異世界転生して物騒な世界になっても何もしたくない~~幼い頃からヒロインを洗脳してたらヤンデレになった

おむ●び

第一章 【始まりの村編】

第1話『俺の名はリンクス』

 基本的に何もしなかった甲斐もあってファンタジー異世界に転生出来ました。旧両親のお二人方。今、俺は楽しく異世界生活をしています。過ぎたことは過ぎたこと、俺は今を生きる人間です。過去にあったことはすべて忘れて切り替えていくことにしました。これからは勇者になるためにがんばりたいと思います。



 これはこれ、それはそれ。今の俺は田中祐介もとい、リンクスだ。


 リンクス……。家名があるわけではなく、リン=クスやLynxでもない。発音も中国語のような林楠や猞猁(Shē lì)さんでもない。


 ただのリンクス。死ぬときは気が滅入ってたから、旧両親に謝罪なんかしていたが、俺の今の新しい両親はここにいる。



 ……生まれてから五六ヶ月経つが、新しい世界での大きな情報はそれだけだ。理由はもう分かる。教えてあげます。



 そういえば、そろそろ大便がしたくなってきたな。


「だぁいィイ!!!」

 いきなり俺は大声で叫んだ。



 こうやって適当に騒ぎながら手足をジタバタとしていれば、親が勝手に駆けつけてきてオムツを交換してくれる。


 でも今日はちょっと遅いな。


「あああああああああ!!!だだだいだいだいダァあああ!!!」



「どうしたの!?リンクス!!」


 すると、ダダダダダッと足音を響かせてママが違う部屋から飛んできた。


 ああ、ホラ、来た来た。

駄目だなぁ、油断して俺を独りにしておくのは。


 

 とまあ、こんな風に俺はママに試練を与えている。

俺のみたいな物分かりの良いスーパーベイビーだと、親としての仕事が減ってしまうからな。


 …………ママ、パパ。そう、俺はまだ両親の名前を知らない。

実際「ほぅら、ママですよ~」とか「ぱぱだよー」といったことしか赤ん坊に、言えることはないのだ。ついでに、親どうしもすでにママパパ気分でいるから、お互いの名前ではもう呼び合わない。


 赤ちゃんにむかって「私は斎藤武と申します。」とかいう親はいない筈だ。



 ここは唯の赤ちゃん部屋で、本当になにもない。いや、あるにはあるが、赤ちゃんが触って喜びそうな木のおもちゃぐらいしかない。ベビーベッドのうえでゴロゴロ転がっているのが俺の趣味になった。そろそろアンパン男のプラスチックのオモチャが転がり込んできそうだ。そういや前の世界じゃ、「マン」はアウトでパーソンにしなくちゃいけないからアンパンパーソンになるんだったな。略してアンパンパン。



 生まれてから、未だに俺はベビーベッドから自力で脱出出来ずにいた。親か誰かに抱き上げてもらうとかじゃない限り脱出不可能だ。


 横に転がっても、前に前転しても、俺の目の前には巨大な木製の柵がある。


 まさに牢獄。柵の隙間から、部屋の内部をしることは出来るのだが、それ以外にできることはない。未来に勇者になるであろう俺の技は、

▶泣き叫ぶ

▶じたばた

▶這いずる

▶前転

▶横転

▶「ママ、パパ」

▶尿と大便を漏らす

▶母乳を吸い取る(連携技)


 これしかない。


 【ベビーベッドからの脱出】。無料のパソコン脱出ゲームでありそうなタイトルではあるが、今の俺に課せられた試練だ。


 まず立ち上がらなければ話にならない。


 無力。俺はなんて無力なんだ。つかまり立ちすらできないなんて……。




 そして9、10ヶ月ほど経った時、自然に立ち上がれるようになった。

その時は努力が実ったと勘違いしていたが、後に赤ちゃんは10ヶ月程度で筋力がしっかりしてくるから、立ち上がれるようになるという情報を知ることになった。


 

         *


 時は流れ、俺は5歳となった。

真昼、運命の日が訪れる。


「まま。このしちゅーおいしーね」


「うれしいわリンクス」


「お父さん、今日の夜はママに白いシチューをあげちゃおうかな~」


「あなたは早く働いてね」


「「「あはははははははははははは」」」



 いつものように、家族団らんと居間で談笑。俺はただ飯を食い、腹を満たす。日常。これを食べ終わったら、この家に遊びに来るガールフレンドと遊びながら、好感度が上がるように洗脳する作業が始まる。


 



 この時、脳裏にとてつもない電流が走った。



「……ステータス」


 不意にそう呟いた俺は、シチューの甘い香りが染みついた木のスプーンを手放した。


 何年か喋られない時期が続き、忘れていた。


  異世界に来たからにはアレをしなくてはならないッッッッ!


