第59話 霧の森がまねくもの





 「サーシャ! そっちに行った!」


「まかせて!・・・そこ、狙ったわよ!」


「エミリーさん! 前に出ないで!」


「わかってるわ!」


「お嬢様はわたくしめがお守り致します」


「ランディウスさん! エミリーの護衛を!」


「はい!」


「ファンナ! 左から来る!」


「はい! ここは通しません!」


「ルビーさん!」


「あいよ! 燃え盛る炎よ! 《ファイアーストーム》!」


「「「 グガアァ・・・ 」」」


ルビーさんの魔法でワイルドウルフの群れをなんとか倒した。ふう~、ようやくモンスターを倒せたか。しかしこうもモンスターとの遭遇が多いとは。


俺達は今、ザンジバル王国にいる。街道を進んでいたのだが、霧の森が近づくにつれてモンスターとの戦闘が多くなってきた。この国の街道警備隊はなにやってんだ、こうもモンスターが出てくるのは異常だ。


「みなさん、お疲れ様でした」


「霧の森まであとちょっとだよ、みんな、気合入れな!」


「「「 はい! 」」」


俺達は近くに止めてある馬車に乗り込む、霧が深くなってきた。


「皆様、宜しいですかな、それでは出発致します」


ギャリソンさんが馬車を発進させた。霧の森はもうすぐだ。


ルビーさんが腕を組み、思案しながら意見を述べた。


「おかしいねえ、こうもモンスターが出てくるのはちょっと異常だよ」


「そうよね、ここってまだ街道よね」


「そうみたいですけど」


サーシャも俺も同意見だ。エミリーとランディウスも、この事態はどこかおかしいと思っている節があるみたいだ。


「この国の警備隊はちゃんと仕事してんのかしら?」


「まあ、国が荒れているって聞きましたからね」


ファンナも何か感じているようだ。


「妖精の森で何かあったって事なんでしょうか」


馬車は街道を外れて、霧の森がある森の方へと進んでいく。暫くして、ギャリソンさんから声が掛かった。


「皆様、これ以上馬車は入れません」


「わかりました、ここで馬車を止めて下さい」


「畏まりました」


俺達は馬車を降りて辺りを警戒する、ピピがゆっくりと飛んでいるから危険は無さそうだ。


「ジローさん、ここはもう霧の森だよ」


「そうですか、馬車に護衛を少数残していくのは、かえって危険かもしれませんね」


「そうだねえ、エミリーお嬢ちゃん、あたい等に付いて来ておくれ」


「やっと出番の様ね、任せなさい」


「それではわたくしめがお嬢様の護衛を致します」


「ランディウスさんもエミリーの護衛をお願いします」


「わかりました」


「サーシャ、魔道具の準備をしておくれ」


「ちょっと待って、・・・はい準備出来た。これがフォグランプよ」


サーシャが手に持っているのは魔道具のフォグランプだ、黄色い明かりが霧の中でも明るく照らしてくれる。


「みんな、この黄色い明かりを目印にしてはぐれない様にね」


「「「 はい 」」」


「ピピ、妖精の森まで案内出来るかい」


「・・・うん、・・・こっち」


俺達はピピの案内で霧の森の中を進んで行く。霧で視界が悪いのにピピは元気に飛んでいる。早く妖精の森にいるであろう仲間たちを助けたいのだろう。


「・・・」


「どうしました、エミリーさん」


「鳥の鳴き声を聞いているのよ」


「鳥ですか?」


「そう、鳥の鳴き声で大体わかるの、今は落ち着いているみたい、近くにモンスターはいないわ」


「わかるのですか」


「ええ、大体はね」


驚いたな、この子意外と盗賊スキル高いじゃないか。やるもんだ。


「足跡とかも見当たらないし、いけるわ、みんな、進みましょう」


「へえ~、やるもんだねえ、あの子」


ルビーさんも感心している。


「そうですね、ただのお転婆娘じゃないって事ですね」


「おっさん、聞こえてるわよ」


「おっと、失礼」


俺達はこのまま霧の森の奥を目指す、妖精の森は霧の森のさらに奥にある様だ。暫く歩いているとピピが騒ぎ出した。


