、メガネに法衣の少年。

 反対に活発そうな少女。

 見たことあるぞ。


「あれって」

「知ってる奴か?」

「責任勇者君だ! アレクって子だよ」


 俺がそう言うと、みんなはさらにゲンナリした顔になる。


「最悪だな。帝国との先兵か」

「ちょっと権限あげて当て馬にしたとは聞いてたけど」

「私が聞いた話だと、悪人を斬っても良い権利だったはずよ」

「聖教国だと獣人も悪だ。獣族はもっとひどいぞ」


 俺ら終わってね?


「逃げられそう?」


 振り返って確認する。

 全員、首横に振ってる!

 肩を掴まれ、振り返る。


「対応出来る者は、あなた以外無理だな。私達もなるべく速く行くから、1秒でも長く時間を稼いで」


 そう言うと、スーゲンは族長達に号令をかける。


「ウサギ族だけで索敵。他の全員で馬車を押せ! 最速で行くぞ!」


 ちょっと待て!

 メサとオスクは残るだろ!?

 はっや!

 今までで一番の速さだよ。


 1人は嫌だよ!!


「ジャン! 君も残るんだ。見届け人は必要だろう!」


 両肩を掴んで逃がさない。

 気絶してもこの手は離さないぞ!


「オレ何も出来ないよー。え? みんな待って!!」

「後は頼んだよぉ! ジャンもがんばってね!」


 もう豆粒サイズだな。


「良かったな。メンバーから声援貰えて」

「オレも行き……手を離して」

「ここを乗り切ったら真の探索者になれるぞ!」


 ぴくっ。


「この話がギルドに行けば、良い評価もらえるだろうなー?」


 ぴくぴく。


「しょうがねぇなぁ。本当に見てるだけだぞ?」

「わかったわかった。見てるだけで良いよ」


 と言ったが、本当にどうしようか。

 とりあえず。


「踏んだ草を立てて」


 ジャンと一緒に近辺の草を立てて、ついでに少量採取しておく。

 気を巡らせて草に賦活すると、わだちが薄くなった。


「これで、ちょっとマシだろう。あとは」


 採取してたって言い訳もできるけど、もうちょっと何か欲しいな。


「あとはどうすんだよ?」

「それね。有耶無耶に出来そうな理由が欲しいんだよね。んー。雨でも降らすか?」


「は?」

「だから雨を降らすんだよ。地面がぬかるめば動きづらいし、気がそれるだろ?」

「頭おかしくなったか? どうやって降らすんだよ?」

「しくった! 降らすのに2週間いるわ!」

「アホかよ。知り合いなら説得すれば良いだろ?」

「ちっちっち。甘いな。彼と仲間は人の話を聞かないのが得意なんだよ」

「うっわ。最悪じゃねーか」


 ……

 …………


 全く良い案が浮かばない。


「本当どうしようかね。もう精霊に頼んじゃうか?」

「おい、もう来るぞ! オレは隠れてるからな!」


 ジャンが離れていくが、それどころではない。

 とりあえず、精霊を呼んで何かあったら任せることにした。


【ちょいちょい皆んな。この後来る軍隊止めたいんだけど、俺が止められなかったら代わりにお願いね】

 ここは羽虫(風精)が多いね。

 話たいこと? なになに?

 え? 反対から帝国軍も来てるの?

 やべーぞ!


「おい!」


 マジどうする?

 逃げ……たらマズイよな。


「おいって!」


 上を見ると勇者君がいた。

 とりあえず挨拶しておくか。


「やぁ」

「やぁ。じゃない! なんでお前がここにいるんだ。」


 うっわ。

 口調も酷くなってる。


「何って。採取?」


 一応右手に野草を掴んでる。


「これからここは戦場になるんだ!」


 アレン君がそう言うと、後ろから声がかかる。


「ちょっと失礼。勇者様の知り合いですかな?」


 覆面で斧持ってるとか、どこの変質者ですかね?


「一応知り合いかな。彼はギルド試験で一緒になった奴だよ」


メガネ君も言い方変わってるし、そのままの方が良かったぞ。

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