第45話 王都観光

 とりあえず歩き出したは良いけど、道がわからんなぁ。

 従魔ギルドで見たい場所を聞いておけば良かった。

 近くの屋台で探索者ギルドを聞いてみた。


「探索者ギルドなら北門の方だよ。ギルド関係は北門側にあるからね」


 親切な男だ。

 ついでに串焼きを2本買って、食べながら歩く。

 魔ウサギとか言ってたな、シンプルな塩味だけど旨味が強い。

 魔物肉って美味しいのが多いのかね?

 ちょうど2本目を食べ終える頃に、見慣れた靴のナイフのマークが見えてきた。


 やっぱり王都のギルドはでかいんだな。

 ニールセンの3倍くらいは大きそうだ。

 中に入ってみると、受付の数が多い。

 どこに行けば良いかわからない、と思ってると声をかけられた。


「ここは初めてか? 他の街から? それとも登録?」


 若めの金髪細マッチョ男。

 整った顔立ちで自信が見える。


「他の街からきました。登録は済ませてるんですけど、受付が多くて……」

「それなら右手の受付で一度ギルド証を出すと良い。依頼は下級は1階、中級は2階は同じだ。じゃあな」


 手を振って行ってしまった。


「ありがとうございます!」


 聞こえたかな……。

 難聴系の人じゃないことを祈る。

 さっそく言われた受付に行くか。


「すみません。ニールセンから来ました。ノールです」

「受け付けます」


 ギルド証をカウンターで隠れている何かにかざすと返してくれた。

 いつも思うんだが、何をしてるのかな?


「ようこそ王都へ。9級のノールさんで合っていますね?」

「はい」

「失礼ですが、ずいぶん前に8級昇級試験の許可が出ていますよ?」


 ん? 初耳だな。


「いえ。知りませんでした。ここ最近来てなかったからかな?」

「こちらでも受けられますがどうしますか?」

「いつ頃できますか?」

「8級ならこれからでも可能ですよ」


 なんと早いことだ。

 市場をみたかったけど、早めに済ませてしまおうかな。


「ではお願いします」

「そちらの椅子でしばしお待ちください」


 後ろの椅子を指される。

 座って5分もすると、試験監らしき人がやってきた。


「待たせたな。北門から森に向かって、動きをみる。今日中に問題なく薬草3種を拾えれば合格だぁ」


 たてがみがもっさりしてる。

 獅子人族かな? 初めて会ったかも。


「今日初めて王都に来たので、森の方向がわかりません」

「そうか……。森は門出たら見えるし、俺も行くから問題はない。しかし、来て初日に試験かよ。やめとくかぁ?」

「んー。知ってる人がいるなら、試験代払ってもお得なのかな?受けておきます」

「そういう考えもありかぁ。基本口出しはしない。ギブアップなら言ってくれぃ」


 北門を出ると、奥に森が見えた。

 1時間かからずに到着したので近かった方かな?

 この森に着いてすぐに分かったが、人に管理された森だな。

 森の手前の草場を触ってみると、あちこち手入れがされている。

 心配なく森に入るとすぐに魔物の気配がある。

 一足飛びに木に登り、監督と様子を見ると、スモールスネークだった。他にもコッコ、フォレストモールなど基本無害なものばかり。

 一応、敵対しそうな反応はいくつかあるが、縄張りや風向きを見るだけで簡単に躱せる奴だ。

 俺の知る薬草もたくさんあったが、試験通り良くある3種だけ取ってくる。


 帰り道で気になったことを監督に話してみる。


「王都の森ってどこもあんなに安全なんですか?」

「ほんとは試験終わるまで言わないんだが、お前は良いだろう。あの森は特別でなぁ」


 昔はあの森で死者がいっぱい出ていたらしい。それでも、ここらでは一番危険度が低かった。だが、森に行ける人材が全く育たないので、兵士も巻き込んで整備したと言う。

 探索者の8級も王都レベルが基準なので、他の街は少し厳しいくらいなんだとさ。他国も同様だと言っている。


「俺は、バートってんだぁ。6級の探索者だぁ。よろしく」


 戻ったらすぐに合格を貰えた。

 これで俺も8級だな。


「ノールよぅ。今度俺のパーティーと遺跡行ってみようやぁ」

「俺はまだ8級ですよ? 迷惑じゃありませんか?」

「邪魔にならないと思ったから誘ってるんだぁ。知らない奴と初遺跡よりはマシだろう」

「そうですね。では、お願いします」

「1週間程、他の依頼があるから、早くてその後だなぁ」

「では、その位にギルドに来ますね」

「今日と同じくらいの時間にいてくれぃ。じゃあなー」


 去り際もあっさりしていて付き合いやすい人だな。

 それを見ていた受付が話しかけてきた。


「良かったですね。王都の結構有名なパーティーの人なんですよ」


 なるほどなって感じ。


「やっぱりそうですよね。とても良い動きしてましたもんね」


 話している時にふと思い出した。

 薬の調合を知りたいんだった。

 薬師ギルドはやっぱり上街だったので、せめて薬屋で完成品を見てみよう。


「すみません。薬屋ってどこにありますか?」


 ……

 …………


 王都南側の中央あたりに綺麗な建物がある。

 この近辺は街並みも綺麗だけど、ここはガラスをふんだんに使っていて、警備員も多い。


「ここが王都1番の薬屋か」


 大きな扉を開けて入る。


「「いらっしゃいませ」」


 うお!

