バンド
弱腰ペンギン
バンド
「っていうわけでェー。俺らのバンドはァー。文化祭に向けて、オリジナルソングを作ることにしましたァ!」
「「ヒュー!」」
誰が曲作るんだよ。俺か。出来ねえぞ。
「っていうことで田畑チャーン。曲よろしくー」
「出来ねえよ!」
なんだよこいつらもう少し真面目に考えろよ。
ボーカルの稲葉。セカンドボーカルの久保田。サードボーカルの布袋。
そしてそれ以外の俺、田畑ってどういうことだよ。
ボーカルしかいない『バンド』ってどういうことだよ。エアーバンドか。エアーなのか。俺は空気かコノヤロウ!
「いや出来るじゃーん!」
「やったことねえよ作曲なんて!」
っていうかオリジナルならテメェで考えて来いよ!
「いやなんか、この間、コピーバンドやった時? 作ってきたじゃん、音源」
「あれはアレンジという体のマルパクりだからな。既存曲をお前ら用に変えただけだからな!」
アレンジ系統と作曲は別物だ!
「そもそも稲葉がタンバリンで久保田がトライアングルで布袋がカスタネットってどういうこと!? なんで俺がそれ以外とかになってんの!」
それでよくウルトラソゥ! とか言えたな!
「いや、俺ら、楽器できないじゃん?」
「練習しろや」
「楽器の練習するくらいなら、歌うじゃん?」
「せめてボイトレしろやオオン?」
「そこはさ、パフォーマンス的な、ノリでオーディエンスを沸かせたいじゃん?」
「そういうのは最低限、一流の演奏が出来るようになってから考えることなんだよ。お前らはその土俵にすら立ってないんだよ」
「言うねー田畑チャーン!」
ウィーじゃねえんだよ。お前ら何回目の注意だと思ってんだよ。
「でも田畑チャーンがいてくれてホントにマジ感謝してっから。だって、田畑チャーンがいなかったら、俺たち、歌えない」
「CDすら再生すること出来ないもんな」
文化祭でバンドやりたいって言いだしたのお前らだろう。せめてCDラジカセとかそういう機械の扱いは覚えようよ!
「でもさ。みんなに盛り上がってもらえるんだか、いいじゃなーい」
「……ほぼ俺の労力じゃねえか」
そのうえでオリジナルソングとかなめてんのかこいつら。
「俺たち、音楽には真剣なんで」
「歌えよ。楽器使えよ。せめてフリくらいしろよ」
そっとCDを取り出すな。
「そのバンドはボーカルが歌ってる間にパフォーマンスしてるんだよ。ギリ『バンド』の体裁は保ってるんだよ。お前らは全員パフォーマンスしかしてねえんだよ」
まだお笑い芸人のほうがコントでバンドしてるぞ。
「そこは、ホラ?」
俺を指さすな。なんだ。俺がその他でバンドっぽいことしてるから成立してるってのか。
「じゃあ、俺、独立するわ」
「「「ちょちょちょちょちょ!」」」
「そうだよな。わかってるんだよな。俺がいなきゃバンドとして成立……今もしてねえけど、体裁も保てなくなるよな。だったら言うこと聞きなさい!」
「降りしきる雨を誰が避けることが出来るだろうか」
「久保田は日本語でしゃべりなさい!」
キャラの定まり切っていない久保田。
闇の力をうんぬんキャラ方面でいくのか、ミステリアス中二方面で行くのかブレッブレで、中途半端な中二キャラになっている。
「俺の言葉は旋律。紡がれるために生まれてきちゅ」
「……普通でいいよ」
「……うん」
久保田がちょっとだけ落ち込んでしまった。
「あのー。ホントお願いしますよー。私たち、オリジナルソング、歌いたいんですよー」
「歌いたいって言ったな布袋。お前歌うんだな?」
舞台では一番暴れまわる布袋が自信なさそうに言う。
「あ、それはそのー。はい、パフォーマンスのついでって言いますかー」
「歌うんだよな?」
お前この間ギターを振り回して火をつけたじゃねえか。それで学校からどれだけ怒られたと思ってるんだ。しかもお前ら全員逃げやがって。一番クレイジーな行動してる奴が、今度はおとなしく歌うんだよな?
「あ、圧が強いですー。圧がー」
スススと遠ざかっていくんじゃない。
「お前ら本当にやる気あんのかゴラァ!」
「「「ヒィ!」」」
今度なにかやらかしたら退学なんだぞ!
俺はお前らに巻き込まれて退学とかホントマジでないからな!
