卒業式②
「生徒と保護者は体育館に移動するか帰宅してください」
教頭先生が指示を出す。
きっとみんなは指示に従っているんだろう。
救急車のサイレンの音がした。
目の前は血の海。
その血の持ち主は自分が恋をしている相手。
救急車に運び込まれる彼女の姿を見ると胸が苦しくなった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「稲崎くん!?」
南川先生が背中をさすってくれる。
先生も泣いているみたいだった。
「保健室行こうか。立てれる?」
俺は保健室に連れて行かれた。
しばらくして呼吸は落ち着いたが身体の震えが止まらない。
血まみれの霧倉の姿が頭から離れない。
「ずっとあそこで見ていたの?」
黙っていたが先生は察したらしい。
「あれはトラウマになるわ」
先生はそう言った。
「全部俺が悪い…」
無意識のうちにそんなことを言っていた。
先生は黙ってしまった。
「南川先生」
校長先生に呼ばれて南川先生は出て行った。
明日からどんな日々が待っているのだろうか。
彼女は意識を取り戻すのだろうか。
死なないでほしい。
だけど今日こんなことになってしまったのは俺のせいだ。
そう思うと悔しくて涙が止まらなかった。
南川先生が戻ってきた。
「ごめん」
先生の顔を見ると大粒の涙が大量に垂れていた。
「霧倉さん…」
嫌な予感がした。
「亡くなったって」
地獄に落ちた気分になった。
「ごめんなさい俺のせいです。ごめんなさい。ごめんなさい。」
俺は泣きながらそう言うことしかできなかった。
保育園、小学校、中学校すべて一緒。
奇跡的にクラスも一度も離れたことがなかった。
だけど話したことはほとんどなかった。
好きになってからも話しかける勇気が出なかった。
「守れなかった私も悪い」
南川先生が小さな声で呟いた。
家に帰ってからはゲームをする気になれずずっと横になってぼーっとしていた。
夕方頃、川原から電話がかかってきたが出る気になれなかった。
夕食時、ニュースで今日の出来事が報道されていた。
母さんは何も言わずにただご飯を食べ進めた。
弟は
「これ兄ちゃんの学校やん!」
と言ってきた。
小学3年生にはニュースの内容が分からないのだろう。
「すごい!ニュースに出てる!」
弟だけは楽しそうだった。
ご飯もいつもの6〜7割しか食べれなかった。
ご飯の後、ツイッターで“桜が光中学校”と検索した。
「いじめかなぁ。けど卒業式にこんな事故は気の毒やなぁ。」
「卒業式の日に自殺しないといけなかった理由は?いじめあったんじゃないの?徹底的に追及すべき!」
「桜が光中学校の関係者は全員○刑にすべき。」
まだ転落死としか報道されていなかったが自殺を疑う人が大半だった。
まだ15だけどもう死にたい。
霧倉を殺したのは自分だ。
捕まって死刑になってほしい。
できるなら霧倉に会いたい。
小学1年生の頃に戻れないかな。
霧倉のこと考えていたらこんなことにならなかったよな。
霧倉のLINEにスタンプを送ったけど既読はつかない。
本当に生きてないんだ。
2022年3月11日。俺の青春は終わった。
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