 店で待ち受けられるとデジャブが……。

 軽く会釈して歩いて行く。

 中はかなり広いな。

 陳列棚に丁寧に並べられていて見やすい。

 ガラスケースに入ってるのは高級品かな?

 いくらだろう……大金貨8枚!?

 見たこともないよ。

 陳列棚の方は、安くても金貨1枚かぁ。

 買える人少ないんじゃないか?

 とか思ってると話しかけられた。


「何かお探しでしょうか?」


 中肉中背のカイゼル髭、ちょっと成金っぽい。


「いえ。薬草を取ってるものでして。完成品を見ておきたかったんです」

「ほほう。よろしければ薬草を見せていただいても?」


 店の人かな?


「失礼かと思いますが、こちらの店員の方ですか?」

「これは申し遅れました。一応この店の店主を勤めています」

 

 店主だったか。

 それならばと奥に案内され、薬草を見せる。


「なるほど、この位の薬草ですと我が店では扱っていませんね。もう少し高級な薬草なら買取できるのですが」

 

 そうだろうなとは思ってた。


「私も先ほどそう思いました。念の為と思ってのことです。ご迷惑おかけしました」


 丁寧に返すと驚いていた。

 あまり丁寧に話す売主はいないのか、それなりに好印象だったようだ。

 帰りに小指の先ほどのビンに金1の薬を入れて譲ってもらった。

 お礼を言って、良い薬草が取れたら来ると社交辞令を言う。


 悪い店では無いのだろうな。

 だが、これからも関わりは薄いだろうなぁ。


 



 西門の方に市場があったので巡ってみる。

 この雰囲気は好きだなぁ。

 香辛料も色々見つけたが、やっぱり名前がわからん。

 今までもそれっぽい名前を当てつけていたが、もしかしたら違うのかな?

 クミンやオールスパイス系の香りなんだが……。

 色々呼び方はあるけど、聞いてみるとどれとも違う。

 香辛料で使うから問題無いんだけどね。

 ハーブ類も豊富にある。

 ロールというハーブがローズマリーと似ていた。

 良くみると俺が持ってる薬草を置いてる出店もあった。

 薬屋が買いに来ることもあるとか、他にも薬屋あるのか?

 訪ねてみると、わざわざ南側に行かなくても北側にあったらしい。

 受付さん……。


 

 


 北側の薬屋に到着。

 建物が古くて蔦が絡まってる。

 ここまで古めかしくする必要も無いと思うんだけどね。

 店内に入ると薬草の匂いが漂ってくる。


「ぃらっしゃい」


 ひぇ! 妖怪!

 机に突っ伏してるし!

 完全に髪で顔が隠れているし!

 変なモヤかかってるし!

 怪しすぎだろ!?


「好きに見てって」


 静かに頷く。


 ふむふむ。

 一番安いので大銅貨2枚ね。

 あっ。これ胃薬じゃないか?

 何の薬かもはっきり書いてあるし、わかりやすくて良いね。

 一番高いのが銀貨3枚『下級ポーション』。

 ポーションってなんだ?


 色々見て回ってると、店主が起き出した。


「ふぃー。二日酔い辛いわぁ」


 そう言って小瓶を飲み干した。


 んー。角生えてるから、サグの同族かな?

 とりあえず、そのモヤやめろや。


「んー。お客さん買い物?」


 さっきも似たようなこと聞かれたな。前の薬屋と同じことを返すと、同じパターンに入った。


「この薬草買うよー。綺麗に処理してあるから、全部で銀2枚ね。はい」


 そう言いながら渡される。

 まだ売るとは言ってないんだが、まぁいいか。


「あっちの高級店はねー。魔法薬しか扱ってないから高いのよ。ポーションよポーション」


 なんとポーションというのが魔法薬という。魔力有りの薬草が高価だから、自然と値段も上がってしまうらしい。最高級品になると病気から手足の欠損まで直すとか。

 ほとんど出回らないらしいけどな。

 俺も調合したいなーと、チラチラ言ってみる。


「あたしは作ってないから教えられないよ?」


 お前できねーのかよ!? ただの店主か!

 思わせぶりな格好とかしてるなよ!

 思いっきり魔女じゃねーか!


「この服?あたしの趣味よー」


 何このガッカリ感。


「でも、今度作ってる奴に聞いても良いわよー?」


 ここで流れが変わった。


「3日後くらいにまた来てみてー」


 あまり期待せずに待つか。

 そろそろ戻ろう。

 どこにって厩舎だ。

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