二階の男

tori tori

第1話 見知らぬ男

私は一人、古い一軒家に住んでいた。

外観もさることながら、家の中は更に酷いものである。

歩くと、きしむ床。

壁には黒カビ。

二階に続く階段は暗くて、何かが出てきそうな恐ろしさである。

この辺りは、家もないド田舎で、勿論街灯なんてないから夜は真っ暗闇である。

私はたまに、ここから暫く歩いた所にある農家の畑の手伝いをして、いくらかのバイト代を頂き、生活している。

本業は作家であるが、全く売れていない。

しかし、住めば都である。このおんぼろ屋も慣れればなかなか風情がある。

昭和生まれの売れない作家にぴったりの家じゃないか。

それに、必要最低限の暮らしって言うのも悪くはない。

しかし、この悠々自適な暮らしも、長くは続かなかったのである。

見知らぬ男がある日突然、この家の二階に住み着いたのである。

その男は一向に、出ていく気配もなく、私はどうしたものかと困り果ててしまった。

しかも男ときたら、一日中家におり、働いている気配もなく、図々しくも冷蔵庫や鍋の中の食料を勝手につまみ食いする有様である。

男を注意しても悪びれた様子も、出ていく素振りすらない。

元々私は神経質な男である。だからずっと一人なのだ。

この男との妙な共同生活のストレスからか、最近食欲もなくあまり眠れていない。

もう我慢の限界だとばかりに私は、男のいる二階に上がって行った。

私もここに来て数年、畑仕事を手伝ってきた為か、随分逞しくなった。腕なんて前よりもずっと筋肉が付いたし、夏の日差しのせいで男らしく焼けている。

其れに比べて男は、見るからに軟弱そうな体つきだった。

仮に殴り合いになったとて、私も馬鹿ではない。勝てない喧嘩をするつもりもない。あの男には勝てる自信があったのだ。

私は勢いよく二階の部屋の扉を開けた。


            (続く)

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