第46話 薬師との出会い

 北の森で薬草を探しつつ納品すること数日。

 今俺は厩舎にいる。


「なんで宿屋に行かねーんだよ」


 そう話しかけてくるのは、門番でテンションの高かった男。


 毎日仕事が終わると、厩舎の魔物をみて回っている。

 動物園感覚だな。


「王都の宿屋高いんだよ。それに下手な宿屋より快適だよな? オスク」


 くわぁ!と鳴いて頷く。


「そいつは魔物なんだから当然だろ!」


 そう。

 俺は厩舎で寝泊まりしている。

 わらとオスクの横はあったかいんだ。

 メサ? あいつはずっと空だよ。

 厩舎の意味ねーし。

 今日も今日とて、薬草を届けに行く。


「こんちはー。薬草持ってきましたー」


 おんぼろ薬屋にやってくる。


「やぁ。ちょうど良かったよ。この子が薬師だよ」


 顔を横に向けると、銀髪で整った顔の女性が居た。

 見た目は20歳位だろうか。


「あなたが薬を知りたいって人?」


 少し高い声だが、不快感は無い。


「そうです。名前も知らずに薬草を取ってましたが、もう少し詳しくなりたくて。ご指導いただけませんか?」

「残念だけど、私もまだ見習いなの」


 マジかー。ちょっとガックリ。

 と残念にしているのが分かったのか、話を続けてきた。


「でも、私の師匠に会わせてあげるわ。教えてもらえるかは、自分で交渉してね」


 やったね。


「手探り状態で伝手も無かったので、それだけでも良かった」

「少し待っててね。薬を納品するから、その後に連れてってあげる」


 いくらでも待ちますとも、数分だったけどね。

 女性はエリスという名前で、師匠の元で10年ほど修行しているらしい。

 エリスの案内でたどり着いたのは、作りはしっかりしているが古びた建物。

 ホラーでありそうな風貌だな。

 中に入っても苔むした石壁だった。

 ここに住めるのかと思ったが、俺も森にいた時は変わらなかったかも。

 いくつか通路を曲がると、石壁に触れて、何かをなぞりながら知らない言葉で唱えだした。


「縺翫↑縺輔⊃繧医m」


 すると石壁がズレて階段が現れる。

 さすがに驚いたよね。

 まさかカラクリ屋敷だったとは。

 エリスもドヤ顔してるし、自慢のトラップなのだろう。


 階段を降りて行くと、長い通路を通らされた。

 10分位歩いただろうか、そこからさらに階段を降りると、その先に結構な光量がある。


「すげぇ。太陽が見える。地下だと思ったら地上だったのか?」

「私も初めて来た時は驚いたけど、ここは地下で合ってるわよ」


 この地下の空間は魔法陣で維持されていて、太陽に見えている部分は、天井を透過させているという。

 光は通すが、雨などは通さない不思議な技術。

 一応他言しないように念を押された。

 俺もわかったと言おうとしたところで、

 遠くに見えるログハウスから声が飛んでくる。


「くぉら! 勝手に知らん奴を連れてくるんじゃ無いって言ったじゃろー!?」


 デカイ声だな。

 耳を押さえないと、立ってられない。

 ログハウスから女性が飛んでくるのが見えた。


「師匠! この人前に言ってた人でしょ? ほらほら。腰を見て」


 エリスは弁明しているが、しかめっ面のままだ。


「ふん。何言っとるんじゃ。お前の細腰なぞ何も無いじゃないかえ?」


 この人もモヤがかかってるな?


「初めまして。私がエリスさんに、薬について教えて欲しいと頼んできたんです」


 一応挨拶しておく。


「また押しかけかえ? ほんにみやこの奴は迷惑モンばっかりじゃ」

「違いますって師匠! 私の腰じゃなくて、その人の腰!」

「押しかけ人族の腰に何があるってぇ? え? えぇ!?」

「話が進まないですよ。良いからその人の腰にあるのを見てください!」


 エリスが無理矢理その師匠の体を俺に向ける。


「ふん。そこまで言うなら一応な。どれどれ……」


 ジロジロ見てたかと思えば固まった。


「な……。お、おまそれ! なんで! その筒を人族が持っとるんじゃ!?」


 瓢箪ひょうたんを指している。


「これ? もらったんだけど」

「誰じゃ? 誰にもらったのじゃ!?」


 なんだか、すごい興奮しているな。


「誰ってケープだけど? あれ? 言って良かったんだっけ? 場所言ってないからセーフにしておこう。うん」


 1人で納得しておく。大丈夫だよね?


