猫?によるにゃんだふる☆でいず
わたしはさくら。
おでこに桜の花びらみたいな模様がある猫!
おねぇちゃんはももちゃん!
小学校1年生の女の子!
ある夏の日、わたしはももちゃんに助けられて病院へ行った。
脚が痛くて痛くて、公園でうずくまっていたのをももちゃんが気づいてくれたの。
ぎゅっと抱き締めて、
「だいじょうぶ、わたしがなんとかしてあげる」
って言ってくれたのを覚えてる。
白いふわふわで脚をぐるぐるして、
「よし!おうちへ帰ろう!」
と、今度はふわっと抱き締めてくれた。
わたしは長い尻尾をゆらゆらさせて、ももちゃんに抱かれていた。これからこの子と、ずっと一緒なんだ!そう思っていたとき。
横から車が突っ込んできた
突然、ドンッってかたいものがぶつかってきた。目をぎゅっとつむって、開いたらももちゃんが同じように目をつむってた。
わたしはももちゃんを呼んだ。
「にゃあ?(だいじょうぶ?)」
ももちゃんは返事をしなかった。
わたしはもう一度呼んだ。
「にゃぁ?(ももちゃん?)」
ももちゃんの目は、二度と開かれることはなかった。
暑い暑いある夏の日。
小学校1年生の夏休み最後の日。
明日から2学期が始まる、8月31日。
わたしとももちゃんが出会って、お別れした日。
家にあるももちゃんのランドセルには、終わった夏休みの宿題が収まっていた。
わたしがぱぱとままに出会ったのは、冷たくかたくなったももちゃんがお花いっぱいの箱で眠っているときだった。
ももちゃんのそばでわんわん泣く大きな人がふたり。
この人たちがももちゃんの、これからわたしのになる、ぱぱとままだった。
どうしてももが
こんなに小さいのに
返して
酷すぎる
ももちゃんとわたしにぶつかった車に乗っていたのは、まだ若い男の人。気の良さそうな人で、ぱぱとままに「本当に申し訳ない」と頭を下げて何度も謝っていた。
だから、二人も本気で怒ることはできなくて、もう過ぎたことだからって諦めちゃった。
でも、本当は全然納得できてなくて、悔しくて。
悲しくて、でもそのどれもを誰かにぶつけることはできなかった。二人とも、とっても優しい人だから。
猫のわたしは人の世界のことなんてわかんないけど。でも、おかしいと思った。変だと思った。
道路でぶつかった車に乗っていたの男の人は、お酒臭かった。
飲酒運転だった。
何時間も何時間もももちゃんだったものの側から二人は離れられずに、ずっと泣いていた。
あんまりにかわいそうだったから、わたしは二人に声をかけた。
「にゃあ(ぱぱ、まま)」
二人はわたしに気づいて、泣きながら笑ってくれた。
「どうしたんだい?小さな猫ちゃん」
「にゃ…にゃ…」
「ん?」
「にゃかにゃいで(泣かないで)」
二人は目をまんまるにしてビックリしてた。
それからわたしは、ももちゃんの箱の側で二人に何があったのかを話した。
(なんで猫が話せるようになったのかを気にする人は、そこにはいなかった)
わたしとももちゃんの出会いと、出会ったきっかけ。
名前のこと。
これから、家族になろうって言ってたこと。
それと…
ぶつかってきた車に乗ってたひと、嫌いってこと。
だって、わたしからももちゃんをうばった。
ももちゃんと過ごすはずだった時間をぜんぶうばった!
猫の一生は人よりすっごく短いよ。だから、だいじにだいじに遊んで食べて寝るの。
なのに!なのになのに!!
わたしからももおねぇちゃんをうばったの!
わたしにくれるはずだったももちゃんの笑顔を全部!全部全部、うばって!
「申し訳ない」の一言で終わらせた!!!
わたし、あの人嫌い!だいっっっきらい!!
