第55話 7級試験(裏)

 ワルシャ北部の山。

 ここらは森の切れ目で、いくつも洞窟が見られる。


「アレク。あそこの洞窟が怪しいわ」

「ローズのスキルなら間違いないだろう」

「僕は後ろを警戒しつつ回復していくね」

「「「我々も一緒に戦います」」」


 兵士達の声が響く。


「ここまで来たらしょうがねぇだろう。俺も手伝う」


 監督も頭をかきつつも乗ることになった。




「俺が先頭で行く。ローズもスキルの遠見を使って俺に続け。他のみんなはその後に!」

「「「「おう」」」」


 入り口ではわかりづらかったが、洞窟の中はそれなりに整備されている。

 奥には粗末な扉がつけられており、声が漏れてくる。


「今日の奴ら戻ってきませんね」

「どっかで遊んでいるんだろ?」

「そんなことより、早く売っ払って別の場所行かねーとな」

「そろそろ足がつきそうだ」


 野盗達の声だ。

 他にも扉が見えるので、そちらにも兵士を送る。


「さぁ、行くぞ」


 アレクが合図して中へ突撃。

 ずがぁぁん。と扉を蹴飛ばし中に入るや野盗達を切っていく。


 すぐに制圧し、奥へ奥へ。

 すると野盗のかしららしき大男が現れた。


「なんだてめぇら? 鎧着て兵士か? くそっ、ヘマやりやがったな」


 悪態をつく。


「俺は悪事を許さない」


 アレクが言う。


「ん? 何だおめぇ?」


 かしらは違和感を感じたようだ。


「お貴族様か? そうだろ! はは!」

「だったら何だ!」

「別に何でもねぇよ? でもお貴族なら逃げるのは辞めだな。出来るだけ道連れだぁ!」


 そう言って手当たり次第に刃物を投げつけてくる。

 その一瞬で兵士が5人死に、ローズも腕にナイフが刺さった。


「いきなり卑怯だぞ!」


 アレクが切り掛かり。


「お前もいきなり乗り込んで来て卑怯だなぁあああ!」


 頭も斧で応戦する。

 何度も剣戟が繰り返されるが、勝負はつかない。

 だが、次第にアレクが押され始めた。


「力の差だな!」


 頭が笑い出す。


「外も……兵士が詰めている。お前は逃げられん」


 苦しそうにアレクが告げる。


「お貴族様は道連れよぉ!」

「そこまで貴族が嫌いか!?」


 アレクが言うと、頭が止まった。


「白けた」


 そう言って、下がると液体を撒き出し、火を付ける。


「あばよ。先に地獄に行ってるぜ。はははははは!」


 そう言って頭は笑いながら死んでいった。

 生きてる人を抱えながら、やっと入り口に戻ってくると、監督が何人も救助した後だった。

 捕まえた野盗を探してみると、どこにもいない。


「あいつらは、決死だったな」


 監督が言う。

 兵士を見かけると、いきなり奇声をあげ出したそうだ。

 その後は気絶した仲間も殺して周り、起きてる者は死ぬまで戦ってきたという。

 兵士は30人近く息を引き取り、捕まっていた者も半分は殺された。


「なんという非道を。くそ!」


 アレクは憤る。


「お前の役割は終わった。あとは兵士達の仕事だ」

「もちろんです。穴蔵含めて痕跡を洗い出します」


 隊長らしき人が進み出た。




 王都への帰り道。


「残った奴達がちゃんと仕事してくれたよ」


 ミハエルが伝えるが、みんな浮かない顔だ。


「そうか。それは良かった」

「俺はもっと強くなりたい。強くなって守れるようになる!」


 アレクは決意した。


「私も修行するわ」

「僕もするよ」


 光剣は新たな目標に向かって力をつけることになった。


 ———————————————


 それから1週間後。

 王都のある屋敷に険しい顔した老人がいる。


「父上。久しぶりに呼ばれましたが、何か用ですか?」


 痩せギスのメガネ男が言う。


「まぁ座れ」


