短期バイト

浦上 とも

第1話 世界パンデミック

不幸中の不幸とは、こういうことを言うのだろう。


昨年十二月末を持って、十年勤めていた会社を辞めた。

理由?

まぁ、よくある人間関係ってやつ。

詳細はよしとこう。

思い出したくもない。


昨年十二月。そう。

世の中はクリスマス。

平和なお正月。

ソーシャルディスタンス?

そんな言葉がまだ出回る前。


金融市場界隈では、すでに中国で新型のウィルスが話題に上がりつつあったが、まだまだ特段、材料視もされない小さなニュースだった。


それが一年経った今ではこうだ。

以降の人類史に必ず残るであろう

全世界パンデミック。


経済は止まった。

いや、止めたか?

どちらでも良いか。


会社を辞めた俺は、極度の人間不信からか

外に出なかった。

人と逢うのが億劫だった。

全てがめんどうだった。

……生きるのさえも。



しかし、人はお金がないと

生きていけない縛りを作り上げた。


死んでもいいや。

もう、疲れたな。

……おなか空いたなぁ。


生きる目標がなくとも

お腹は空く。


脳が生きることを否定しても

腸は、生きるための栄養を求めるのだ。


腸が第二の脳。

そんな話も聞いたことあるな。


なんて思いながらバイトを探す。

三十路でバイトかよ……。

大丈夫なのか俺は。


言い表せない不安と

街の超不景気がなんだろう

心地よい。




ポチポチとバイトを探す。

派遣派遣派遣……。

なんだよ日本……。


スマホを閉じようとしたところだった。


《年末年始短期バイト》

年賀状区分け。


高校生バイトデビューにおすすめ!


はは、こんなんからでいいや。


さすがに深夜勤を選択。

昼はガキども、頑張っとけ。



そうして、面接という形態の契約確認を終えて

深夜勤の採用が決まった。


財布の中に数千円しかない俺は

その誓約書に《長崎ながさき あゆむ》と署名したのだった。

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