第61話 ニールセンの変化

 俺たちは、翌朝早めに動き出した。

 日が上る前に準備を済ませ、日の出とともに出発する。

 昨日言ったから挨拶も良いかな?

 なんて考えていたんだが、見送りに待ってたらしい。


「早く出るって、分かってたにゃ!」


 イアさん達もミーア達も、森の前で待ってたようだ。


「そんなに気を使わなくても良いのにさ」


 ちょっと恥ずかしいな。

 とか考えていたんだが……。


「そんなことより、ベンに伝言お願いします」


 そんなことは無かった。


「オーインから?」

「ミーアからでも、どっちでも良いですよ。一度戻って来て欲しいってだけですから」

「それくらいなら受けても良いよ」

「じゃあ、お願いします」


 その後の別れもさっぱりしていた。

 イアさんなんて、「そのうち戻ってくるのじゃろ。はよ行け」

 なんて言う始末だ。




 いざ、と出発したが、2日目も午前中には着いてしまった。

 オスクのおかげで、移動が早くて助かるな。


「次のやつ、前へ」


 門番に呼ばれてギルド証を確認してもらう。

 この人見たことある気がするなぁ。


「ノール? 久しぶりだなぁ」

「あ、やっぱり知ってる門番さんだったか」

「お前が初めて街に来た時もオレだったんだよ」

「なるほど、よく覚えてましたね」

「名前だけな。発音が面白かったから印象に残ってるんだ」


 そう言いつつも門番さんはギルド証の確認を続けている。

 心なしか、周りの人のチェックも厳しくなってるか?


「よし。入って良いぞ。街は雰囲気変わってるけど、お前は大丈夫だろう」


 意外と早かったと思ってると、横から暴言が聞こえてきた。


「オレらはこんなに時間かかってるのに、なんであいつは早えんだよ!!」


 俺を指で指して怒っている。

 そっちの門番も俺を見て、


「んー? あまり見かけない奴だけど……。そっちの早かったようだけど、大丈夫かぁ?」


 こっちの門番に声かける。


「こいつはこの街の探索者だから良いんだよー!こいつが草取りだから覚えとけよー」

「そいつがかー。わかった。ということだから、問題なし。お前のチェックは続けるぞ」


「あいつ最近来たから、お前のこと知らないんだよ。出入りするなら早めに覚えてもらうと良いぞ」

「はぁ、わかりました。では失礼します」


 軽くお辞儀して進む。


「おっと、言い忘れてた!」


 去り際に話しかけられる。


「ようこそ。『ニールセンしょうこく』へ」


 自慢げに言ってニヤリと笑っている。


「しょうこく? まぁいっか」


 何をするにしても、2匹を一度厩舎に預けないとね。

 オスクなんて屋台引っ張っているし。


「厩舎に行くよ」

 プルプル。

 くわっ。


 ここの厩舎は変わりないようだ。

 そこで見知った顔を見つけた。


「キールさん! 久しぶり!」

「1年ぶりですかな? お元気そうでなにより。そっちも元気かい?」

 プルプル!

「そちらはお初ですかな? キール爺と呼んでくださいな」

 くわっ!


「こいつはオスクって名前です」

「オスク君、よろしく。ちょっと前に魔鴨連れた子達が来たから、仲良くなれると良いねぇ」


 ベン達の子かな?

 見回してもいないから、今は仕事中かな?


「2匹ともお願いできますか?」

「構わんよぉ。カエデちゃんも会いたがってたから、喜ぶね」


 カエデともしばらく会ってないなぁ。

 その前にやることやっとくか。


「じゃあ用事があるので行ってきます。明日には一回顔見せに来るからね」

 プルプルプル。

 くわっく!




 大通りに出ると、懐かしい街並みが……。

 ちょっと違うなぁ。

 前はもっと若々しい感じだったけど、レトロ感が増した?



 散策しようかと考えていると、ノーリに出会でくわした。


「ノール! やっと来おったか! すぐにダイン様の所に行くぞ!」

「わわ! そんな急かさなくても……」

「ずいぶんと待っとったんじゃ! それに後にすると、お主は忘れるからの」


 腕を引っ張って、いつもの場所へ向かう。

 と思ってたんだが、違った。

 見慣れていたんだけど、縁が無かった門。


「ここって上街じゃない? ダインさん上街にいるの?」

「そうじゃ。ダイン様は、今やこの国の上役になったからの」

「え? そんなにお偉いさんなの? また今度に……」

「そんなわけ行くか! ほれ! はよう歩け!」


 門まで行くと衛兵に止められる。


「身分証を見せてください」


 全身甲冑の門兵に声をかけられた。


「ほれ」

「はい」


 2人して見せると通してくれた。


「そっか、俺中級になったんだっけ」

「やっとか。儂とトーマスはあの後すぐ昇格したぞ」

「えぇ? 早いなぁ。俺なんてつい最近だよ?」

「お主のは級で考えても意味無いからのぅ。それより行くぞ」


 急かされて着いたのは、落ち着いた雰囲気の大きな館だ。



 中に入ると、大きなエントランスがある。


「ノーリ殿。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付にいた執事服を着た男が、俺たちを見つけると声をかけてくる。