「ケープ!? 本当に?」

「本当ですよ」

「どこに居るんじゃ! 教えてくれ!」


 掴みかかってきた。

 結構強いな。


「無理ですよー。本人から言うなって頼まれてるので」

「師匠。そんなに大事な人なんですか?」

「ケープ様が私の師匠なんじゃ。だいぶ前に人族に追われてのぅ。それから行方不明になってたのじゃ」


 ちょっと落ち着いたかな?


「それにしても生きておられたか……。元気か?」

「1年以上前の話ですけど、元気でしたよ」


 この人よりは、ケープさんのほうが長生きしそうなんだよね。


「そうかぁ。良かった良かった」


 涙を流している。

 そんなに大事な関係だったのか?

 ポロッと出ちゃったけど、結果オーライっすな。


「よし。お前の弟子入りを許可する! 名前は?」


 おぉ! いきなりOK貰えた。


「探索者8級のアッシム……ノールです」


 すると師匠が俺の額に手を添える。


「アッシム……ノールを弟子とする」


 言ってモヤを流そうとしてきた。

 あぁ。このモヤが魔力か。

 変わらず魔力は削れて消えるな。


「む。お前。変な力持ってるのじゃ。それを一度止めろ」


 変なってなんだ?

 何のことを言ってるんだろうか。


「わかっておらんのか? それじゃ。体にまとってる生命力じゃ」

「あぁ。気力のことですか」


 無意識に体表までまとってたようだ。


「アッシム……ノールを弟子とする」


 再びモヤを流してきた。

 今度は体の中に入ってくる。

 おぉ? おおおおお。これが魔力か!?

 まるで気のついだな!

 そう思ってるとエリスの師匠が首を傾げている。


「ノール。お前本名じゃないな?」

「あぁ。本名は高橋実たかはしみのるです」


 門番が勝手に間違えたんだよな。

 もうノールで定着しちゃってたなぁ。


「うむ。一応聞いておいたのじゃ。ノールでかまわん」


 それで良いのか!?

 黙ってたエリスが話し出した。


「うむ。じゃないですよ! 私、ちゃんと間違って無かったでしょー?」

「む。すまんな。最近嫌な奴が多かったしの?」

「最近って20年以上前の話ですよね!? 私いなかった時ですよ……」

「悪かった! エリスの好きなキノコシチューにしてやるからの?」

「やった! それで良いですよー」

「現金な奴じゃの」


 その後、ログハウスに入って話をする。

 師匠になる女性は、イアと名乗っているそうだ。

 俺と同じで偽名だが、それなりに定着していると言っていた。

 種族は人族だが、魔女になって長命にもなったそうだ。

 見た目は30手前くらいだが、200歳は超えている。

 エリスは魔女見習いだが、年齢は見た目通り22歳。


 薬のこともそうだが、魔力の修練も教えてもらうことになった。

 気力と相殺するようなので、使えるまで時間がかかるかもしれない。

 ちなみに、近くの地上に出ると、王都の外にある村に繋がってるらしい。

 仕事以外はこっちの方が過ごしやすそうだなぁ。


 お近づきにニンニクを渡す。


「すごい臭いね」


 エリスはしかめっ面。


「何じゃ? 初めてみる植物なのじゃ。どこで取れる?」


 お。食いつきいいな。


「これは俺の故郷から持ってきたもので、増やしたんです。今ならニールセンの畑にもありますよ」

「ふむふむ。臭いが強いな。成分も強そうじゃ」

「そうなんです。これを食べると滋養強壮に良いと言われています」

「なるほどの。これと似た臭いの草を知っておる。それの方が弱めだが、それでも生は強すぎたの。乾燥か茹でが必要じゃな?」


 植物談義に花が咲く。


 


 気づけば日も落ちてしまった。


「従魔が待ってるので、そろそろ帰りますね」

「そうか。採取以外は、ほとんどココにいるのじゃ。村からだったら従魔も来れるのじゃ」


 連れてこいってことか?


「次は連れてきますね」


 そう答えると頷いていた。


「良いなー。私も従魔欲しー」


 エリスは口を尖らせる。


「従魔は相性じゃからな。ピーちゃんおいで」


 師匠が言うと。

 カァー!とカラスがやってきて、器用に師匠の杖先に止まる。


「ピーちゃんこっちにも来ない?」


 エリスが言うと、ピーちゃんはそっぽを向く。


「エリスの場合は弱すぎじゃな。舐められているのじゃ」

「はぁー。がっくし」


 終わりが無さそうだから、そろそろ帰ろう。


「では、また今度」

「あ、王都まで一緒に行きましょう。目印も教えますので」


 2人で手を振って帰る。

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