「・・・なにかいるよ」


「何、本当かピピ」


「うん」


「こっちも気づいたわ、鳥が騒いでる」


「総員、警戒態勢、全周囲に気をつけろ」


ここは霧の中だ、どこからモンスターが出て来るかわからないので、気を引き締めないと。


前方の霧の中から何かの気配を感じる、何かが来る。


「サーシャ、進行方向にフォグランプを照らしてくれ」


「わかったわ」


サーシャが前方に向けてフォグランプを照らす。


「な、何よこれ!」


そこには体長3メートルほどの巨大な蜘蛛がいた。あれはジャイアントスパイダーだ。ゲーム、「ラングサーガ」にも登場した森の中で出てくるボスモンスターだ。まさかここで出くわすとは思わなかった、確か毒攻撃をしてきたはずだ。


「ジャイアントスパイダーです! 接近戦は気をつけて、毒攻撃してきます」


「それじゃあ、あたいとサーシャで畳み掛けるよ!」


「ルビー、わかってる、ここは森の中よ、火魔法はダメだからね」


「あたいは駆け出しかい、そんなへましないよ」


「ファンナ、後方の警戒をしてくれ」


「はい」


「エミリーさん、あまり動かないで、動く時は言って」


「わかってるわよ」


「ギャリソンさんとランディウスはエミリーの護衛を」


「畏まりました」


「わかりました」


「ルビーさんの魔法の後、俺は前に出ます」


「あいよ、それじゃあいくよ!氷結の嵐よ!《アイスストーム》!」


ジャイアントスパイダーを中心に氷結魔法が炸裂した。辺りの木に張り巡らされた蜘蛛糸が千切れる。よし、だいぶ効いてる。ジャイアントスパイダーの動きが遅くなった。


このチャンスは逃さん。一気に間合いを詰める。


「そこ! 狙ったわよ!」


サーシャの弓矢もいい感じにダメージを与えている。


「いくぞ!」


ジャイアントスパイダーに接近してショートアックスを持つ手に力を込め、力いっぱい振り下ろす。


「ギギギッ」


よしやったぞ。かなりダメージを与えた。


「ジローさん! 後ろから小さいヤツが来てます!」


何! 後ろを見るとファンナがビックスパイダーと戦っている。


体長1メートルぐらいの蜘蛛型のモンスターだ。


「ファンナ! 対処出来るか!」


「さ、さすがにきついです」


「ランディウス! ファンナのアシスト!」


「はい!」


「おっさん! こっちにも来た!」


ええい! 次々と、ここはヤツの巣か。


「エミリー! 戦えるか!」


「任せなさい! ちゃんと武器を持ってるわ」


「ギャリソンさん! エミリーと二人で対処出来ますか」


「お任せ下さい! お嬢様はわたくしめがお守り致します」


「お願いします!」


「ジローさん! 前!」


え?


「グギッ」


いて、しまった、噛み付かれた。しかしチャンスでもある。むこうから接近してくれた。


「これでどうだ!」


ゼロ距離からショートアックスを渾身の力で振り下ろす。


「ギギャァァ・・・」


ジャイアントスパイダーの頭に攻撃を当てた。クリティカルだ。


ジャイアントスパイダーはピクリとも動かない。


どうやら倒した様だ、みんなは無事かな。


「それ!」


ランディウスがビックスパイダーを倒していた。やるなあ。


「これでもくらいなさい!」


なんと! エミリーがもう一匹のビックスパイダーを倒した。怪我とかしてないよね。


「ふう~、これで終わりかしら」


「はい、お嬢様、これで全滅の様でございます」


「みなさん、お疲れ様でした」


俺もまずは解毒薬を飲む、これで毒は消えるはずだ。


やれやれ、これで先に進めるぞ。みんなやるなあ。



{経験点1000点獲得}



お、久しぶりにファンファーレと共に女性の声が聞こえたぞ。よ~し、先に進もう。妖精の森までもうすぐのはずだ。




おじさん、ついていけるかなあ






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