エピローグという告白



 コンビニの前で座っていると、もしかしたら来るかなと思ったら、またハイライトのおじさんがやってきた。彼は私の顔を見てから、また私の隣に座った。


「変な男に引っ掛かったか、お嬢さん」

「……そんなつもりはないんだけどなあ」

「ひどい顔だ。殴られたのか?」

「これは事故。単なる通り魔」

「その通り魔に襲われる理由になった男がいたんじゃないか?」


 おじさんはまるで確信しているかのような口ぶりだった。その顔を見る。全く覚えはない。


「……あなたは誰?」

「……俺も君のことは知らないよ、お嬢さん」

「そうね……あなたはきっと白翔くんの知り合いね」


 おじさんは私の言葉に、ただ煙を吐いた。


「俺はもう忠告はした」

「……私は忠告されたの?」

「ああ、君にはちゃんと告げた。そこから選ぶのは君だ」

「……そう、わかった。おじさん、……私、煙草嫌いよ」

「そうか。それはすまなかった」


 喫煙所に置いてあるベンチに座っている私が悪いのにおじさんは煙草を消して「じゃあ、元気でな」と言って歩いて去っていった。当然のように、去っていった。私はその背中を見送りながら、白翔くんは本当に面倒くさい、と思った。私はぼんやりと空を見ていた。

 日曜日だ。もうあと五分もしたら白翔くんがここに来るだろう。


「……私はもう忠告された……」


 わかっている。白翔くんが『やばい』ことはもうとっくにわかっている。でも、大事なのはそこから先の私たちが過ごしてしまった時間だ。私はコートをたぐりよせて、息を吐いた。


「……久留木さん」


 時間通りに私を迎えに来た白翔くんは黒いモッズコートにごついミリタリーブーツだったけれど、大判のチェック柄のマフラーを巻いていた。その明るい色は白翔くんの爽やかな笑顔に似合っている。私がそのマフラーの先を引っ張ると「こんな色は似合いますか?」と白翔くんは嬉しそうに笑った。


「うん、似合うよ」

「よかった。久留木さんにそう言ってもらえてうれしいです」

「大袈裟だよ」

「そのぐらい好きなんです。だから俺と付き合ってください」


 その告白の言葉は必要なことだけで、儀礼的で、さっぱりとしていた。やらしい響きは少しもなく、もう返ってくる答えが分かっている人の言い方だった。


「こんな顔面腫れてる人によくそんなこと言えるね?」

「俺のための名誉の負傷でしょ?」

「……きみって子はへこたれないな」

「痛まないので、俺は」


 彼は顔を真っ赤にして私の手を掴んだりする。そんなところだけピュアで、困る。こっちの頬も赤くなっている気がして、本当に困る。


「久留木さん」

「ちょっと待ってよ、話が速すぎる……」

「俺とは付き合えませんか? どうして無理ですか? とりあえず付き合うだけでも駄目ですか?」

「……駄目ってことはないんだけど、でも……」

「なら、今から久留木さんは俺の彼女でいいですか?」

「……きみはそれでいいの? 私の彼氏でいいの? とりあえずでも、いいの?」

「はい」


 彼は笑った。心底嬉しそうに歯を見せて笑った。だからもう、私も頷くしか道がなかった。




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