第17話 旅立ちと道中

 拠点にあった売れそうな物は、タルポから買った樽と麻袋に詰め込んだ。森がまばらになった先に牛車が用意してあるので、そこまで運ぶのが大変だ。何回か往復して準備も出来た。あとは出発するだけ。


 村に最後の挨拶をしにいくと、みんなが待っていた。


「わざわざ見送りまでしてくれて……」ちょこっと旅するつもりだったけど、なんか嬉しいな。


「あんたには色々世話になったからな。本当は見送りしたい奴がもっと多かったんじゃよ? 迷惑だからと追い払っておいたわい」


 あんまり目線が多いと恥ずかしいので助かった。ヤギさんありがとう。


「さて、出発直前で荷が増えるのは申し訳ないが、これを渡しておく」


 そう言って、村長が瓢箪ひょうたんを渡してくる。


「これは、私たちの種族だけが作れる水筒だ。持っていればそのうち役立つかもしれない。あと、軽い口はしていないと思うが、この村のことは他言しないようにね」


 皮の水筒はヘタレてきたから助かる。


「村のことは気をつけておくよ。みんなありがとう! 行ってくる」


 さぁ、出発だ!




 牛車での移動はゆっくりだが、森の外は初めてなので楽しい。ただ、それだけでなく、以前聞いた街注意点以外にも話があった。


「街に住む人族の中には、高い階級を持つ人がいます。彼らは自分たちを貴族と名乗り、階級が下の者たちにある程度の命令権を持っています」


 王を頂点として、王族、貴族、平民、流民がいるらしい。それらの中にも序列があって細かく教えてくれた。王から貴族までは、あまり関わらないようにしておこう。


「平民との関わりが多いと思いますが、我々は流民の部類に入るので、暴言を言われたら早めに逃げた方が良いですよ」


 この国は多種族だが、人族がほとんどを占めているらしい。獣人族でも見た目が人に近い者は、階級も高く、動物に近くなるほど階級が低い者が増えるらしい。そういったこともあり『毛無し』など呼ばれていたんだな。


 村までの道中は、何事も無くタルポ先生の街授業がはかどった。時折草むらから飛んでくる視線は・・・ウサギ族だろう。村に到着する直前、草むらに寄って果物を人数分置いてきた。狩りの練習だろうが、ちゃんと栄養は必要だぞ!


 途中村はあと1つあるが、タルポとはここでお別れだ。俺の売り物も売ってかなり減らした。街で売るには商業券が必要らしいので、この先で残りも売り払おう。

 次の街へ行く乗合馬車に乗り換え、また進みを繰り返す。


「初顔だな。俺はこの村で農業やってんだ。兄さんはどこから来たんで?」

「東の山村から来たんだ。この年になって村の外を見たくなってね」

「そりゃ良いね。街は人が多いから新鮮に感じるだろうさ。クラスが良ければ街でも良い生活出来るしな」


初めての単語が出てきたぞ。


「ん? クラスって何だ?」

「何言ってんだよ。人族なら神人しんじん教会でクラスを聞けるだろう」

「知らないな? 獣人族はダメなのか?」

「そうとう田舎から来たのか? いっちょ教えてやろう」


 神人教会とは、最初に人族が作られ神性を得ているという考えの宗教だ。人族を優遇しているが、クラスを与えられるのも人族だけなので、差別意識が出来たようだ。

 説明した男もクラスは得られなかったが、長男が木工のクラスを貰って生活が良くなったと言っている。10歳を超えると洗礼が受けられる為、クラスを貰いに来ない人は初めて聞いたそうだ。俺が持ってないのは、よほどの田舎に見えたのだろう。


「今回は長女の洗礼だな。無くても生きていけるが、良いのが貰えればと思ってな」


その長女は、「あたしが父ちゃんを養うんだ。ふふん」と胸を張っている。


「良いのがもらえると良いな。俺も落ち着いたら行ってみるか」


 そんな話もまじえつつ、20日程で街に到着した。


_______________


 ウサギ族の護衛


「あの薬人やくじん。感覚が鋭すぎないか? 気づいてるよね」


 数年前から、村に馴染んだ高橋のことを『毛無し』と蔑むのはやめようという話になり、薬の人から『薬人』と呼ぶようになった。


「俺らだって潜伏のプロだぞ? そんなすぐに見つからないはずだ」



 ◆


 

「寝る前に必ず挨拶してくるよな……。安全の為に来たと思ったんだが」

「馬車の安全を守るのが仕事だ。害獣対策の意味もある!」



 ◆



「薬人が何か投げたぞ!?」

「あれは……。アタックボアじゃないか!」

「ボアがのたうち回っている!? あんなことも出来たのか!」

「俺らより早く見つけてるし……」



 ◆


 

「やっと到着か……。今回は役に立った気がしないな」

「おい! 薬人が来たぞ!? かくれろ」

「あー。なんか体がカタイナー。伸びシヨー。おっといけない」


ガサッと鳴り、草むらに何かが落ちてきた。


「クダモノ落としちゃったー。落ちたらしょーがないー」


それだけ言うと、ふらふらと戻って行った。


「あんな大根芝居初めて見たぞ……」

「お前ら。帰ったら訓練厳しくするからな!」

「「「「「はい!」」」」」

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