こんなに早く1日が過ぎるわけない!

ちびまるフォイ

人類の終わりなき戦い

「もう1年経ったのかぁ。毎年1年すぎるのが早くなっているなぁ」


去年を振り返っても体感3ヶ月程度しかなかった。


「そうだ。本当に1年が早くなっているのか確かめてみよう」


24時間を365日計測できるタイマーをセットして計測をはじめた。

1年を待たずして違和感に気づいた。


「あれ? 変だな。タイマーでは12時間しか経ってないのに、時計だともう日付変わってる」


1秒からカウントしていったタイマーと、実際の時刻がずれている。

胡椒かと思い何度も再設定したがズレは治らない。

それどころか差は広がるばかり。


「このタイマーちゃんとカウントしてるんだろうな?」


今度は1分間、タイマーを見続けることにした。

その間にも自分の脈を測り続けておおよその1秒カウントにズレがないかチェックする。


「……合ってる。タイマーの1秒は間違いなく1秒だ。なのにどうしてずれるんだ」


そうこうしている間にも時計は時刻を進ませていた。

秒針とタイマーを見比べて気づいてしまった。


「これ、時計のほうがおかしいぞ。1秒が明らかに早い!」


家中の時計を確かめてみたがどれも1秒より早くなっている。

時刻がズレないと保証済みの電波時計ですら1秒すぎるのが早い。


「もしかして、本当に1日が早まっているのか……?」


1日ストップウォッチをつけっぱなしにしていると、10時間経ったところで日付が変わった。

2日目はさらに短くなっている。


「た、大変だ!! 1日がどんどん早くなっている!!」


誰かが世界を一巡させようとしているのかわからないが、

この現象を一刻も早く伝えるべく偉い人にアポを取った。


「というわけで、1日がどんどん早まっているんです! 1日が24時間じゃないんです!」


「はっはっは。なに冗談を言っているんですか。明日には頭が冷えて恥ずかしくなりますよ」


「もう明日になってます」


「え!?」


時計ではすでに次の日になっている。


「これでわかったでしょう!? 実は1日がどんどん短くなっているんです!」


「となると……今は祝日でしょうか?」

「へ?」


「あなたの話はわかりましたが、今日はもう祝日ですのでお引取りを。営業時間外です」


「祝日もすでに終わっていますよ。日付変わっていますから」


「ちくしょおおおお!!」


数分で平日から祝日へ、そしてまた平日へと過ぎ去ってしまった。

1日が矢のように過ぎてしまうことに、偉い人たちはついに思い腰をあげた。


「これは地球の危機です! 国籍も人種も関係なく、地球に住む私達全員の問題です!!」


テレビやネット、テレパシーを通じて生物全体にメッセージが伝えられた。

自分の誕生日も結婚記念日も夏休みも数秒で終わってしまい、年齢の数字だけが爆速でカウントアップされていくことに全人類は恐怖を覚え一致団結した。


「1日が早まっている原因は自転速度が早まっているのが原因です。

 そこで我々は地球を1周するベルトを作りました!

 みなさん、この上を走って地球の自転を逆方向にまわしてスピードを落としてください!」


映像では青い地球の中央、胴回りに黒く太いベルトが巻かれていた。

すべての人間はベルトの上に立たされると同じ方向に向けて走らされた。


「自転に負けるなーー!」

「地球をもとの速度に戻すんだーー!」


自分を含めた人たちはインダス川より幅広い人工ベルトの上を必死に走った。

自転に逆らう方向に回転を加えて、加速する自転にブレーキをかける。


そこかしこで体力のない人がバタバタと倒れ、邪魔だからとベルトの外に放り出され海に消える。

まるでルームランナー拷問にでもかけられているような気分。


「地球の自転を取り戻せーー!」


スポ根マンガ顔負けの努力のかいあってついに自転に影響が出た。

すぐさま全人類に向けたメッセージが届く。


「地球のみなさん! ストップ! ストーーップ!!」


メッセージは届くとベルトの動きが止まる。

やっとひと息つけると崩れ落ちた。


「えーーみなさんの努力の成果はあったんですが……その……」


歯切れの悪い言い方に嫌な予感がする。


「頑張りすぎちゃって、自転速度を抑えるどころか、自転止めちゃったみたい……です」


「はぁ!?」


空を見上げてみると、太陽の位置がまったく変わっていない。

ブレーキかけて減速させるどころか停止まで追いやってしまった。


自転が止まったので昼の地域は永久に昼で、夜の地域は永遠に夜。

このままじゃジリジリと太陽に焼かれ続けてミイラになってしまう。


「地球のみなさん、ふたたび立ち上がりましょう!

