第20話 探索者生活開始と昇級

 探索者生活を始めて、早めに10級に上がった。11級はどぶさらいや草むしりなどがほとんどで、人当たりさえ問題無ければ、すぐに上がるようになってたらしい。

 街の近場に生えている植物の採取が主な依頼で、取り方が綺麗だと褒められた。ただ薬草の生えてる場所はかなり危険状態だ。手を加えてやらないと街の近場は数年後に全滅だな。

 そんなある日、宿の生活に耐えられなくなった。悪い宿では無いのだろうが、朝晩五月蝿くて気疲れしてしまう。結局引き払って野宿してたのだが、街中にちょっと良い場所を見つけたのだ。スラム街の端っこに教会付属の孤児院があって、その土地の端に、低めの木々が生えたのスペースがあるんだ。

 教会のシスターに頼んだら良い返事が貰えて、小さめの小屋を建てて住んでいる。もちろん離れる時は、この小屋は教会の物だ。

 そんな日にセルジオ氏から9級への昇級試験の話が来た。


「ノール氏に昇級試験の打診が来ました」

「え。早すぎませんか? 2週間前に上がったばかりなのに」

「もちろん早いほうですが、採取物の鮮度が良く、多くの依頼主から昇級の希望があった為です」

「上げてくれるなら別に良いですけど……」



 最近では、俺とセルジオ氏は少し目立っている。俺の依頼達成量も多いが、セルジオ氏がカウンターから動く量も増えた為だ。そこでセルジオ氏が有名人だと知った。


(もう昇級ですって、セルジオさん初めて大物拾ったのかしら?)

(いやいや、この程度ならまだわからないわよ)


 と俺が依頼の受注と報告する度に、受付嬢がコソコソ話するものだから、周りの探索者にも知られてしまった。


「それで昇級試験はいつですか?」

「まだ9級なので、午後には出来ますよ。試験内容は模擬試合と監督付きの北の森の採取です」

「あっ。森行けるのは嬉しいかも。じゃあ午後に来ますね」

「3の鐘がなったら来てください。お待ちしています」


 街に来てわかったのが、鐘の音。時間を教えてくれるが、結構アバウトだ。

 日が登ったら鐘が1回、日が半分登ったら鐘が2回、登り切ったら鐘が3回、半分落ちたら鐘が4回、沈んだら鐘が5回。


 一度教会に戻るか。


「兄ちゃん今日はシゴトしないの?」


 孤児院の子供たちが寄ってきた。


「午後から昇級試験なんだ。それよりちゃんと畑は面倒みたのか?」

「あったりまえだ! オレらのショクタクにイドドリを増やすんだ」

「ちがうよトールちゃん。イドドリじゃなくてイロドリだって」

「そんなこと良いんだよ! それより、兄ちゃんの薬草はまだダメなのかー?」


 街の外の薬草場がまずそうなので、小屋の近くで増やしてるんだ。それを孤児院の畑でも育てたいと、子供たちが言ってきたんだ。


「あと1ヶ月くらいしないと増やせないかな。ちゃんと渡すから待ってな」


 飯を食って、少し休んだところで鐘がなったので、ギルドへ向かう。


「セルジオさん来ましたよ」

「では地下の訓練場へ」


 訓練場なんて始めてきたな。というかそこそこ人もいるんだけど・・。


「今日の受験者は5人だ。みんなそこにある武器で好きなの選べ」


 明らかに30人以上いるし、静かにしてよう。


(セルジオ。お前が言ってたのはどれだ)

(あそこの頭にタオル巻いてる男ですよ)

(気配は薄いから、斥候か狩人か。年齢は高めに見えるがな)


 セルジオさんの隣にいるおっさん。めっちゃ見てくるんだけど・・・。


「では最初の、えーとトーマス!」

「はい」


 みんな若いな。剣ばっかり使ってるじゃん。棒は……無いか。じゃあナイフかなぁ。解体用しか使ったことないんだけど……。試験監、強そうだなー。


「次! ノール!」

「え。はい!」

「では始め!」


 よく考えたらどうしたら合格か知らないじゃん。


「攻めて来ないならこちらから行くぞ!」


 体の横を風切り音が通り過ぎる。

 とりあえず、こっちは小さいナイフだから全部いなしてしまおう。


 斜め切り。歩法でずらす。

 突き。ナイフで軌道を反らす。

 回転が上がってきた!

(なんだこいつ。剣が滑るように当たらない。これ以上は無駄だな)


「それまで!」

「ふいー。ありがとうございました!」


(セルジオ。あいつ武術の経験は?)

(田舎出身者は確認しないと決めたのギルド長ですよ)

(避けと逃げは一級品。戦えなくても使えそうだ)


 森の採取は簡単だった。と言っても知ってる薬草の採取だしな。ついでに森の採取物と魔物のレクチャーをしていたので、それがメインだろう。


「今回は全員合格だ。落ちられても困る内容だが、良かったな」

「ノールさん、このあと時間ありますか?」


 受験してた子の……キルヒ君だったかな。


「大丈夫だけど。どうかした?」

「いえ。全員合格だからみんなで夕食どうかという話になりましてね」

「おー。良いね。あんまりお店知らないから教えて欲しいな」


 そんな話をしながら打ち上げをする。


 下町のスラム近くにこんな良い店があったとは知らなかった。立地柄価格が安くなる割りに、元探索者の店だから俺たちには治安が良いそうだ。

 各自の自己紹介をして教えてもらった。


 キルヒ

 人族の男性で15歳。話しかけてくれた子だ。ずっと探索者の見習いをしていたようで、俺より昇級は早い。と言っても10歳位から見習いだったらしく、11級レベルをこなしながら色々先輩に聞いてたらしい。魔術師の才能があるようで、簡単な術を使えるらしい。魔術とかファンタジー胸熱だな。今度見せてくれ。

 テンコ

 猫人族の女性で同じく15歳。キルヒの幼馴染で同じように見習いしていたみたい。猫族との違いは、見た目がどれだけ人族に近いかどうか。人族をベースに体の一部にその種族の特徴が現れているらしい。バランス感覚が良く、素早い動きが得意なようだ。

 トーマス・フロン

 猿人族の男性で18歳。人族と同じように見える。実質同じらしく、差別もほとんど無いらしい。昔ご先祖様が猿の神様に助けられたことがあって、それを忘れない為にその家系は自ら名乗ってるそうだ。なんと、彼の親は騎士爵で代々受け継いでいるらしい。本人も剣と盾は、少し自信があると言っていた。

 ノーリ・イホフリン

 ドワーフ族の男性で34歳。背は低いが髭を蓄えがっしりした体つきをしている。この街に来た理由は、ほとんど俺と同じだ。色んな武器を見たくて、故郷を出てきたと話していた。ドワーフも長命で、彼のひい祖父が500歳を超えたらしい。彼の話では装備に詳しいらしいので、今度見繕ってもらおうかな。


 それなりに仲良くなって解散となったが、ノーリが今度話をしたいと言ってきた。時間がある時なら良いかと、スラムの孤児院に住み着いてることを教えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る