第62話 帝国の使者

「本当にいきなりじゃな。要件を聞きたいところじゃが、先に客人を帰しても良いかな?」

「客人?」


 そういって帝国人が見回す。

 この女性は30代くらいかな?

 大人の女性といった感じだが、背も高くて筋肉質だ。

 軍服っぽいのを着てるし、生命力も多くてかっこいいお姉さんだな。



「ドワーフと人族?珍しい組み合わせだな」


 そう言うと、帝国人の目が鋭くなった。


「片方は儂の親族じゃ。それとその友人じゃな。2人とも軽く紹介してくれい」


「ノーリと申します。以後よろしくじゃ」

「どうも、ノールです。探索者やってます」


「ノーリは手伝いやってもらってるから、たまに会うかもしれんのう。ノールは……忘れても良いぞ?」


 え?

 その説明ひどくない?

 帝国の人も……笑ってるよ?


「ふふ。そうか。よろしく頼む。ところで……」


 帝国人が急に気を開放し、徐々に強くして俺たちに圧を掛けてくる。

 空気も揺らぎ始めて、ダインの机にあった紙が旗めく。


 俺は滅多に使わない脳みそで考える。

 体育会系タイプに気に入られると、しばらく纏わりつかれるヤーツだ。

 こういう時は動かないに限る。

 片膝をついて、もうダメですアピールも忘れない。

 どうだ!?

 なんて考えてると、ノーリのほうが演技がうまい。

 ノーリは呼吸も荒くなり顔真っ赤にして、辛そうだ。

 それはやり過ぎじゃないか?

 演技がすご過ぎて、本当に苦しいのか?

 気を流して、少し落ち着かせてやる。

 しばらくすると、徐々に落ち着いてきたようだ。


「おい! 書類が飛んだらどうすんじゃ!」


 ダインさん、もっと早く言ってくれよ。


「おっと、すまんね。だがこれで聞きたいことが出来た!」


 カツカツと音を立てながら近づくと


「どこで戦技せんぎを覚えた? それは帝国が機密にしている技だぞ!」


 そう言って詰め寄ってくる。


 俺はノーリを見るが、彼もわかってないようだ。

 俺もわからん。


「どれのことを言ってるのかわかりませんが……」


 本音で返すと、ダインさんから返事がきた。


「ノールの技じゃろ? ノーリからは、前に気配察知を教えてもらったと聞いたぞ?」

「気配って、気の操作のですか?」

「これか?」


 ノーリが気を探っている。


「それだ! 誰が教えたのだ!?」


 強く肩を掴んでくる。


「誰って師匠ですけど?」

「それが誰だと聞いているんだ!!」


 すごい剣幕。


「えー。師匠は……誰だっけ?」


 そう返って怒ってしまった。


「こいつ巫山戯ているのか!?」

「巫山戯ては無いし、それが通常じゃ。真面目に相手すると疲れるだけじゃぞ?だから忘れても良いと言ったのじゃ」

「ダイン様の言う通りじゃ。しかし、儂もノールの師匠は気になるのう。記憶も全然戻らんのか?」


 ノーリの言葉が気になったようだ。


「記憶が戻らんとはどういうことだ?」


 そこでダインさんが軽く事情を話してくれた。

 それでもあまり納得できていないようだけどね。

 ふと遺跡のことを思い出したので、日記に書いたメモを見てみる。


「ちょっと待ってね。確か遺跡にあった文字で……これかな?」


 遺跡で見つけた珍しい文字を見せてあげる。


「どれどれ……。何じゃ? 硬そうな文字じゃのう? ダイン様知っとりますか?」

「遺跡のじゃな。儂も遺跡で見ただけで読めんな」

「私にも見せろ。帝国でも無いな。その文字がどうしたというのだ」


 みんな知らないか。


「たぶんだけど、俺の故郷の文字だと思うんですよ。馴染み深いと言うか」

「ノールは人族じゃろう? 共通語の国じゃ無いのか?」

「人族だと思いますが、共通語の国ではないですね。ここらの言葉で最初に覚えたのは、精霊語ですから。その後にグルマン語、最後に共通語でした」


「私も一度覚えようとしたが、ほとんど分からなかったぞ? それを一番難しいと言われる精霊語から覚えたのか? 無謀と言うか……まぁ、それは良いか。その文字は何と書いてあるんだ?」