わたしは白い体と長い尻尾、高い声を全力でくしして伝えた。
始め泣いていたぱぱとままは、いつのまにか笑ってた。
「ももはもういないけど、家族になろう」
「もものかわいい妹ちゃん、これからよろしくね」
ももちゃんはその後、真っ赤な炎の中に消えていった。
外に出て、お空に高く高くのぼっていく煙を見た。
わたしがぱぱとままに出会った日だった。
がっこうへいった。
ももちゃんが楽しみにしていたがっこう。
二学期の一日目をむかえられなかったももちゃん。
わたしは高い木によじよじして、ももちゃんのくらすを見た。
みんな、暗いかおをしてた。
一個だけ、台の上にお花がかざってあった。
いなくなった人の机にはお花をかざるんだって。
たくさんのお花の中に、本物じゃないお花が混じってた。
今はもう咲いてない、「桃の花」。
ももちゃんの机だった。
おへやの中では大人の人が一人黒い板の前で腕を上げてた。他の子たちはいすに座って静かにしてた。
わたしはそぉっとおへやに忍びこんだ。
いすに座った。
大人の人が気づいた。
その人はくちを少しだけゆるませて、なにも見てないふりをした。
その時間、わたしずっとももちゃんのいすに座ってた。
キンコンカンコン、音がなった。
みんな、立ち上がった。
わたしも、立ち上がった。
「猫がいる!!」
気づかれた。
男の子が言った。「そこはももの机だぞ!」
女の子が言った。「ももちゃんの席からどいて!」
みんな泣いてた。
ぱぱとままとおんなじ涙だった。
みんな、ももちゃんがいなくて泣いてる。
大人の人が言った。
「この子はももの妹さんだよ。先日ご両親が話してくれた。最期の時も一緒だったそうだ」
みんなが叫んだ。
「「でも猫だよ!」」
わたしも叫んだ。
「シャーーー!」
なんか変だったけど、みんなの気持ちはなんとなく伝わってきた。きがする。
みんなさみしいんだ。
お友だちが急にいなくなってさみしいんだ。
そうかそうか。
にゃらば、わたしが一毛玉吐いてやろう。
(人の場合は一肌脱ぐとも言う)
わたしは黒い板の前の机に飛び乗った。
「わたし、ももちゃんのいもぉと!
にゃまえはしゃきゅりゃ…にゃにゃにゃ!
にゃまえはさくら!」
まだうまく回らない舌で宣言する。
「ももちゃん、がっこぉ楽しみにしてた。すっごく。
だから、わたしがかわりにくる」
ももちゃんはがっこうへ行ってみんなと会えるのをすっごく楽しみにしてた。
みんなと大きくなるのを楽しみにしてた。
でも、ももちゃんはもういない。
だから、わたしがももちゃんの代わりにがっこうへ行く!
ももちゃんの分までおべんきょする!
それで、立派な猫ににゃる!
学校と猫は関係なかった。
大人の人がみんなに言った。その顔は満足そうでいて、楽しくてたまらないっていうかおをしてた。
「みんな、この子は今日からこのクラスの一員になる友だちだ。猫だけどね。
ももはもう二度と一緒に授業を受けることはできない。
…ももは死んだんだ。
でもね。あの子が遺していったものがある。
あの事故で消えるはずだった小さな命だよ。
ももは立派にこの子を守ったんだ。
友だちとして誇るべきことだ」
みんな静かに聞いていた。
わたしはちょっとあくびをしていた。
「僕はこの猫をクラスメイトとして新たに迎えようと思う。ももの代わりじゃなくて、新入生だ。」
しんにゅうせい
後日、侵入生として語りつがれる猫小学生のたんじょうだった。
みんなやっとももちゃんのことを受け入れられそうだった。
一人の女の子が言った。
「さくらちゃん、これからよろしくね!」
ももちゃんの笑顔を思い出すような笑顔だった。
その子は、ももちゃんの親友だった。
次の日、ももちゃんのお花がかざられた机はかたづけられ、ダンボールとぼうさいずきんがおへやのすみに置かれていた。
「おはようございまーす!」
元気なあいさつがおへやにひびく。
「にゃにゃにゃー!」
子どもたちの声に混じって元気な猫の声がおへやにひびく。
わたしとみんなが出会った日。
わたしがあの小学校に新入生として通い始めたのは、まだ暑さの残る九月のこと。
あれから卒業までだいたい六年間。
秋には運動会。かけっこでは負け知らず。
でも、水泳の授業では浮き輪を持参。
クリスマスはわたしの家にみんなを招いて毎年パーティーをした。
パパとママの作るケーキはたまらない。
にゃにゃ。その前にハロウィンがあったか。
わたしは黒猫の仮装をして、魔女の仮装をする女の子の足下でポーズをとった。
新年、干支には猫がいないということで、寅年の年賀状には虎模様のメイクをしたわたしの写真がクラス中で使われた。
二月、ももちゃんの誕生日。
家には溢れる位の桃の花が届けられた。
三月、桜の花が咲く時期。
みんなで昼間公園に行って、お花見をした。
八月三十一日、ももちゃんが亡くなった日。
あの道路にお花を供える。
六年間先生もクラスメイトも変わることなく、わたしはずっと出席番号22番のままだった。
いっぱい遊んだ。
いっぱい勉強した。
ももちゃんの分まで。わたし自身の分まで。
みんなと一緒に過ごした六年間。
どれだけ大きくなったかな?
