第45話 マゼランの都




 俺達は馬車の旅をしている、マゼランの都の領主、ミレーヌ伯爵からルビーさん宛に手紙が届いたからだ。


馬車の旅も今日で二日目、もうそろそろマゼランの都が見えてくる頃だろう。そう思っているとデカい城壁が見えてきた、大きい、サラミスの街の何倍もある。城壁の高さは10メートルぐらいだろうか、それにしても横に長い、マゼランの都をぐるりと囲んでいるのだろうけど。


副都と言われるだけの事はある、サラミスの街をもっと大きくした様な都だ。


俺達の乗った馬車はマゼランの都の入り口である門の所まで来た。


城壁を見上げながら、シスターマリーが呻いた。


「ふえ~、大きな街ですね、私マゼランの都は初めてで」


「俺もですよ、まさかここまで大きいとは思いませんでした」


ルビーさんがこの都の事を説明してくれる。


「この都は交通の要所だからねえ、自然と人、物、金が集まるのさ」


「バーミンカム王国の要と言う訳ですね」


「そう言う事、それにしても結構人が並んでいるねえ、街に入るのに時間がかかりそうだよ」


マゼランの都の入り口で何か検問のような事をしている様だ。俺達の乗った馬車は列の後ろに並ぶ、順番が来るまで待っていよう。


サーシャが弓の調子を確かめながら、呟いた。


「退屈ね、ただ待っているのも、あ、そうだジロー、もうそろそろお昼じゃない」


「え~と、そうですね、お腹空きましたね、ここでお昼ご飯にしましょうか」


そこで、ルビーさんがシスターマリーにお願いした。


「シスターマリー、また料理をしてくれるかい、あんたの飯はうまいからねえ」


「いいですよ、じゃあ昨日みたいに準備しましょうか」


「やった、そうこなくっちゃ、サーシャ、お鍋の用意」


「はいはい」


「じゃあ俺は石の竈を作ればいいんですね」


「ファンナさん、お野菜を切って下さい、野菜スープを作ります」


「え、私また野菜を切るんですか、あんまり上手じゃないですけど」


「お願いします、私は火の番をしますから」


「わ、わかりました、何とかやってみます」


街道から少し横に場所を取ってお昼の用意だ。


「お鍋の用意できたわよ」


「じゃあ魔法で水を出すよ・・・それ、《ウォーター》!」


「相変わらず便利よね、魔法って」


「万能じゃないけどねえ」


「竈の準備できましたよ」


「それでは魔道具を設置してっと、火をつけて、・・・お鍋をここへ置いてください」


「りょ~かい」


「味付けに塩と胡椒を入れてっと」


「お野菜を切り終えましたよ」


「ありがとうございます、それをお鍋にいれてください」


「はい」


「人数分の食器の用意できたわよ」


「もう少しお待ちください、もうちょっとしたら煮立ってきますから」


「私達の分まで・・・、よろしいのですか」


「ついでですから、気にしないで食べて下さい」


他のお客さんの分も作ってみんなで食事をする。シスターマリーは気配り上手だな。


「出来ましたよ、食器を持って並んで下さい」


シスターマリーが盛り付け係で、俺達はその前に並んだ。全員に盛り付けると食事をする。


「「「 いただきま~す 」」」


「うん、やっぱりシスターマリーの料理はうまいよ」


「美味しいです」


「ダシが利いていてうまいですね」


塩と胡椒だけでここまでうまくなるのか。いや、それだけじゃないよな、なにかダシに入れているかもしれない。


「おかわり!」


「食うね、サーシャ」


「だって美味しいんだもん」


「まだたくさんありますから、はいどうぞ」


「ありがと」


暖かい料理を食べると何故だかほっとする、野菜スープも美味かった。


「「「 ごちそうさまでした 」」」


「お粗末様でした」


「いや~食った食った、お腹いっぱいだよ~」


「俺もおかわりしちゃいましたよ」


食後の休憩をしてゆっくりのんびり過ごした。その後は後かたづけをして馬車に戻る。馬の方も勝手に草を食(は)んでいた。馬車に乗り込みしばし待つ。すると衛兵が手招きした。どうやら俺達の番の様だ。


