第6章

第107話 義勇軍




 今日も冒険者ギルドはいつも通りの風景だ。冒険に出かける者、冒険から帰ってきた者、飯を食う者、酒を飲む者、吟遊詩人の歌声に耳を傾ける者、冒険者同士情報をやりとりしながら談笑する者、ただ話合っている者、みんな人それぞれだ。


俺とピピとファンナは朝飯を食べ終わってのんびりくつろいでいた、ルビーさんとサーシャは相変わらず何の取り止めの無い事を話し合っている。っと、そんな時だった。


「ジローさん、ファンナさん、ギルドマスターが呼んでますよ、今、時間ありますか」


「これは受付のおねえさん、時間ならありますけど」


「それならギルマスの執務室へお二人で行ってください」


「わかりました、何でしょうね、ジローさん」


「さあ? とにかく行ってみようか、ファンナ」


「・・・あたしもいく」


「お、大丈夫かいピピ、難しい話かもしれないぞ」


「・・・そのときはジローのぽけっとのなかでねてる」


「そ、そうかい、それじゃあファンナ、執務室へ行ってみようか」


「はい、ジローさん」


俺とピピとファンナは冒険者ギルドのカウンターの奥にある通路へと行き、通路の一番奥の部屋の前まで来た。ギルドマスターの執務室だ、扉をノックし返事を待つ。


「鍵なら開いているぞ、入れ」


「冒険者のジロー、妖精のピピ、並びに冒険者のファンナ、入ります」


扉を開けて部屋の中へ入る。執務室の中はなかなか広い空間だ。執務机にギルドマスターが座っている。部屋の真ん中辺りに机があり、その両脇にソファーが並んでいる。執務机には何かの書類が散乱している。床は毎日掃除されているのか、綺麗なものだ。


「来たな二人とも、まあ座ってくれ」


「はい、失礼します」


俺とファンナはソファーに腰を掛ける、丁度その時受付のおねえさんが紅茶を持って入って来た。


「お二人共、紅茶でよかったかしら」


「あ、はい、いただきます」


「ありがとうございます」


紅茶を俺達の前の机の上に置いて、受付のおねえさんはその場で待機している。


「ティアンナ、悪いが席を外してくれ」


「いえ、ギルマス、私も同席します」


「ふむ、まあいいか、ジロー、ファンナ、お前達にちょっと話があってな、話というのは他でもない、ボルボさんを知っているな」


「ボルボ教官殿ですか、勿論存じ上げております」


「うむ、そのボルボさんなのだがな、・・・実は義勇軍の団長をしておられる方なのだ」


「義勇軍の、団長・・・ですか」


どうりで最初会った時、只ならぬオーラみたいなものを感じたと思ったら、まさか義勇軍の団長さんだったとは。どうりで厳しい人だった訳だ。


「二人とも、義勇軍について知っているか」


「え~と、確か昔語りにありましたよね、勇者様率いる義勇軍と魔王率いる魔王軍との熾烈な戦いの物語で、勇者様が魔王を討ち取ったお話でしたよね」


「ファンナの言う通りだ、それで間違っていない、今から700年前の出来事だ」


「700年前、・・・ですか・・・」


「どうした、ジロー?」


「いえ」


義勇軍の話なら知っている、ゲーム「ラングサーガ」のど真ん中のストーリーだからな、・・・そうか、ゲーム「ラングサーガ」の話から700年後の世界なのか、この世界は。どうりで似ているところがあるはずだ。・・・それにしてもそうか・・・700年後か・・・


「お話を聞くと義勇軍が今も存続しているように聞こえますが」


「うむ、かつての凄さは今は見る影も無いが、ちゃんと義勇軍は今も存在しているぞ、世代を超えて新しくメンバーを募集してな」


「それでギルドマスター、義勇軍の話が何か」


「うむ、そのボルボさんが今は任務の為にパラス・アテネ王国へ赴いておられる、その時にな、ジローとファンナにくれぐれも宜しく伝えてほしいと言われてな・・・どういう意味かわかるな、ジロー」