 共通語に翻訳してあげる。


 ……

 …………


「それで、ジロリアンとは俺の国の戦士のことだったかと。そして、次郎人がおそらく師匠のことだと思います」

「古代語を使ってる国があったとはのう。もしくは滅んだか?その次郎人とやらが技を教えたのか?」

「おそらく。いや、気を感じるのは自力でしたね。瞑想すれば覚えられましたよ?」


「ここでは隠しても意味無いから言うが、瞑想は我が国と同じ修練方法だな」

「気付くきっかけは作れても、瞑想しないと使えないレベルですしょうね」

「儂も毎日やっとるが、トーマスはうまかったな。人族のほうが向いてるのかもしれんな」


 結局、師匠のことも詳しくは思い出せなかったんだけどね。

 例の日記も帝国に無いか聞いたがわからないらしい。

 隠す素振りも無かったから、本当に心当たりは無いのだろう。

 帝国に来ないかと誘われたが、断っておいた。

 やることが結構溜まってるんだよね。

 これ以上は覚えられないし、行ったら面倒なことやらされそうだからね。


「あんまり無理強いするとコイツは逃げるぞ」

「そんな気はしていた。はぁ」


「ここまで話したんじゃから、聞かせても良いじゃろ。ノールにエリンから伝言じゃ」

「エリン殿!? ノール君は知り合いなのか?」

「エリンのお気に入りじゃ。そうだ!エリンからノールに『村に戻るなら、これ渡しておいて。』だそうだ」


 そう言って手紙を渡してくる。 

 村のこと言ったっけ?

 エルフだから知ってたのかな?


「わかりました」

「よし。もう行って良いぞ」


 じゃあとお辞儀して扉へ向かう。


「もし、帝国に来るなら『赤騎士団のアメリア』の知り合いと言え」

「ありがとうございます」


 そのまま退室する。

 とりあえずメモっておこう。

 赤騎士団のアメリアさんと。


「帝国のアメリア氏は有名じゃからな。それなりに使えるじゃろう。偽物と思われなければのう」

「なんだよそれ! 実際使えない奴じゃん!」

「有名過ぎるとそうなってくるんじゃな」

「はぁ。あんだけ話聞いたのに収穫なしか」


 最後に上げて落とされると、もうお手上げだね。


「ところでノーリ」

「なんじゃ?」

「どのくらい気は使えるようになったの?」

「むぅ。気配は探れるようになったが、賦活が半端じゃな。なかなかうまく纏まらん」

「それなんだけどさ」


 魔力と気力が干渉することを教えてあげた。


「魔力を抑えたらうまくいくかのう? 明日やってみるか」

「そうすると良いよ」


 2人とも疲れたと言うことで、今日は解散となった。

 孤児院泊めてくれるかなぁ。


 ……

 …………




「お久しぶりです!」


 あ、マーガレット先生。


「先生。お久しぶりです」


「むっふー。この1年ちょいで、魔力の解明ができました」

「へぇ。おめでとうございます」

「気力なる技を使う子に会いましてね。その子がノールさんと同じ状況だったので、色々試したら、魔力を覚えることができたんですよ!」

「そうなんですね」

「ですから、ノールさんにも魔力が使えるように出来ますよ!」

「もう使えます」



「え?」


 操り人形のように顎が落ちてしまった。


「ですから、もう魔力使えます」

「へ?」

「わ、わたしの一年が……」


 あ、座り込んじゃった。


 そこにシスターがやってくる。


「まぁ、ノールさん戻ったのね。小屋は空いてますから好きに使ってくださいな」


 シスターは変わらず優しいな。


「数日ですけど使わせてもらいます」

「ところでマーガレット先生はどうしたのかしら?」

「先生が教える前に、俺が魔力覚えちゃいましてね」

「それはそれは」


 シスターは頬に手を当てて、少し考えた後、先生に近づいた。


「先生の努力は無駄ではないですよ? 他に覚えられない子がいたら、教えて差し上げてくださいな」

「そう……ですね! 他の子を救ってあげましょう! まずは元気をつけましょう」


 そう言って孤児院へ走って行った。


「あの子も良い子なんですけどねぇ」


 シスター。

 先生は孤児じゃないよ?


 シスターに俺がいなかった間のことを聞いた。

 孤児達も変わりなく、棒術や魔力が上達しているらしい。

 ジャンは同い年の子を連れて、孤児院を出て探索者になっていた。

 出てからも時々顔出ししており、もうすぐ7級試験だと言うじゃないか。

 若手でも昇級が早く、もう一つの若手チームと競い合ってるらしい。

 競ってると言っても仲が良いらしく、よく一緒に仕事もしている。

 年も近くブルーメンから来た子達らしい。

 なんと、ブルーメンの子はセルジオさんの担当だ。

 セルジオさんとも会ってないから、明日はギルドに行ってみよう。

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