「や、やるし!」
「うん!」
「頑張るー」
三人が元気よく手を上げた。うんうん。勢いだけは本当に素晴らしいんだ。
「やるんだな?」
「「「は、はい」」」
仕方がない。頑張るか。
「ってのにあいつら遅刻とかマジありえねえ!」
あれから一週間。とりあえず形にした。雑にいろんな曲からコラってきたようなやつだから、こっから調整しなきゃなんねえけど。
今日は音楽室を借りて練習することになっていたのに来てない。
真面目な久保田すら来てない。
「帰るかー」
ぶっちゃけもうかかわらないのが一番安全だからな。受験勉強しておきたいし。卒業だけしてもその先考えないといけないしな。
よし、帰るか。
「ちょーっとまったー!」
さて、荷物は片付けたし。後は音楽室のカギを閉めよう。
「遅くなった」
なんだ。後ろの扉も空いてるじゃないか。閉めないと。
「あのー聞いてくださいー」
よし。前の扉も施錠――。
「「「マジすんませんっした」」」
「……あ?」
「ちょっとだけでいいんで、見てって欲しいんっす!」
「頼みます」
「時間はーとらせないんでー」
「いや、遅刻してるし。時間とったし。もう帰る」
「それはホントマジでごめんってば!」
放せぇ稲葉ぁ!
お前らに構ってる時間はもう無いんじゃぁ!
「な、な! 少しだけ。あと少しだけ俺たちの本気を見て欲しいんだよ!」
ッチ。
「どんくらい?」
「三分!」
カップ麺か。
「はぁ」
仕方ねえ……。少しだけ付き合ってやる。
「ねぇー。三分って言ったよねぇー!」
もう三十分待ってるんですけど!
「ごごごごごごごめんってば」
「ままままま、待ってもう少し」
「早くしてよー」
「おめえも手伝えよゴラア!」
「わぁ、暴力反対」
暴力ふるってねえよ。やったろかこいつ!
稲葉たちはアンプやらギターやらを取り出し、バンドっぽい格好を整え始めた。
と言ってもCDラジカセすらまともに扱えない奴らだ。本当に四苦八苦している。
しているんだが、ドラムはセットを組むことが出来ており、ギターもベースもちゃんと準備してきてはいる。さっさとドラムを組んだ布袋はさぼってるが。
覚えてきたんだな……。楽器の扱い。
「よし、これで」
ギターの弦をはじくと、アンプからじゃーんと音が流れた。ちゃんとセッティングできるようになったのね……。
「待たせたな!」
「本当に待ったな!」
ようやくセッティングを終えて三人が並んだ。
左から布袋、稲葉、久保田。ドラム、ギター、ベースの順番だ。
もういいんだ。せめてドラムは真ん中にしろよとか、そういうのもう突っ込まない。
「ワン、ツー、さん、しー!」
なんで最後のほう日本語なんだとかもう突っ込まない。
「さー。さーいーたー」
エレキでチューリップ引いてるとかもう突っ込まない。
ドラムが仕事してないのも突っ込まない。
「あ、ちげ」
初心者にはどの弦をはじいたらいいかなんてわかんないんだよ。それなのに一生懸命……。
「さ、最初から! もう一回な!」
チューニングだって素人だもんな。びょーんって音がしてるところあるけどもういいんだ。
こいつら、本気でトレーニングしてきたんだな。
「あぁもう! 大丈夫、俺らならやれる!」
チューリップすらまともに弾けないのにって?
はは。そんなの小さなことじゃないか。だってこいつら、電源にコンセント差し込めるようになったんだぜ?
誰でも、出来て当たり前なんかじゃないんだよ。どうしたらいいかわかんないのに手探りで調べて、ここまでこぎつけたんだよ、こいつら。
本気は、伝わったよ。
後、布袋は隣ですさまじいドラムをやるな。お前楽器出来ないんじゃなかったのか。
なんでチューリップでヘビメタアレンジのドラムやってんだよ。それだから出来ないんじゃないか、こいつら。
スティック回すな!
アピール始めるな!
「あ、ごめ。もう一回!」
「もういいよ」
何度目かのリトライを、俺は止めた。
「ちょ、出来たんだって、さっき初めて最後まで出来て——」
「わかったから。わかったって。本気なのは」
「俺たち……」
「いいよ。とりあえず俺が仮曲を作ったから。それだけ聞いて今日は解散しよう」
こいつらの曲だ。まだ仮だけど。それと。
「楽器演奏は、次の課題にしよう」
布袋以外はもうどうしようもないから。
っていうかマジで布袋なんなんだよ。出来るんじゃねえかよ。
「田畑チャーン……」
「わぁったから。ほら。スマホ出して。曲送るから」
「「「え?」」」
「ん?」
「お、俺はガラケーなんだよねー」
「俺は、そういうの持ってない」
「私、スマホは持ってないんでー」
……おい。高校生。
っていうか布袋聞き逃さなかったぞ。スマホ『は』っつったな。オメー。
「あ、近い近いー」
布袋に圧をかけてタブレットを引っこ抜いた。
俺はタブレットにデータを送ると。
「聞いて、感想をくれ。それで調節するから」
「「「あざーっす!」」」
後日、感想と共に布袋からラウドロック調になったドラムが入った音源が送られてきたが却下した。こいつホント何なの。
ちなみに、文化祭では全員が裸になり氷水にダイブするというパフォーマンスをして怒られた。
俺は他人のフリをしたが巻き込まれて停学を食らった。まぁ、次の日から秋休みだったので、ダメージはなかったが、内申点に傷はついた。ちくしょうめ。
バンド 弱腰ペンギン @kuwentorow
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