 私が座るのを待っている。


「他のみんなにはもう言っているが、ワルシャ北部で野盗と戦闘があってな」


 最近聞いた話だな。


「その話は、噂だけ聞きました。なんでもサンダールの小僧が参加したとか。結構活躍したそうですね?」

「そういうことになっている」


 そこで、ジールは言い方が気になった。


「なっているとは?」

「これから話すことは、伯爵以上の爵位にしか伝わっておらぬ。そして、直接仕事する者以外は話してもならぬ」


 厳しい顔をしているな。

 大事な話なのだろうと俺も頷く。


「あの事件の中身はかなり凄惨だ。盗賊全員の死亡、兵士30名以上死亡。捕虜だった者は15名救出し、20名死亡した。捕まった盗賊は0だ」


 いくら抵抗したとしても、そんな結果はひどすぎる。


「そんな馬鹿な。せめて1人は捕まえているのでは?」

「0だ。サンダールの小僧が盗賊全てを切り捨てていった。他の場所に向かった兵士達も捕まえようとしたが、起きてる盗賊が気絶した仲間や捕虜を殺して回ったそうだ」

「作戦などなかったのか!?」

「あっただろうが、お粗末だったのだろうな。その時の隊長は死に、外で待機していた副隊長が後を次いだという。ふぅ」


 ここで一度ため息を入れ、話を続ける。


「戻った小僧も反省はしているが、何を血迷ったか力を求めている。サンダールも賛同し、聖教国側の奴らは協力すると言い出した。頭を鍛えぬ脳筋の出来上がりだ。さぞ扱いやすい勇者だろうよ」

「私たちはいかが致しましょう」

「あっち側の奴とは手を切れ。お前は探索者と繋がりがあったな?」

「バートのことですか?」

「そうか獣王国の小倅がいたな。そいつを連れて国を出ろ。そうだな、亡くなったジークの子供も一緒に連れてってやれ」


 ジークは4男だったが、南部山間地帯の魔物討伐時に亡くなっている。

 だが、あまりにもいきなり過ぎる。


「な、急すぎませんか?」

「今なら聖教国も通れるが、数年以内にこの国は戦場だ。もはや緩衝地帯は必要ないのだ。その前に、遺跡探索の旅に出れたら良いだろう?」

「兄上達はどうされるのです?」

「長男は帝国へ向かわせる。次男は、すまぬがもう行かせた。今は海を渡っているだろう。もはや穏健派が邪魔なのだ。帝国も聖教国も土地が欲しい。この国の貴族にはかなり前から手を回しているのだろうな」


 寂しそうに話している。


「すでに動かれていたとは……。父上は行かぬのですか?」

「儂は侯爵だから、最後まで見届ける必要がある。穏健派の面倒も見ないといけないしな……。ギリギリまで息子に譲らなくて良かったと、初めて思っている」


 胸が痛くなる。


「父上……」

「なぁに。最悪、無法となったブルーメンに逃げてやるわ。すでに儂の若い手駒を何人か送っている。魔鴨団とかいうのが出張っているらしくてな。子供と老人を囲っているらしいぞ?」

「変わった者達ですね。考えがあるのなら、私が言うことはありませんね。私は準備が出来次第、出発いたします」

「執事長にお前の支度金を用意させた。多めに入れたから使用人も何人か連れてってやれ。良き日々を……」


 父上も寂しそうな顔しないでくれ。


「良き日々を……」


 お辞儀して退出する。

 扉を開けると執事長が待っていた。


「ジール様、こちらが支度金でございます」


 俺が子供の時から世話になっていた爺だ。

 ほとんど家族のようなものだから、なおさら寂しく感じる。


「行きの依頼料含めて、何人連れて行けそうだ?」

「5人程かと」


 思ったより少ないな長い旅になるかもしれないな。


「希望者を募ってくれ。選ぶのは任せる」

「かしこまりました」

「世話になったな。良き日々を……」

「良き日々を……」

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