「え~と、・・・それはつまり、義勇軍へ入れ、と言う事なのでしょうか」


「端的に言うと義勇軍メンバーに入らないか、というお誘いだな」


「義勇軍メンバーですか・・・」


「一つ言っておくが、何も冒険者を辞めなくてもいいぞ、冒険者の仕事をこなしながら義勇軍メンバーになればいいのだ、どうだ二人とも、義勇軍に入らんか」


「う~ん、そうですねえ・・・」


「あの、ギルドマスター、お聞きしたい事があるのですが」


「何だ、ファンナ」


「その、義勇軍に入ると何をやるのですか」


「おお、そうだったな、まずは説明する、義勇軍というのは大昔とは違って今は組織だって活動しているわけじゃない、ただ、義勇軍にはある目的があってな」


「なんですか、目的って」


「うむ、それはな、人々をあらゆる危機から守る事、それが義勇軍の目的なのだ」


「あらゆる危機から、ですか」


「うむ、それは任務として活動するから無報酬となってしまうがな」


「無報酬ですか、う~ん、それで危険な任務を遂行しろって言うのは、流石にちょっと」


「ファンナはダメか、義勇軍はやりがいがあるぞ」


「すみません、ギルドマスター、無報酬というのはさすがに厳しいです、ウチの家計的にちょっと」


「そうか、ジローはどうだ、義勇軍メンバーにならんか」


「う~ん、そうですねえ、・・・」


無報酬で危険な任務をやらされるって言うのがちょっとなあ、他に何か特典でもあればなあ。


「ギルドマスター、義勇軍メンバーになると何か特典みたいなものってないのでしょうか」


「特典か、一応あるぞ、全ての街や村で宿代がタダになるが」


な、何! 宿代がタダになるのか、それはちょっといいかも。馬小屋での寝泊りは慣れてきたけど、最初から人が寝泊りする為にある宿屋はやはり違うからなあ。


うーむ、どうしたものか。


確かに宿代がタダになるのは魅力的なのだが、その分危険な任務をしなくちゃいけない様だしな。そこがもう一歩踏み出せないというか。


「ギルドマスター、義勇軍の任務とは必ずやらなくてはいけないのでしょうか」


「そんな事はないぞ、今の自分に見合った実力で任務を遂行するかしないかは各自の判断で出来るしな」


「つまり、任務は強制ではない、と言う事でしょうか」


「ああ、そうだ、実力に見合えば任務に従事すればいいし、荷が重いと感じたならば任務をしなくてもよいぞ、どうだジロー、義勇軍メンバーにならんか」


「うーん、そうですね、」


そうか、任務は自由に受ければいいのか、やるやらないの選択肢はある訳か。・・・よーし、いっちょうやってみますか。


「・・・・・・わかりました、俺は義勇軍のメンバーになります」


「おお! そうか、やってくれるかジロー、それでこそ上級しょ・・・ごほん、なんでもない、しかしそうか、ジローは義勇軍をやってくれるか、ならばこれをジローに渡す」


ギルドマスターは執務机の引き出しから何か指輪の様な物を取り出した。


「なんですか、それは」


「うむ、これは義勇軍の証、ブレイブリングだ、この指輪を宿屋などで見せると宿代がタダになる、さあ、ジロー、受け取れ」


俺はギルマスから義勇軍の証の指輪を受け取った。早速指に嵌めてみる、これで俺も義勇軍メンバーの仲間入りか、なんだか緊張してきちゃったよ。本当に大丈夫かな、今更だが危険な任務はあまりしたくはないからなあ、自分で出来る範囲でやっていけばいいだろう。任務も強制じゃないって事だし。


「ありがとうございます、ギルドマスター」


「うむ、ジローよ、あまり気負わず出来る事からやっていけばいいからな、よし、私からの話は以上だ、ジロー、しっかりな」


「は、はい、出来うる限りは何とかやってみます」


「それではギルマス、ジローさんが義勇軍メンバーになったと言う事で、こちらでその様に報告しておきます」


「ああ、よろしく頼むよ、ティアンナ」


「それでは、ギルドマスター、我々はこれで失礼いたします」


「うむ、ご苦労だったな、二人とも、これからも期待しているよ」


「では、これで失礼いたします」


俺達はギルドマスターの執務室を退出した、そうか、とうとう義勇軍に入ってしまったか。なんだか緊張するなあ、俺でも義勇軍が勤まるだろうか、少し不安だ。まあ、冒険者をやりながらって事だし、任務も強制じゃないし、宿代はタダになるし、これで身動き取れないなんて事はないと思うが、まあ、なんとかやってみますか。




おじさん何とかやってみるよ










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