「マゼランへようこそ、身分証はあるかい」


「はい、これです」


俺達は冒険者ギルドのギルドカードを見せた。他のお客さんは入市税を払う様だ。


「この街に何しに来たのだ」


衛兵の質問にルビーさんが答える。


「仕事だよ、ミレーヌ伯爵様に呼ばれてね」


「何、ミレーヌ伯爵様に、・・・そうか」


サーシャが衛兵に聞いた。


「何で検問なんかやってんの」


「伯爵様の屋敷に賊が入ったのだ、我々はその為にこうして賊を逃がさないようにしている訳だ」


「なるほど、ご苦労様です」


「ふむ、問題ないな、Cランク二人にFランク二人か・・・よし、通っていいぞ、揉め事は起こさないでくれよ」


「はい」


どうやら無事に街に入る事が出来た様だ。


マゼランの都はものすごい人の多さだった。建物も立派な石造りだったりレンガ造りだったりして建物が多い。活気に満ち溢れている、あちこちで露店があり露天商が声を掛けている。人の数もサラミスの街より断然多い。何だか都会って感じだ。


「凄い人の多さですね、私なんだか怖くなってきました」


「まあ、マゼランの都は都会だからねえ、ファンナ、はぐれるんじゃないよ」


「は、はい」


「もしはぐれたらこの街の冒険者ギルドで集合ね」


「解りました」


御者のおじさんがこちらを振り向き、伝えてきた。


「お客さん、馬車はここまでです、ここで降りて下さい」


「あ、はい」


馬車はこの街の乗合馬車の集まっているところへと行ってしまった。


ルビーさんとサーシャは慣れているのか、二人で話し合っている。


「さてと、ここからは歩きだねぇ」


「ミレーヌ伯爵って今はどっちに居るのかしら、屋敷、それとも領主館」


「さあ?、今の時間帯だと多分領主館じゃないかねえ」


「どっちにしても貴族街の方へ行けばいいのよね」


「そうなるねえ」


シスターマリーがここで別れる。


「それでは私は女神教会に行きますので、ここで失礼します。」


ルビーさんが見送りをした。


「ああ、気を付けて、飯、美味しかったよ」


「じゃあ行きましょうか・・・あれ?・・・ジローは?」


「え!? さっきまで私の後ろに居たのに・・・どこ行っちゃったんでしょうか」


「お~い!ジローー」


「まさか、迷子かい、あちゃあ、ファンナに気を取られていて気付かなかったよ」


「まあでもジローだし、はぐれたら冒険者ギルドに集合って言ってあるし、大丈夫なんじゃない」


「だけどジローさん、この街は初めてって言っていなかったかい」


「そう言えば、この街大きいからね~」


「変な奴に絡まれないといいけどねえ」




 どうしよう、いきなり迷子になってしまった。


まさかこの年で迷子とは、我ながら情けない。もっとちゃんと意識してみんなと一緒に行動しとけばよかった。えーと、とりあえず冒険者ギルドに行くんだよな、こういう時。この街の冒険者ギルドの場所もわからないぞ。誰かに聞いてみよう。道行くおばちゃんに声を掛けた。


