四十九日の猫

麦野 夕陽

第1話 もういない

 ──いいかい琴子、おばあちゃんの言うことをよーくお聞き。

 四十九日までは仏様は家の中にいらっしゃるんだ。目には見えないけどね。確かにそばにいるんだよ。

 だから、もしも家の外からその人の声が聞こえても決して開けてはいけないよ。”それ”は声を真似してるだけだ。開けたら”それ”が家の中に入ってきてしまうからね…


   *   *   *


 目覚ましの音でぼんやりと目を覚ました。

 びっくりして逃げないように音が小さめな物を選んだ時計のスイッチをオフにしてゆっくりと起き上がる。脳みそはまだ寝たまま、キッチンへ向かう。

 食器を手にとってカリカリフードを入れる。定位置の床に置いて、呼ぼうとしてふとリビングの棚に目をやって気付く。

 あぁ、そうか、もういないんだ、と。

 棚の上には写真が置いてある。その横には大好きだったおもちゃ。

 今置いた食器には愛らしい肉球のイラストが描いてある。

 カリカリの入った食器をまた手に取り、棚の写真の前に置いた。

 おやつの小袋をご飯の隣にひとつ。

「おやつばっかり食べないで、カリカリも食べるんだよ、むぅちゃん。」


   *   *   *


 田舎から上京して一人暮らし。もう何年経っただろうか。仕事のある朝の支度ももうルーティン化している。 

 準備も終わってもう出掛けるだけ。

「行ってくるね」

 いつもと同じ、目つきの鋭い写真の中の猫に声をかけて鞄を手にとった。

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