 今度は弱めで地球の自転方向に向けて進むのです!」


止まった自転を動かすために号令をかけられるものの誰も立ち上がらない。

あれだけ汗水流して頑張って、死んじゃった人もいるのに「もう一度」の絶望は体にこたえる。


仮に、また自転方向に走って動かしてもまた「早すぎた」になったら再び逆方向に走らされて微調整を求められる。

もう立ち上がる気力なんてない。


「地球のみなさん、どうしたんですか!? ほら走って!

 じゃないとずっと日付変わりませんよ!? ほら! ゴーゴー!」


自分はでかいソファに座りながら猫をなでつけてフルーツをかじっていた地球の偉い人は、

ベルトの上でへばっている人の怒りを買って消された。


指導者がいなくなったことで地球自転会議が開かれた。

そこには最初に気づいた自分も集められる。


「ああ、どうすれば地球をふたたびいい感じに自転させられるんだ……」


参加者のひとりが発した絶望のうめきに、誰も答えることができなかった。

そんな中、自分だけはぽろっと言葉を漏らした。


「あの、そもそもなんで地球は自転しているんでしょうか」


「え? 哲学的な話?」


「いえ、どうして地球は自転しはじめたのかなと。きっかけをしりたいんです」


「これだから学のない一般人は……。いいですか、地球の自転は隕石がぶつかったという説と……あ!! この手があった!」


俺のもらした一言がきっかけで、自転の再回転計画がはじまった。

やがて宇宙にはぶつける用のでかい人工衛星が打ち上げられた。


「ようし、これを地球にぶつけて再び自転させるぞ!!」


アナログスティックを倒して人工衛星を地球に向かって降下させた。

大気圏をつきぬけてぐんぐん地表に迫ってくる。

誰もが行く末を見守る中、人権派の人が声をあげた。


「ちょ、ちょっと待ってください! これ落とされた地域はどうなるんですか!?」


「どうって……」


「核爆弾落とされるよりも甚大な被害になりますよ!?」


「今さらいい人ぶるんじゃない! このまま自転しなかったら凍えて死んでしまう半球の人がいるんだ! 安い代償だ!」


「もっと落とす場所を考えてくださいと言っているんです!」


「こら! コントローラーを奪うんじゃない!」

「私がもっとも被害の少ない場所に落としてみせます!」

「いや私のほうがもっとうまく人工衛星を落とせる!!」


「「 あっ! 」」


コントローラーを奪い合う大人たち手からすっぽぬける。

宙へと放り出されたコントローラーは地面に落ちて壊れてしまった。


「大変です!! 人工衛星、制御不能です!」


オペレーターの言葉に全員の目から光が消えた。

制御不能になった人工衛星は予定とは別の場所に着弾して地球を大きく震わせた。


「お、おい……空を見ろ! 太陽の位置が変わっているぞ!」


これまで停止していた太陽の位置が少しづつズレているのが見えた。

自転が再会されたなによりの証拠だった。


「あれ? でもいつもと逆方向に進んでないか?」


「自転が逆方向になったってかまうものか。

 自転が止まってしまうよりずっといい!」


「「 ばんざーい! ばんざーーい!! 」」


多大な労力と犠牲をかけてついに停止していた時間が動き出す。

この歴史的な瞬間を記録しようと、時計を確かめた。


「12時41分、自転再開です!」


時刻を聞いた人たちはある違和感に気づいた。


「……え? さっき13時じゃなかった?」


時計を見上げたとき、秒針はすごい勢いで逆方向に回っている。



「ちがう……! 自転が再開されたんじゃない! 今の衝撃で時間が逆回転してるんだ!」


やがて、人類は復活した恐竜との生存競争がはじまる。

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