「あの~すいません、聞きたい事があるのですが」


「何でしょうか」


「冒険者ギルドへはどう行けばいいでしょうか」


「ああ、それならこの道をまっすぐ行って広場に出て右に進むと大きな建物が見えてきますよ、そこが冒険者ギルドです」


「まっすぐ行って広場を右ですね、どうもありがとうございました」


「あんたおのぼりさんかい、気を付けなよ、この街は治安がいいとは言えないからね」


「そうなんですか、気を付けます、それでは」


俺はマゼランの都の大道りを歩き出した。それにしても人が多いな。流石都会だ。店も多い、食べ物屋やアクセサリーの露店など様々な店がある。


おっと、こうしてキョロキョロしてたからみんなとはぐれたんだよな。大通りを歩いて広場まで来た、ここを右だよな。


すると突然誰かとぶつかった。


「おっと、ごめんよ」


「あ、すいません」


次の瞬間、けたたましくアラーム音が鳴り響いた。


なんだ? ぶつかった相手からアラーム音が聞こえるな。


「ちっ、アラーム音付きか、まったくこれじゃあろくに借りられないじゃないか」


「ちょっとあんた、そのアラーム音」


そう言えば雑貨屋ファンシー&ガーデンでアラーム付きの小袋を買ったんだっけ。と、いう事は俺は今、財布をスられたのか。


「おいあんた! 俺の財布返してもらおうか」


「わかったよ、ほら」


相手を見るとまだ若い女の子だった。14歳ぐらいか。


「おい、・・・銀貨が3枚足りない様だが・・・」


「ちぇ、ちゃっかりしてんな、おっさん」


「ちゃっかりしてんのはお前だよ、油断も隙もねーなおい」


都会はこえーよ。


「これでいいんだろ、ほら、返すよ」


「随分素直だな、人から物を盗んでおいて」


「盗むなんて人聞き悪いよ、ちょっと借りただけだろ」


「財布を取るのは借りるとは言わん、盗むというんだ、立派な犯罪だぞ」


「わかってるよ、だから返しただろ」


「アラーム音がしなかったらどうするつもりだったんだ」


「そりゃ借りるだけさ」


「お前なぁ、役人に突き出されても文句は言えないんだぞ」


「あ~もう、めんどくさ」


「そもそも何でこんな事やってんだ」


「そりゃあおっさん、盗賊ギルドに入る為さ、私は身売りなんて絶対にやらないからね」


「盗賊ギルド? そうか、これだけ大きな街だもんな、それぐらいはあるか」


「おいおっさん、もう行っていいか、私忙しいんだよ」


「お前さ、盗賊ギルドじゃなくて冒険者ギルドに入れば、まっとうにやっている盗賊シーフもいるぞ」


「ぼうけんしゃ~、やめてよおっさん、あんな酔っ払いの集まりみたいなの、私は断然、盗賊ギルドだね」


「そりゃあ酒を飲むことだってあるさ、だけどそれだけじゃないぞ冒険者は、人の役に立つ立派な仕事だ」


「はんっ、どうだか、とにかく私は盗賊ギルドのメンバーになるのさ、邪魔しないでよね」


「いいか、もう二度とこんな真似するなよ、わかっているな」


「はいはい、じゃあねおっさん」


少女と別れて俺は広場を右へと歩く。やっぱ都会はこえーよ。


しばらく歩いて行くと大きな建物が見えてきた。あれがこの街の冒険者ギルドか。冒険者ギルドへと入って行くと怖そうな厳つい顔をした冒険者がこちらを見ている。俺はなるべく目を合わせないように中へと入って行く。


「あ、いたいた。おーいジロー、こっちこっち」


サーシャが手招きしている、どうやら迷子になった俺と合流する為、みんな冒険者ギルドに来ていたようだ。


「いや~、すいませんみなさん、はぐれてしまって」


「まさかジローさんが迷子になるとは思わなかったよ」


「すいませんお手数をおかけしました」


「それはいいよ、それよりどうしようかねえ、もう日も落ちてきたからねえ」


「伯爵の所へは明日の朝、行けばいいんじゃない」


「それもそうだねえ、こんな時間に行っても迷惑だろうし」


「それじゃあ宿の手配ですか、ルビーさん」


「そうだね、悪いけどファンナ、冒険者ギルドの酒場の二階の宿を取ってきてくれるかい」


「4人部屋でいいですよね」


「ああ、頼むよ」


4人部屋? え!? 一部屋借りるのか、男の俺がいるのに?


「ちょっと待って下さい、俺、男ですよ、同じ部屋の宿を取るんですか」


「そうだよ、もしかしてジローさん、あたい等を襲うかい」


「いいえ、滅相もない」


「じゃあ決まりだね、金はあたいが出すから心配しなくてもいいよ」


「しかし、よろしいのですか」


「ジローさんなら安心だよ、別に襲おうが襲わなかろうが・・・ね」


「な、何もしません」


「ほらね、ジローはこういう人なのよね~・・・」


しばらくしてファンナが戻って来た。鍵を1つ持っている様だ。


「お部屋取れましたよ」


「ありがとうよファンナ。それじゃあ明日も早いし、少しだけ飲んで寝るかねえ」


「すいませ~ん! あたし蜂蜜酒ミードね」


「あたいは葡萄酒ぶどうしゅだよ!」


「私はエールを下さい」


みんな飲む気満々だ、俺はどうしようかな、・・・一杯だけにしとくか。


「すいませ~ん、エール下さい」


「はいはい、ただいま~」


こうして今日という一日が終わろうとしていく。冒険者ギルドの酒場ってのはどこも変わらないな。エールを一杯だけ飲んで宿の部屋で眠るのだった。


・・・特に何もなく・・・




おじさんは紳士だからね・・・








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