どれだけ大人になったかな?
六年生、最後の日。
わたしたちは胸に花を咲かせて、それぞれの道を歩いて生きます。
わたしは猫。みんなは人。
おんなじ道はひとつだってない。
猫と人であったら尚更違う。
でも、きっとまたいつか、あえるって信じてる!にゃ!
卒業式の日、順番に名前が呼ばれていく。
六年間ずっと聞いていた先生の声に、安心してみんな元気よく返事を返していく。
次はわたしの番。
「22番、さくら」
「にゃい!」
桜の花が舞い散る卒業の日。
保護者席ではパパとママがももちゃんの遺影を持って座ってる。
卒業証書は手に添えるだけ。
これは、わたしとももちゃんのふたり分の証書。
みんな笑顔で旅立っていく。
そして、いつかみんなで集まって、また笑うんだ。
涙と笑顔が交ざる、卒業の日。
ある秋の日。
謎の地下通路を発見したわたしは、じっと様子を伺っていた。
なにこれ、こわい。なんか、ざくって食べられる感じがする。
わたしは全身の毛をぶわっと立たせて体を縮めていた。
すると、突然女子高生が入り口から倒れ出てきた。左腕は真っ赤に染まっている。
にゃ、違う!腕が、ない!!
それ以上に驚いたことは、その女子高生はももちゃんの親友の女の子だったってこと。
気を失っているその子に駆け寄ると、なんとか息をしているみたいだった。
ほっと安心して、通路の入り口を見ると小さな影が見えた気がした。
それから。
懐かしい声が聞こえた。
「さくらちゃん、後はよろしくね」
あの夏の日に亡くなったはずのももおねぇちゃんの声だった。
「にゃ」
わたしは知らず、涙を流していた。
ももちゃん、わたしたちまたあえるの?
それから急いで人を呼び、ももちゃんがしたようにわたしはももちゃんの親友を病院へ運んだ。
救急車が来るまで、血に濡れた顔をペロペロして拭った。
小学校を卒業してから何回も何回も春が訪れた。
わたしは、猫としては長生きをしていた。
体は少し怠かったけど、小学校のOBとして後輩の世話をちまちましてあげていた。
パパとママは、もう充分頑張ったんだからいつお休みしてもいいんだよ、って言ってくれていた。
自慢の娘だって。
パパとママも年をとった。
白髪もしわも増えたけど、優しい二人の雰囲気を更に柔らかくしていて、わたしは似合っていると思う。
もうすぐお別れのとき。
わたしは、パパとママに出会えてすっごくすっごく、すっごーーーく。幸せだよって最期の日に甘えながら伝えた。
伝わってるといいな。
それと、もうひとつ。
わたし、みんなと同窓会を開くんだよ、って。
また、みんなと会えるんだよ、って。
小学校の時のクラスメイトは、なぜか早死にしてしまっている。
今じゃ半分くらいしか残ってないかな?
でもあの日、わたしたちは約束をした。
同窓会の案内状が届いたら、あの場所で待ってる。
みんなが、まってる。
そう言って、わたしは体の力をくたりと抜いた。
眠りに沈む最期のその瞬間に、パパとママが頭を撫でて
「ありがとう、さくら」
と言った気がした。
先に逝くね。パパ、ママ。
お休みにゃー…
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