「ぼくといれ!」


 俺は急いで、トイレの中へ駆け込んで叫んだ。

 



 ステータスオープン!





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 田中祐介 年齢5歳

【レベル】1


【体力】1

【筋力】1

【知能】1

【精神】1

【コミュニケーション力】0


能力  《時間操作》

スキル 無

称号  無

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あぁ〜、うん」


 すごい、何か出た。いや、やはりかと言った所でもある。

異世界名物である安心と信頼のステータスオープンは気持ちが良いものだ。

ていうか名前が田中祐介のまま止まってるんだが。バグか?俺はリンクスだ。



 この表示は嬉しいことに、これは英語が中学一年レベルで止まってる俺仕様のものだった。ステータスオープンなら何とか意味が解る。......いや、解らないか。オープンは分かるが、ステータスの方は怪しい。


「にしても弱いな~」


 異世界転生したからにはステータスがカンストしていてほしかったのだが、1と0しかない……プログラミング言語かな。日常を送るのに必要最低限の能力値しかないじゃないか。コミュニケーション能力に至っては0で嬉しかった。マイナスまで付く可能性があったからな。


 そして何より嬉しく興奮したのが、能力が【時間操作】だったことだ!

これはもう最強に違いない。未来の勇者が持つに相応しいチート能力である。肝心の時間の操り方がわからないが、あの言葉を言えばどうにかなる。


「ザ・ワールド!」

 俺は叫んだ。

しかし時間が止まる気配は無い。トイレに沸いている小バエはうろうろしてる。


「ザ・ワァ~~~ルド!時よ止まれぃ!」

 と何度も同じセリフを言い続けたが、時間が止まることはなかった。



「やり方が駄目なのかなあ」


 今、俺は試されている。伝家の宝刀ザ・ワールドが駄目なら、時を止める某メイドさんの方かも知れないのだ。そういやあっちは時間の加速とか減速とかも出来たっけ……。あんなに強いのによく薄い本でやられまくってるのが不思議だ。


 能力的には某メイドさんのほうが近いが、やっぱり俺はどっちかといえば、吸血鬼のほうが良いかもな。新しいボディも手に入れてることだし。



 これは……確か、そう。世界を支配するような感覚が大事なんだった。

エンヤ婆も言っていた。


「ザ・ワールド!!!!止まれ!時よ!」

 

 一時間ぐらい気合いを込めてこの台詞だけ言い続けていると、あることに気がついた。


 声真似が上手くなったのだ。

俺ってやっぱイケボなんかなぁ……。


 妙齢五歳にして、悪役吸血鬼の声真似が出来るようになった。



 さあ。時止めは無理だったし、未来のことでも考えるか。

両親の顔面偏差値をみても俺はこの後、超絶イケメンに育つのは確実だ。

幼なじみの美少女におだてはやされながら魔術をいっぱい覚えるだろう。

ガキ共が美少女ヒロインを虐めているというシチュエーションがあったとして、そこに俺が颯爽と登場して成敗し、ヒロインを早い内から俺に惚れさせるというのもありだ。それが駄目だったら、何故か低価格で売られている奴隷の獣耳の美少女を買って助けよう。ご飯でもあげればすぐにでも俺のことを好きになるだろうからな。そうだ、ある程度年齢が上がってきたら魔術学校に行こう。多分親が金を出してくれるし、金が無いパターンだと、もしかすると親が超有名な魔術師かもしれない。親に五年間修行してもらって学校で無双するんだ。良い。良い感じだ。俺の未来が面白くなってきた。


 

 気持ちよくなったところで、トイレの扉を開けた。

目の前には無言で立つ、両親の姿があった。

ついでに遊びに来たガールフレンドもいた。

 

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