「ダイン様に頼まれてな。こいつが来たら会わせに来いとな」

「どうも7級探索者のノールです」

「確認させて来ますので、あちらのソファでお寛ぎください」


 壁際にある毛皮が掛かったソファに案内された。


「ダインさんって、親方じゃなかったの?」

「親方も兼ねておる。役人になったのは、人手不足じゃな」

「大変だねぇ」


 10分程軽く旅先の話をしていると、今度は上質な服の青年に声をかけられる。


「お待たせしました。ダイン様のところへ案内します」


 そう言ってゆっくりと歩き出した。

 その後を着いていくと、部屋がいくつもある。

 部屋に出入りする人達を見ると、種族はバラバラなようだ。


「改めて思うけど、この街は亜人種が多いよね」

「亜人にとって、住みやすいからなぁ」

「それでも獣族は少なめだけどね」

「今まではな。これからは入りやすくなるぞ」


 そんな話をしていると着いたようだ。


「ダイン様、ノール様を案内してきました」

「入ってくれ」

「どうぞ」


 青年が扉を開けてくれる。


「失礼しまーす」


 ダインさんは仕事机を前に座っており、いかにも役人のようなビシっとした服を着ていた。


「久しぶりじゃな。というかお前に連絡するのは苦労したぞ」

「はぁ、それはご迷惑?おかけしました」

「それはもういいわい。それより……どこじゃったか」


 机の横にあった箱を、ガサゴソと探り出し、1枚のカードを取り出した。


「これじゃ! ほれ!」


 そう言って、俺に放り投げてくる。


「ちょ! おっと。金属製?」


 ピカピカ光っているが、魔力がありそうだ。


「この国の通行許可証じゃ」

「ほぅ? 許可証?」


 獣王国に行くと知ってたのかな?


「ダイン様。こいつわかっとらんぞ?」

「だろうな。門で言われなかったのか? ここは『ニールセン小国』じゃと」

「言われましたよ? いつの間にか微妙に名前が変わってるなと」


 そう俺が言うと、2人してため息をつく。


「良いか? ニールセンはスーメルグ王国から独立したんじゃ! 国に変わったこともあって、やることが増えた。だから儂が役人までやっとるんじゃ」

「え? ここの国になったの? 出世したってことかな?おめでとうございます」


「全くめでたくない! 王国が滅ぶから仕方なくじゃ! とりあえず、帝国と聖教国に使者を送って認めさせた。それが3ヶ月前くらいか」

「へぇ。じゃあ王国全体がニールセンになるんですか?」

「いや、ニールセン周辺だけじゃな。帝国も聖教国も新たな土地が欲しいから、奪うまで止められんのじゃ。ちなみにブルーメンも半独立国じゃな。あそこを狙っても、うま味が少ないからのぉ」


 この国は、◺二等辺三角形をしており、90度が左下。

 その90度端っこにブルーメン。

 その上にニールセンがある。

 端っこ2つの都市程度が残っていても、気にならないのだろう。

 南の山側や西の海側には、魔物が多く住みづらくなっている。


「ニールセンには儂らの長命会があるからの。それなりに顔は広いんじゃ。攻めても消費がデカイから、うまく使った方が得だと思ったんじゃろ」

「なるほどねー」

「ダイン様だけじゃなく、他の方々も何かしらの役職についておる。おかげで儂も使いっ走りで大忙しじゃわい」

「悪りぃとは思うが、もうちょっとだけ手伝ってくれい。もうすぐ、2国から返礼の使者が来る。それまでは仮だからのう」



 話を続けていたら、突然ノックされる。


「誰じゃ? まだ、前の客がおるが」

「失礼します。帝国から伝令がきました」

「早いのう。待たせられるか?」

「それが、もう……」


 そう言いかけた所で『ズバン!』と扉が勢いよく開く。


「ノール。こっちじゃ」


 ノーリに壁際へ引っ張られ、床に座らされる。




「ダイン殿! いきなりですまんな! だが、私は待つのが嫌いなんだ。はっはっは!」

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